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【不定期連載】経済法入門(第3回)

 今回から個々の規制類型についてみていきたいと思います。
 まずは、「不当な取引制限」です。結構長くなるので、何回かに分けて説明できればと考えています。一応、以下これからの予定です(6月中には終わらせたい…)。

第3回:「不当な取引制限の内容・要件」「事業者」「他の事業者」
第4回:「共同して」「相互に…拘束」
第5回:「一定の取引分野における競争を実質的に制限」
第6回:「公共の利益に反して」「離脱」
第7回:「入札談合」
第8回:「非ハードコアカルテル」

 まだまだ先が長いですが、頑張って執筆しているので、ゆっくりお付き合いください。
 今回は、内容や要件についてです。要件の中身についても少し触れます。自分の持ってる論証とか見ればだいたい書いてあると思うので、ここもわかる人は軽く流して大丈夫です。

1.不当な取引制限とは何か?

1.1.存在意義
 不当な取引制限とは何でしょうか。ある意味今回のメインといっていいと思います。
 この問いへの模範回答を見てみましょう。公正取引委員会のQ&Aコーナーでは、以下のように回答しています。

 事業者又は事業者団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い,本来,各事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決め,競争を制限する行為は「カルテル」(不当な取引制限)として禁止されています。これは,紳士協定,口頭の約束など,どんな形で申合せが行われたかにかかわりません。カルテルは,商品の価格を不当につり上げると同時に,非効率な事業者を温存し,経済を停滞させるため,世界各国でも厳しく規制されています。
 【また,国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札の際,入札に参加する事業者たちが事前に相談して,受注事業者や受注金額などを決めてしまう「入札談合」も不当な取引制限のひとつとして禁止されています。事業者間の競争が正しく行われていれば,より安く発注できた可能性があり,入札談合は税金の無駄使いにもつながります。本来,入札は厳正な競争の下に行われるべきものであり,入札談合は公共の利益を損なう非常に悪質な行為です。】

 文章がきれいですね。文句のつけようのない文章です。これをもう少し自分なりにかみ砕いて説明したいと思います(括弧書きについては入札談合の回で取り上げます)。
 まず、前々回の復習ですが、独禁法の存在意義は何だったのかを思い出してみましょう。覚えていますか?覚えていない人は今考えてみましょう。競争を回避したり、排除したりすることによって、一般消費者を犠牲にして自己の利益をはかることを防止しようとするものでしたね。そうであるなら、不当な取引制限は、この趣旨に抵触するもの、すなわち、反競争的なものです。
 ここで、具体例で考えてみましょう。

 A社とB社が甲を製造販売しているとします。なお、甲を製造しているのは、この2社のみです。この2社が話し合いをして、価格を〇円と統一しました。この場合に何が問題となるでしょうか。

 多分読んですぐわかったと思いますが、この2社が価格の統一を図ることによって、市場での甲の価格は同一となってしまいます。なぜなら、相手と競い合うのは大変ですし、相手に勝つためには、より安くより品質のいい商品の開発・販売をしなくてはならないことからすれば、価格の維持が簡単にできるこの合意を反故にする意味はないからです。では、この場合の影響を考えたいのですが、特に戦う相手もいなければ別に頑張る必要もないので、より安く、より品質の良い物が市場に出回らなくなりますね。つまり、競争相手と何らかの反競争的な合意をする→その取り決めが守られる(実効性確保)→市場への悪影響がでうる、ことから不当な取引制限はよくないよね、となっています(注1)。

