最低限の司法試験対策〜焦っている人へ〜
1 総論
お久しぶりです。
最近ロースクール既習1年目(2年生)の後輩から司法試験の相談を受けたので、司法試験について改めて書こうと思います。
近年制度改革等があり、司法試験受験生もなかなか大変であるように見受けられます。特にロースクール生(現2年生)は、司法試験直前まで授業を受けながら、司法試験対策もしなければならないということで、時間的にも厳しく、焦っている人も多いのではないでしょうか。
そこで、合格のための最低限の司法試験対策を考えてみたいと思います。もっとも、あくまで私見ですので、これをたたき台として自分の計画を策定していただければと思います。
なお、基本的には独学の方をメインとしております。予備校に通っている方は、予備校の指導に則って学習を行うが一番だと思います。
※書籍については、リンクを貼っております。各書籍の出版社のサイトに飛べます(amazonとかではないです。)。
2 司法試験制度改革
不要な方は読み飛ばしてください。
⑴ 改革内容
来年度(令和5年度)から、ロースクール最終学年でも司法試験を受験することができるようになりました。
そのため、来年度以降の受験生(ロー最終学年)は、扱いとして、ロースクール1年目に予備試験に合格した人と同じになります。
また、今後は、3+2制度の開始により、大学4年生で予備試験に合格した人と同じ年数で受験資格を得ることができるようになります。
⑵ 大まかな方針
上記改革からすれば、今後は、今以上に如何に効率良く勉強を進めるかという点が合格のために重視されることになると思います。
そこで、ここでは、司法試験に合格するために最低限ここを押さえておくべきというポイントを簡単にお伝えしたいと思います。
以下では、短答式試験と論文式試験の2つに分けて説明していきます。なお、司法試験制度そのものについては、法務省のサイトで、具体的な配点等についてはこちらの記事を確認してみてください。
3 短答式試験
⑴ 重要性
最低限の勉強という意味では、短答式試験がもっとも重要であると考えられます。
そもそも、短答式試験は勉強すれば勉強する程、点数が取れる試験です。年度による難易度の差はあれど、一度できるようになれば、ある程度安定して得点することができるようになります。
他方で、論文式試験については、難易度によっては全くできなかったり、自分の得意科目が跳ねないというリスクがあり、絶対にここまでは取れるという保証はありません(もちろん、優秀な方は取れるのかもしれませんが…)。
また、短答式試験は点数がそのまま反映されます。そのため、例えば、140点をとった人と100点前後をとった人では40点近い差が生じることとなります。
この40点という数字は、論文式試験で換算すると約22点となります(40÷1.75)。論文での評価としては、2つくらい違います。これを論文式試験で取り返そうとするのはなかなか大変です。
そのため、短答式試験でより多くの点数を目指すというのが第一の目標となります。
⑵ 対策
ア 共通
(ア)日々の演習
毎日短答式試験の過去問を解くことです。辰巳で出版されているパーフェクト等を使用して演習しましょう。
もし、まだ一度も短答式試験の問題を解いたことがないのであれば、早期に1周目を終わらせる必要があると思います。
あくまで目安ですが、毎日20〜30問程度と決めて解いていくのがいいと思います(必ず1年以内には3科目が終わるようにしましょう)。論文演習と調整しつつ計画を立てましょう。
(イ)本番の想定
時間を測って解く機会を作りましょう。問題が解けるようになったとしても、時間内に解ききれなければ意味がありません。そのため、たまに過去問1年分を測って解く時間を作るのがいいと思います。
(ウ)条文の参照
短答式試験の問題集を解くことに加え、その際に、条文をしっかりと参照することです(判例六法がおすすめです)。同じ条文が出ることもあるともいますが、その際もしっかりと条文を引きましょう。
(エ)復習
間違った箇所については、六法等にチェックをしておきましょう。また、間違った問題は、次の日や1週間後にもう一度解いてみるなど、何度も復習する時間をとりましょう。
