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【不定期連載】経済法入門(第2回)

 前回は立法趣旨についてみたので、今回はどんな制度があるのかについて俯瞰できればと思っています。基本書なり、予備校のテキストに書いてあることと基本同じだと思うので、知ってるって人は読まなくて大丈夫です。論点について除けば試験範囲の大枠はこれになると思います。

・2021/05/22追記
 公正取引委員会のホームページで、独禁法についてのパンフレットがあったので、こちらも見てみてください(下の説明よりわかりやすいです)。24頁なのですぐ読めます!また、白石先生の条文解説もいいと思います。

1.規制類型

1.1.総論
 規制類型としては、以下の5つがあります。


・不当な取引制限(法3条、2条6項)
・事業者団体規制(法8条)
・私的独占(法3条、2条5項)
・不公正な取引方法(法19条、2条9項、一般指定)(注1
・企業結合規制(法10条、13条、14条、15条、15条の2、15条の3、16条)

 前回も少し触れましたが、試験の出題としてはこの中から出ます。経済法は第1問・第2問の2つに分かれているので、この中から少なくとも2つは出ることとなります。
 さて、今後の流れとしては、この順序で説明していければと思います(事業者団体規制が不公正な取引方法の後に来るかも)。基本書や演習書と同じ流れで作っていくので、そちらを参照しながら見るといいと思います。

1.2.各論
 とはいえ、条文と名称だけ出されてもいまいちよくわからないと思うので、少しだけイメージをお伝えできればと思います。説明は簡単なものなので、あまりわからなくても今は大丈夫です(再度、個々の規制類型で具体的に説明します)。

1.2.1.不当な取引制限
 イメージとしては、会社間で話し合いをして、値段を一斉にあげたり、これ以上下げないようにしたりするものです。「競争回避型」と呼ばれたりするのですが、その名の通り、他の企業と協力して、競争をやめてしまう類型です。A社とB社が製品について「〇円に統一しよう」といったお金について合意することを思い浮かべてもらえれば一番わかりやすいと思います。

1.2.2.事業者団体規制
 これについては、説明が難しいのですが、○○組合とか○○協会などの事業者(会社)の集まりみたいなやつの行為を規制するものです。団体でやるほうが影響力も大きく、競争がなされなくなってしまう恐れが高いので規制されています。具体的には、団体として、「価格は〇円に統一する!」とか、「あいつは邪魔だから商品がいきわたらないようにして営業できなくしてやろう!」とかみたいなものを問題としています。
 簡単に言えば、上記の不当な取引制限は主体が個体であるのに対し、事業団体は、その一つの塊(団体)の行為を対象としています(α社ではなく、β社γ社等の所属する△協会について)。

1.2.3.私的独占
 これは「競争排除型」と呼ばれています。名前の通り、競争者を排除することによって、自分が自由に価格設定などを行えるようにするものを規制しています。
 例えば、A社(製造業者)がB社(加工・販売業者)に物(甲)を売る場合を考えてみましょう。この場合に、B社がA社に対し、自分以外と取引をしないことを条件に取引をするといった場合、A社はその他の業者に甲を売れなくなってしまいます。そして、この甲がA社しか作れない物だとしたら、他の業者は甲の加工販売ができなくなってしまうので、結局B社の独占市場となってしまい、自由にできてしまいます。これを問題とするものです。

1.2.4.不公正な取引方法
 不公正な取引方法については、一義的にこうだというのは難しいです。条文を見てもらえればわかると思いますが、いろいろな類型があるからです。あえていうのなら、不当な取引制限や私的独占までは至っていないもの、すなわち、自由に決めることができるとまではいえないけど、それに近しい状態(蓋然性?)になっているので、是正する必要がある類型であるといえるかもしれません。まあ、不公正な取引方法の先に私的独占・不当な取引制限があると思ってくれればいいです(注2)。
 例としては、赤字価格で売って、競争者が脱落したところで、値上げをすること(不当廉売)があげられます。不当廉売によって、価格を自由に決めることができるようになれば、私的独占にあたりますが、そこまでいかない場合もあります。それを規制しているのが不公正な取引方法です(注3)。

1.2.5.企業結合規制
 これは、合併する場合などに問題となります。独禁法は、市場の競争がなされるようにするものですが、合併がなされてしまうと、競争がなされなくなってしまう恐れがあります。どういうことかといいますと、例えば、甲という部品を供給するメーカーがA社とB社しかいない場合に、この2社が吸収合併したとします。そうすると、この甲メーカーは、1社となってしまうので、この会社が自由に価格設定できるようになってしまいます。わかりやすく言えば、合併する場合も、実質的に見れば両会社が協力しているのと同視できるのではないかということです(もっとも、合併というのは両会社がより効率性を求めてなされるので、少し考えることがあるのでは…?という問題意識はありますが)。
 とはいえ、企業決法規制は条文を見てもらえればわかる通り、適用事例がわかりやすいと思うので、そんなに身構えなくていいと思います。

2.エンフォースメント

2.1.エンフォースメントとは?
 エンフォースメントとは、上記の規制に反することがなされた場合になされる法的措置のことです。

・行政処分
・刑事罰
・民事訴訟

の3つがあります。多分中身を見ていったほうがわかりやすいので、それぞれに分けてみていきましょう。基本的には、そんなのがあるんだと思ってくれればいいです(基本書等で時間のある時に確認してみてください)。なお、エンフォースメントについては、年度によっては聞かれることがあるので、最終的には条文の適示とあてはめができるようになっているといいと思います(注4)。