1.2.類型
 典型例としては、カルテル、入札談合があげられます。以下、軽く見てみましょう。

1.2.1.カルテル
 まず、カルテルとは何でしょう?
 「独立の事業者間の合意により、価格を引き上げ、維持し、あるいは生産量の制限を行うこと。」(高橋和之他編「法律学小辞典〔第5版〕」(有斐閣、2016年)152頁)とされています。もっとも、合意内容としては、価格や供給量以外にも、シェア、取引先、営業地域等様々な内容があります。内容として明らかに良くないやつから、微妙なラインのやつまで色々ありますが、そういった何らかの協調的行為をすることの合意をすることです。価格以外にも不当な取引制限になるということをおさえておいてくれればいいです。
   なお、「講学上、競争制限以外の目的や効果をもちそうにない価格、生産量、取引先の制限や入札談合をハードコアカルテルと呼び、その他の非ハードコアカルテルと区別することがあ」(同153頁)ります。価格、生産量、取引先等、明らかに良くないのがハードコアカルテル、その他微妙なラインのものが非ハードコアカルテルです。例えば価格なんかが合意されれば、上のように反競争的効果が生じますね。他方で、共同購入するような場合はどうでしょう。これは非ハードコアカルテルなのですが、え、別に良くない?って思った人が多いのではないでしょうか。そんな感じのどうなんだろうって思うようなやつが非ハードコアカルテルです。

1.2.2.入札談合
 では、入札談合とは何でしょう?
 「典型的には官公庁の入札において、入札参加者間で受注すべき者を決定し、他の入札参加者は受注すべき者よりも高い価格を入札することなどにより受注すべき者が受注できるようにする行為」(菅久修一編「独占禁止法〔第4版〕」17頁(商事法務、2020年))をいいます。役務提供の場合の入札とは、簡単に言えば、オークションの逆です。最も低い価格で入札した人に仕事が回されることとなります(もちろん、最低ラインはありますが)。なので、本来は競争により低い価格となったり、誰が受注できるかは分からないのです。しかし、合意によって、みんな高い金額に設定しておけば、それだけ受注価格も高くなります。また、特定の人より価格を少し上げれば任意に受注者を選出することができます。なので、問題意識としては特に異なることはありません。

※ハードコアカルテル、非ハードコアカルテル、入札談合、については答案を書く上で書き方に特徴があるので、頭の片隅にでも置いておいてください(第7回、第8回で説明します)。

2.要件

 要件については、まず法3条を見てみましょう。

第三条
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

 法3条はこのような規定になっており、前段では「私的独占」を、後段では「不当な取引制限」を禁止しています。今回問題としているのは、後段の方ですね。なお、論文で書く際には、法3条後段についても適示しましょう。
 では、「不当な取引制限」についてはどこにあるでしょうか?これは、法2条6項に書いてあります。開いてみましょう(下線部、番号については筆者が記載)。

第二条
(略)
⑹ この法律において「不当な取引制限」とは、①事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、②他の事業者と③共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等④相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、⑦公共の利益に反して、⑤一定の取引分野における⑥競争を実質的に制限することをいう。
(略)

 長いですね。ここから、必要な要件を引っ張ってくると

①「事業者」
②「他の事業者」
③「共同して」
④「相互に…拘束」
⑤「一定の取引分野」
⑥「競争を実質的に制限」
⑦「公共の利益に反して」

となります(注2)。論文では、これらについて意義を論じたうえで、あてはめをしていきます。
 もう少し話すと、①②③④が「行為要件」、⑤⑥⑦が「弊害要件」と呼ばれていたりします。本を読むときにこの言葉が出てきたら、これを指すとわかっていると読みやすいと思います。なお、⑦の順番について気になった人がいると思いますが、これは、「公共の利益に反して」の説明で述べたいと思います(注3)。
 では、次から要件について確認していこうと思います。

3.「事業者」

 「事業者」とはどういった者を指すのでしょうか。これについては、親切なことに法2条1項に条文が存在します。なので、その条文をとりあえず見てみましょうか。

第二条
この法律において「事業者」とは、商業、工業、金融業、その他の事業を行う者をいう。事業者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項又は第三章の規定の適用については、これを事業者とみなす。
⑵ (略)