(オ)条文素読
条文を素読する時間をとりましょう。条文素読とは、条文を1条から読むことを言います。
特に、民法の条文数は多いので心が折れそうになるかもしれません。しかし、条文を全て読むことにより、短答式試験ができるようになるだけでなく、論文式試験にも生きてきます。そのため、頑張って読みましょう。
(カ)理解
短答の問題では、数字を覚えるだけの問題のように短期記憶でどうにかできるものから、一定の理解を要する問題(判例等)があります。前者に関しては、試験前にしっかりと詰めれば対応できると思いますが、後者については、理解していなければ本番でも同様のミスをしてしまいます。
そのため、間違った問題はもちろん、なんとなく正解した問題についても、なぜそのような結論になるのかについて考えるようにしましょう。
イ 民法
上記の通り、条文をしっかり読むことです。特に短答でしか出題されない部分も多いので、しっかりと理解して頭に入れるようにしましょう。
また、過去問では、改正の問題について網羅しているとはいえません。そのため、改正のあった条文についてはしっかりと読み込んでおきましょう。
ウ 憲法
条文を読むことは、前述の通りです。特に、統治分野はしっかりと読み込みましょう。
他には、判例が頻出であることから、問題集を解く際に判例集を必ず引いて、少なくとも事案と判旨については確認するようにしましょう。ここでしっかり読めば、論文式試験でも生きてきます。
また、芦部憲法から出題されていることも多いので、芦部憲法を読みましょう。
エ 刑法
条文については同様です。
時間があれば、基本刑法などの基本書を通読するといいと思います。論文式試験で学説等の問題が出るので、生きると思います。
⑶ 小括
というわけで、大まかな短答式試験対策としては、
に尽きると思います。論文式試験の勉強と並行して何度も繰り返し行いましょう。
なお、論文式試験の勉強も手は抜かないようにしましょう。
4 論文式試験
⑴ 戦略
ア 論文試験の苦難
難易度に関しては本番になってみないとわかりません。比較的優しい科目のようにみえても、現場思考問題が含まれていたり、実は基本論点から少しずらした問題であったりします。
また、初日の問題が解けなかった場合、翌日、翌々々日とプレッシャーが大きくのしかかってきます。
そのため、精神的にも大変難しい試験です。
イ 方向性
戦略としては、みんなができる部分をしっかり押さえ、時間内に答案を完成させるということが挙げられます。
とはいえ、受験生としては、そんなことは当然に分かっているし、それができれば苦労しないというところではあると思います。
では、①基本論点を落とさないことと②途中答案にならないこと、についてもう少し深掘りしてみましょう。
(ア)基本論点を落とさないこと
a 基本論点
司法試験の過去問を数年分解いたことのある人であればわかると思いますが、司法試験の問題は全てが応用問題で構成されている訳ではありません。演習の際、頻繁によく見る基本論点についても必ず出題されています。
この基本論点をしっかりと書けることが日々の演習における目標となります。
b 落とさない
もっとも、司法試験であることから、演習問題よりも難しいことは確かです。当てはめるべき事情が多かったり、一般的な事案から少しずれていたりと、論証を適当に書いて簡単に当てはめて終わりという問題はあまり出題されません。
それを聞くと基本問題について、どこまで書ければ「落としていない」といえるのか不安に思うかもしれません。
しかし、採点実感では、毎年基本論点の学習不足が嘆かれています。つまり、上位層を除いて、大多数の人は基本論点についてしっかりと(司法試験委員の求めているレベルまで)記載ができていないということになります。
そうであれば、論証を書けて、ある程度の事情を拾い、評価できれば十分である(落としていない)といえます。具体的には、下記の対策のところで説明します。
(イ)途中答案にならないこと
途中答案対策としては、時間配分、取捨選択、書き切る力、の3つがあります。各々説明します。
a 時間配分
