新潟県中越地震~山古志牛の救出作戦で出発・到着地点をつなぐ。孤立地域をフォローしたMCA無線
「やってみるしかない」
「使えるか使えないか、やってみるしかない」。
無線機を山古志村に届けに向かう信越移動無線センターのスタッフは、祈るような気持ちでした。新潟県中越地方は山間地が多いため、MCA無線(mcAccess)のサービスエリア外となる地域も多く、貸し出しても電波が届
かず現場の期待に応えられない可能性もあったからです。
「山が震えた」と言われるほどの激しい揺れによって、新潟県中越地方の山古志村(現・長岡市)、川口町、小千谷市、長岡市などの山あいでは道路やライフラインが寸断され、集落が孤立するケースが多数発生しました。
その一つとなった山古志村は、海外でもその名を知られる「錦鯉」と、国の重要無形民俗文化財に指定されている闘牛「牛の角突き」で有名な村です。また、地域の農家で生産するブランド肉牛「山古志牛」もよく知られ、牛はまさに村の財産でした。
山古志牛の「空輸救出作戦」
地震発生から数日後、その山古志牛1100頭が孤立した村に取り残され、すでに3日ほど水が与えられないまま大切な命が危ぶまれているという情報が入りました。牛を救えるかどうか、それは村の死活問題と言えました。そこで発案されたのが、山古志牛の「空輸救出作戦」です。これは、山古志村の牧場から長岡市のスキー場まで牛をヘリコプターで搬送するという前代未聞のもの。
そして、両地点をつなぎ情報のやりとりを行う通信手段として、各被災地に貸し出され、災害下でも活躍を見せていたmcAccessに白羽の矢が立ったのです。貸出要請を受けた信越移動無線センターは、ただちに信越総合通信局の許可を取り、その日のうちに無線機の貸与を決定しました。ただし実際の現場は山間地で、通信の可否は微妙な箇所でした。救出作戦がうまくいくかは不透明で、言うならば「賭け」でした。
結果は吉と出ました。mcAccessは見事牧場とスキー場の両地域での通信に成功し山古志牛の搬送を支援。1回の飛行につき20回以上の交信に利用されて作戦を成功に導き、山間部での通信性能の高さを証明しました。
信越移動無線センターでは、山古志村以外にも被災した市町村より貸し出し要請を受けており、地震発生の翌々日からmcAccessを届けてまわっていました。道路の寸断によって、通常なら1時間半程度で到着できる地点でも、迂回また迂回の連続で10時間以上かかってしまうこともあるなど、混乱のなかでの貸し出し作業でした。
この記事は『防災・危機管理読本 2008』 に掲載されたものです
初版 平成19年11月1日
発行 全国移動無線センター協議会
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