 「商業」、「工業」、「金融業」、「その他事業」「を行う者」となっています。「商業」「工業」「金融業」はいいでしょう。わからなければ、広辞苑や国語辞典でも引いてください。
 では、「その他事業」って何なのでしょうか。前3つにあてはまらないものはたくさんあると思うのですが、これらが全部「その他事業」に含まれるのか、それとも、わりと限定しているのでしょうか。また、国や地方公共団体なども含まれるのでしょうか。
 これについては、 都営芝浦と畜場事件(最判平成元年12月14日・昭和61年(オ)第655号〔芝浦屠場〕民集43巻12号2078頁、審決集36巻570頁)があります〔判例1〕。この判例は、『なんらかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動を指し、その主体の法的性質は問うところではない』とします。
 簡単に言えば、物を売ったり、サービスの提供に対してお金をとるような活動をしている者であれば、「事業者」に当たるということです。商法でいう「商人」みたいなものですかね(営利性(注4)の話ありましたよね)。そのため、専ら純粋な社会福祉活動をしている者などは「事業者」に該当しないことになりますね。
 そんな感じで、この「事業者」で否定される事案はないので、「商業、「工業」、「金融業」のどれかに当たれば、それにあたる旨を適示し、当たらない場合には、「その他事業」にあたるのかを定義を出して端的に当てはめればいいと思います。

4.「他の事業者」

 「事業者」については同じです。では、「他の」って何でしょう?「事業者」であれば全部「他の事業者」にいれてしまっていいのでしょうか?
 ここで、趣旨というか、上の説明に戻って考えてみましょう。事業者としては、なるべく競争を避けたいわけです。そのために、競争をやめようという合意をするわけです。そうだとすれば、この相手方っていうのは競争相手でないと意味ないですよね。例えば、車を売っている会社が飛行機を売っている会社と合意をしたって意味がないじゃないですか。普通の人は飛行機なんて買いませんし。なので、競争関係が必要です。この点については、新聞販路協定事件(東京高判昭和28年3月9日・昭和26年(行ナ)第10号〔新聞販路協定〕高民集6巻9号435頁、審決集4巻145頁)も競争関係を要求しています〔判例2〕。
 もっとも、常にこの考え方が妥当するというわけではありません。例えば、A社(車)、B社(車)、C社(飛行機)がいるとして、A社とB社が競争相手だとします。ここで、3社が合意をしたとしても、C社は飛行機という別の物を扱う会社であることからすれば、「他の事業者」に当たらなそうです。しかしながら、C社はA社の親会社であり、このC社が取り次いでくれたおかげで、この合意を取り付けることに成功した場合はどうでしょう。反競争状態を是正しようとする独禁法からすれば、C社が重要な役割を担っているにもかかわらず、C社を除外することは妥当でしょうか。
 この点については、シール談合事件(東京高判平成5年12月14日・平成5年(の)第1号〔シール談合刑事〕高刑集46巻3号322頁、審決集40巻776頁)では、「この「事業者」を同質的競争関係にある者に限るとか、取引段階を同じくする者であることが必要不可欠であるとする考えには賛成できない」としており〔判例3〕、共同行為者の一人としてカルテルの存続に不可欠な行動に関与していれば、競争関係にある事業者でなくても、「事業者」にあたることとなります(稗貫俊文「判批」金井貴嗣他編「経済法判例・審決百選〔第2版〕」41頁(2017年))。
 以上から、「他の事業者」といえるには、実質的競争関係があることが必要です。そして、実質的競争関係があるといえるには、その事業者の同意なくしては本件カルテルが成立しない関係にあったといえることが必要になります。
 難しく書きましたが、その者の関与ってどういう影響を与えるものなのかを考えてみるといいと思います。答案上は、事業者にあたることと実質的競争関係があることを論じてくれればいいと思います。

5.まとめ 

 不当な取引制限のイメージについては、今後の論点や非ハードコアカルテルを考えるときや条文選択の際に役に立つと思うので、どういうものかを人に話せるくらいに具体化しておくといいと思います。要件については、条文から引っ張れるようにしましょう。「事業者」と「他の事業者」については、そういうものだと思ってくれれば大丈夫です。

☆論点1:「その他の事業を行う者」
 何らかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反復継続してうける経済活動を指し、その主体の法的性質は問うところではない。
☆論点2:「他の事業者」性
 「事業者」との間で実質的競争関係の存することが必要であり、共同行為者の一人としてカルテルの存続に不可欠な行動に関与していれば、実質的競争関係が認められる。