まず、時間配分を考えることです。問題を読んで答案構成を行う時間、起案をする時間をしっかりと決めておきましょう。仮に、答案構成時間を超えてしまった場合には、もう書き始めましょう。
また、各設問ごとの時間配分も決めておくといいです。もっとも、これに関しては、点数配分や難易度からばらつくことが考えられます。そのため、一応答案構成の時間を引いた時間を設問の数で割って、それを一応の目安とすればいいと思います。その上で、答案構成の際、明かに論点のわかる問題については、時間通りか少し短めに設定し、難しい問題に時間が残るようにしましょう。簡単な問題の場合、筆が走るので時間を超過してしまうことが多々あると思いますが、取捨選択を意識してください。
b 取捨選択
問題においては、ほとんどわからない場合もあると思います。その場合、一定の時間を設定した上で、その間に思いつかなければ次の設問に行きましょう。不安が残るかもしれませんが、得点できるところで得点できないのが一番勿体無いので、取捨選択する勇気は身につけましょう。もし、他の問題が解き終われば、挿入するなどして記載すればいいと思います。
c 書き切る力
というのが、理想の形なのですが、本番では必ずしもうまくいくとは限りません。もちろん、時間配分はしっかりと考えるべきことなのですが、時間配分通りにうまくいかない場合のことも考えておきましょう。
それは、日々の過去問の起案の際において、必ず時間内に書き切るということです。例えば、設問3を書き始めた時点で残り15分ということもあるかもしれません。しかし、そのような場合にも、いつも通り書くのではなく(例えば、線を引いて、ここからは時間外のような答案)、残り15分で「以上」までで書ける答案を書きましょう。論証の趣旨や理由付けを省略したり、事実の評価を省いたり、定義を当てはめに盛り込んだり、最低限の形で書けるようになれば、多少の点数は入ってきます。
これに関しては、日々の起案の中で習慣化させる他ありません。もちろん、初めからできる人もいないのであり、起案がさらにキツく感じてしまうかもしれません。しかし、どんな状況であれ、最後まで答案を書き上げることができるというのは自信になりますし、本番においても、どんな形であれ、最後まで書き切ることができれば、安心感があると思います。
そのため、起案の際には、時間配分を考えることはそうですが、時間内に必ず書き切るということも意識してください。なお、過去問の際だけでなく、模試や期末試験でも意識するといいと思います。
⑵ 対策
ア 共通
(ア)普段の学習
a 心がけること
過去問の他に、演習書で基本論点をしっかりと網羅・理解することです。
難しい問題(応用問題)ばかりやっていると、基本問題が抜け落ちてしまったりします。もっとも、上記の通り、基本論点ができるかが合格の鍵となるので、しっかりと基本論点の演習を行いましょう。
また、演習の際には、ただがむしゃらに行うのではなく、どうして論点となっているのか、どうしてそのような規範が導かれるのか、何を当てはめるのか、といった点についてしっかりと理解しながら解き進めましょう。ある程度理解できれば、本番でも対応することができます。
もちろん、理解できない部分もあると思うので、難しい部分は、とりあえず論証を書けて、当てはめができる程度でも大丈夫です。
b 書籍
下記では、書籍の紹介をしています。書籍の☆マークは使用した方がいいという趣旨ですが、現在使用しているものがあればそちらを使用すればよく、あえて買い直す必要はありません。あまり手を広げすぎるとどれも消化不良となってしまいます。
また、予備校に通っている人は、予備校の問題集を使用すればよく、あえて購入する必要はないと思います。
なお、基本書等については、通読すべきとの趣旨ではなく、適宜参照して使用するとの趣旨です。
(イ)過去問
a 起案方法
基本的には上述の通りです。
過去問の起案の際には、必ず時間を測って解き、時間内に書き切りましょう。
b 起案後
解いた後は、出題趣旨や採点実感を読み、必要な知識を復習しましょう。応用部分は軽く勉強する程度でいいと思いますが(再度出題された時に何か書けるくらい)、基本部分に関しては、しっかりと読み込みましょう。特に、司法試験委員が注意喚起している部分は気にするといいと思います。