2.2.行政処分

・排除措置命令(法7条、20条)
・課徴金納付命令(法7条の2~7条の9)(☆改正)
・公表
・事後手続

 おさえてくものとしては上2つなので、それだけ説明します。
 まず、排除措置命令については、その名前の通り、公正取引委員が行為の差し止めや必要な措置を講じることです。例としては、不当な取引制限で、話し合いを行っている事業者がいたら、その話し合いをやめさせ、今後そんなことをしないように約束させるなどがあります。簡単に言えば、現状の是正といえます。
 次に、課徴金納付命令についてですが、反則金のようなものです。まあ、罰金をイメージしてもらえればわかりやすいかもしれません。過去の司法試験では、この額を計算させる問題が出題されていたので、条文は押さえておくことをお勧めします。

2.3.刑事罰

・法89条
・法95条

 会社法に刑事罰があるのと同じようなものです。出題されることはないと思うので、そんなのがあるんだぐらいに思ってくれればいいと思います。

2.4.民事訴訟

・損害賠償請求(法25条)
・差止請求(法24条)

 これについても出題されることはないと思います。被害者は、加害者に対して損害賠償することができます。また、不公正な取引方法(のみ)に当たる行為については、差止請求が認められています。

2.5.勉強方針
 エンフォースメントについては、時間があるときに本などで確認するというのでいいと思います。一切出ないということではないので、まったくやらないのは怖いですが、まずは規制の要件について検討できるようになることが先決なため、一通り終わった後に勉強するでもいいと思います。

3.まとめ

 今回はざっと規制の外観について確認しました。どのようなものがあって、これから自分は何を勉強していくのかということがわかってもらえればそれで充分です。

4.〔コラム〕司法試験の採点実感を読んで

4.1.採点方針

出題した二問とも,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)上の制度・規定の趣旨及び内容を正確に理解し,問題文の行為が市場における競争にどのような影響を与えるのかを念頭に置いて,問題文に記載された事実関係から的確に問題点を把握し,法解釈を行い,事実関係を丹念に検討した上で要件の当てはめができるか,それらが論理的かという点を評価しようとした。
特に,独占禁止法の基本を正確に理解し,これに基づいて検討することができているかを重点的に見ようとしており,公表されている公正取引委員会(以下「公取委」という。)の考え方やガイドライン等について細かな知識を求めることはしていない。

4.2.今後の出題

今後も,独占禁止法の基礎的知識の正確な理解,問題となる行為が市場における競争に与える影響の洞察力,事実関係の検討能力及び論理性・説得性を求めることに変わりはないと考えられる。

4.3.今後の法科大学院に求めるもの

経済法の問題は,不必要に細かな知識や過度に高度な知識を要求するものではない。経済法の基本的な考え方を正確に理解し,これを多様な事例に応用できる力を身に付けているかを見ようとするものである。法科大学院は,出題の意図したところを正確に理解し,引き続き,知識偏重ではなく,基本的知識を正確に習得し,それを的確に使いこなせる能力の育成に力を注いでいただくとともに,論述においては,適用条文の選択や違反要件の意義を正確に示した上,問題となる行為が市場における競争にどのように影響するかを念頭に置いて,事実関係を丹念に検討して要件に当てはめ,そして,それを箇条書き的に列挙するのではなく,論理的・説得的に表現することができるように教育してほしい

4.4.私見
 上の3つは令和2年度の司法試験採点実感から抜粋したものです。本年度の採点実感についても同様のことが書かれると思われるので、分析してみましょう。
 まず、採点方針についてですが、基本的な事項が理解できているか、事実をきちんとあてはめられているのかという点から採点するとしています。そして、最新の議論や細かい点についてまで勉強している必要はなく、基本的理解に主軸を置いていると言っています。
 次に、今後の出題についてですが、採点方針と同じことを言っています。なので、今後も基本的理解を試す問題が出題されることとなります。
 最後に、法科大学院に求めるものについてですが、基本的理解の定着、条文選択→定義→説得的・論理的なあてはめ、ができるように教育してほしいと言っています。これは、一見すると当たり前ことを言っていると思われますが、これを求めるということは、一般的な受験生としてこのレベルに到達している人が多くないということのあらわれであると思います。
 以上のことは、ほぼ同じことを言っており、受験生としては、基本的理解をしっかりと身に着け、答案上では、条文選択、定義、あてはめ、をしっかりと展開していくことが大切になってきます。なので、これから経済法を勉強する人は焦らなくていいので、一つ一つの理解を大事に勉強していってほしいと思います。
※今後も気が向いたら、司法試験について何か言及するかもしれません。

★文末脚注

注1:一般指定とは、六法だと独禁法の後にある「不公正な取引方法」(施行昭和57・6・18公取委告15)のことを指します。不公正な取引方法の説明でやるので、そんなのがあるんだというくらいでいいと思いますが、法2条9項6号の「公正取引委員会が指定するもの」が一般指定になります。条文としては独禁法以外にも一般指定を引くことがあるんだということを抑えてくれれば大丈夫です。

注2:適切な表現かは微妙ですが、刑法でいうところの結果的加重犯みたいなイメージです。暴行と傷害みたいな。

注3:後で論じますが、私的独占と不公正な取引方法は行為として重なり合いがあります。そのため、不公正な取引方法には「不当廉売」についての条文があるのですが、不当廉売行為に当たる場合でも、私的独占に該当する場合があります。なので、完全に別物ではないんだということだけここではおさえてください(不公正な取引方法をやるまで忘れてても大丈夫です)。

注4:エンフォースメントについては今後特に言及することはないので、基本書や判例を読んで確認してみてください。なお、課徴金規制については改正されているので、泉水先生の補遺を参照するといいと思います。

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