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ひとり、万引きしなかった少女

血縁関係の希薄な共同体であたかもな疑似家族を営む柴田家。祖母、父、母、息子に、冒頭で柴田家に加わる娘、そして少女。祖母は前夫(故人)が後妻との間にもうけた息子夫婦から金をかすめ取り、母は職場のクリーニング店工場から衣類に紛れ込んだ物品をくすね取り、父と息子、それに娘はスーパーからの万引きを繰り返す、万引き家族。そんな家族の中、ひとりだけ万引きに手を染めない少女、亜紀(=松岡茉優)がいる。

亜紀は前述の祖母が金をかすめ取る夫婦の娘である(なぜ両親ではなく祖母と暮らしているか、経緯は明らかにはされていない)。そして、主人公である父を中心に営まれる、親子関係に重きを置いた疑似家族の中で、亜紀にだけは家族としての役割がない。

それぞれが万引き行為で家計に協力している中、亜紀はJK見学店で勤務はしているがその報酬は家計の足しにはしていない。その風俗店の常連客で「4番さん」という発話障害の男がいて、亜紀にとっての心のよりどころとなっている。柴田家の他の面々は柴田家にしか心のよりどころがないというのに。

終盤、家族は警察に捕まることをきっかけに解体され、取り調べ中もその後の釈放後や服役中も家族のことを想うが、だれも亜紀のことは気にかけず、亜紀もだれも気にしていない。それどころか警察のシーン以降は亜紀は登場しない。

このことを踏まえると亜紀は家族ではないみたいだ。だが、本作を観ただれしもが亜紀が家族ではないとは思わないだろう(それは亜紀が柴田家で見せる笑顔につきる!あれこそ映画になしえる表現!)。助け合ったり励まし合ったりしなくてもいい家族の側面を亜紀が提示している。柴田家に役割のない亜紀の、「万引き家族」における役割。

本作が世界的な注目を浴びるきっかけとなったカンヌ国際映画祭が今頃に今年も開催されているはずだった。今回は例年通りにはいかず、秋口にいつもとは違った形での開催が検討されているらしい。

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