とはいえ、そのレベルを目指すべきなのか、すなわち、次の試験でそのレベルまで書けるようになる必要があるかと言われればそうではありません。あくまで、出題趣旨や採点実感は理解の確認です。みんなと同じレベルの答案をかければ問題ありません。
c 再現答案のすゝめ
とはいえ、自分の書いた答案が他の人と同様のレベルのあるのかわからない、どこまで書ければ十分なのか、といった点は、不安に感じると思います。
そこで登場するのが、再現答案です。
過去問を解いた際に、参考とする人が多いのではないでしょうか。例えば、辰巳のぶんせき本などがありますね。
参考にすべき答案は、もちろんA答案だと思いますが、比較すべき答案は、B答案やC答案です。それらの答案と比べたときに、ある程度同じような記述ができていれば、十分に書けているということになります。逆に、D答案に近い答案であれば、今一歩足りていないということです。その一歩がどのような点なのか、どうすればその一歩を詰められるのかを考えることで合格に近づくと思います。
イ 選択科目
(ア)全般
私は経済法選択なので、その他の科目については言及できないのですが、依拠する論証や過去問集としては、辰巳の1冊だけでシリーズが挙げられます。予備校に通っている人は予備校の教材を利用すればいいと思いますが、独学で勉強している人は、上記の本を使用してみてください。
(イ)経済法
a 教材紹介
b 演習書
授業や入門書で知識をインプットした後は、演習を繰り返しましょう。問題を解くのが一番効率的であるので、何度も演習を繰り返すことが大切です。
よく使用されているのは「論点解析経済法」です。特にこだわりがなければそちらを使用するといいと思います。もっとも、最初はよくわからないと思うので、論証等を確認しながら解き進めて行ってください。
c 過去問
また、経済法は過去問からの焼き回しが多いので、過去問演習がとても重要です。そのため、過去問を全年度解きましょう。
なお、「ぶんせき本」には、選択科目の過去問は掲載されていないため、「一冊だけで」を使用しましょう。
d 判例
時間がある場合、「百選」についても読むようにしましょう(1日1判例)。条文選択で迷うことが多い人は、判例を知っていると少し楽になります。
e 注意点
経済法では、要件や定義、論証を書けることが大事です。そもそも覚えること自体少ないので、頑張って書けるようにしましょう。
もっとも、それだけでは答案を作成することができるようにはならないので、問題を解いていく中で、しっかりとイメージを持つようにしましょう。
ウ 憲法
※令和4年度では、傾向がまた変わりましたね。
a 教材紹介
b 演習書
「憲法の急所」では丁寧に説明がなされており、演習書はこちらで十分です。
もっとも、既に「憲法ガール」を何回も解いているという人は、あえて演習書をやらずに、引き続き「憲法ガール」を行えばいいとは思います。
c 過去問
基本的には、「憲法ガール」を使用すればいいと思います。もっとも、全てを理解することは難しいので、取捨選択しつつ学習しましょう。
なお、起案しない年度は先に解説を読んでもいいですが、起案する年度は起案してから解説を読むようにしましょう。
また、憲法ガール3はまだ出版されていないので、掲載されていない年次の過去問については、「平先生のブログ」を参照するといいいと思います。
最後に、再現答案については「ぶんせき本」を見るといいと思います。
d 判例
「百選」はしっかりと読み込みましょう。少なくとも、演習書や過去問起案後には、使用した判例は読むようにしましょう。
e 注意点
第1目標として、各権利について何かしら書けるようにしましょう。憲法を苦手とする人も多いので、沈まない答案を書ければ大丈夫です(行政も同じですが)。この点については、再現答案をみてコツを掴んでみてください。
また、判例についての理解も求められるところなので、百選を読んだり、憲法ガールをしっかりと解く中で、頑張って判例の使い方を学びましょう。
他方で、心配な点としては出題傾向の変化が挙げられると思います。