※論証例はあくまで参考程度です。また、細かい論点は記載していないので、注意してください。例えば、泉水文雄「経済法入門」(有斐閣、2018年)を読むといいと思います。

6.判例 

〔判例1〕都営芝浦と畜場事件(百選1)

・判旨
 独占禁止法二条一項は、事業者とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいうと規定しており、この事業はなんらかの経済的利益の供給に対応し反対給付を反覆継続して受ける経済活動を指し、その主体の法的性格は問うところではないから、地方公共団体も、同法の適用除外規定がない以上、かかる経済活動の主体たる関係において事業者に当たると解すべきである。したがって、地方公共団体がと場料を徴収してと畜場事業を経営する場合には、と畜場法による料金認可制度の下においても不当廉売規制を受けるものというべきである。

〔判例2〕新聞販路協定事件(百選18)

・判旨
 ここにいう事業者とは法律の規定の文言の上ではなんらの限定はないけれども、相互に競争関係にある独立の事業者と解するのを相当とする。共同行為はかかる事業者が共同して相互に一定の制限を課し、その自由な事業活動を拘束するところに成立するものであつて、その各当事者に一定の事業活動の制限を共通に設定することを本質とするものである。

〔判例3〕シール談合事件(百選19)

・判旨
 独禁法二条一項は、「事業者」の定義として「商業、工業、金融 業その他の事業を行う者をいう。」と規定するのみであるが、事業者の行う共同行為は「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」内容のものであることが必要であるから、共同行為の主体となる者がそのような行為をなし得る立場にある者に限られることは理の当然であり、その限りでここにいう「事業者」は無限定ではないことになる。しかし、丁1は、前記一、1のとおり自社が指名業者に選定されなかったため、指名業者である戊1に代わって談合に参加し、指 名業者三社もそれを認め共同して談合を繰り返していたもので、丁1の同意なくしては本件入札の談合が成立しない関係にあったのであるから、丁1もその限りでは 他の指名業者三社と実質的には競争関係にあったのであり、立場の相違があったとしてもここにいう「事業者」というに差し支えがない。この「事業者」を同質的競争関係にある者に限るとか、取引段階を同じくする者であることが必要不可欠であるとする考えには賛成できない。

★文末脚注

注1: 結構回りくどいというか、重複する説明をしたのですが、これは後々、なんでこの要件がいるのかというのを考えるうえで大切になるからです(あんまり行間を読むレジュメにしたくないので)。また、今の事例は価格の合意という典型事例を書いてみたのですが、少しずれた事例(悩むやつ)の時にも、こうやって市場への影響を考えてほしいという趣旨です。

注2: 後で私的独占を勉強する際に条文を見ればわかると思いますが、①②⑤⑥⑦については、再度登場します。これに「排除」という要件が加われば(排除型)私的独占の要件は終わりです。「排除」の定義を抑えればいいだけですね。つまり、要件がかぶってくるので比較的覚えることは少ないということです(ほかの類型でもあります)。裏を返せば、ここでつまずいてしまうと後々にも響いてくるということでもあります。そのため、不当な取引制限の要件について丁寧に勉強していきましょう。

注3:気になるという人向けに。基本的には、①ないし⑥が満たされれば、市場に対する悪影響が生じているということになります。なので、原則違法といえます。もっとも、その行為に何か意味がある場合があるかもしれません。例えば、一般消費者の命を守るためにこうする必要があったんだとなると、話は変わってきますよね。なぜなら、思い出してほしいのですが、独禁法の究極目的は、一般消費者の利益を守ることにあったはずです。そんな感じで、例外的に正当化事由があれば、不当な取引制限に該当しなくなるといった感じです。わかりやすく言えば、刑法でいう違法性阻却自由や、憲法の正当化論証のようなものです。そのため、一番最後に検討することとなっています。

注4:営利とは、資本的計算方法のもとに少なくとも収支相償うことが予定されていることを意味します(近藤光男「商法総則・商行為法」(有斐閣法律学叢書、2020年)20頁)。

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