とはいえ、令和4年で傾向が変わったことから、しばらく傾向の変化はないと思います。もっとも、何が起きるか分からないので、心算はしておきましょう(他の科目でもそうです。しっかりと問いを読みましょう。)。
ただし、傾向が変わったといっても、過去問自体は有用です。「憲法ガール」でしっかりとポイントを押さえられるようにしましょう。
傾向の変わった問題に対応するという意味では、答練を受講するのもいいと思います。
エ 行政法
a 教材紹介
b 演習書
勉強の開始が7法の中で一番遅いこと、毎年問題が難しいこと、苦手な人も多いこともあって、少し多めに記載します。
答案の書き方や基本的な論点を学習するという意味では、まずは、「実践演習行政法」を解くのがいいです。こちらは予備試験の過去問なのですが、問題が短いこと、解説が丁寧なこと、参考答案がついていることからおすすめです。その際、分からない点があれば、「橋本教授の連載」を読んでみましょう。処分性や原告適格、裁量といった司法試験に頻出の論点について丁寧に書かれており、参考になります。
その次は、「行政法解釈の基礎」に手をつけてみましょう。司法試験の過去問が掲載されており、難しそうに見えますが、行政法の考え方がよくわかるようになります。特に、演習書を解いてみたけど結局何を当てはめればいいのかよく分からないという人はぜひ手に取ってみてください。
c 過去問
「行政法ガール」を使用すればいいと思います。もっとも、「行政法解釈の基礎」と重複する部分は読み飛ばしてもいいと思います。
行政法では、司法試験の過去問がメインの演習書であるといっても過言でないので、全年度解くようにしましょう。なお、起案する部分もあると思うので、起案してから解説は読むようにしましょう。
なお、掲載されていない年次の過去問については、憲法と同様に「平先生のブログ」を参照するといいいと思います。
また、再現答案については、「ぶんせき本」で確認しましょう。
d 判例
司法試験では、判例を聞かれる問題が出題されます。そのため、判例をしっかりと押さえる必要があります。判例ノート(百選でもいいです)をしっかりと読み込むようにしましょう。
e 注意点
途中答案を量産するのがこの行政法という科目です。正直なところ、時間配分がうまくいかないことを前提に臨んでもいいかもしれません。
注意点としては、上記の通り、判例の学習を怠らないこと、過去問をしっかりと解くこと、毎年出題される処分性、原告適格、裁量については書けるようにすることです。
判例はわからないとただの自由記述になるので、詳細に理解する必要はないですが、短答レベルでは頭に入れておきましょう。
過去問については、頑張って解きましょう。
最後に、頻出3論点については、しっかりと規範を書け、あてはめができるようにしましょう。特に、判例についても頭に入れておくと書きやすいので、「橋本教授の連載」でしっかりと押さえましょう。
オ 民法
a 教材紹介
b 演習書
こだわりがなければ、「ロープラクティス」でいいと思います。
演習の際には、判例を意識するだけでなく、要件を条文から導き出せるようにしましょう。特に、書かれざる要件については要注意です。
c 過去問
平成27年から令和元年の司法試験については、辰巳から出版されている「改正民法で書いた民法論文過去問5年分」を使用し、令和2年度以降は「ぶんせき本」でいいと思います。
令和元年以前の「ぶんせき本」については、改正に対応していないので気をつけましょう。そのため、改正対応の過去問解説(〜H26)を持っていない場合、答案構成を行う必要はないと思います。
演習量の少なさは、予備校の答練を受ける等して補いましょう。
d 判例
時間があれば、「百選」を読みましょう。
e 注意点
生の主張を考え、それを法律論に落とし込むことが大切です。すなわち、当事者が求めていることは何なのか、それを実現できるのはどの法律構成なのかということです。それが把握できて初めて、必要な要件が分かり、当てはめを行うことができます。
また、難しい問題では三段論法が崩れる人が多いです。しっかりと、問題点を抽出し、それが条文のどの点で問題になるのか、条文の趣旨は何か、反対利益は何か、を考えた上で規範を策定し、当てはめを行うようにしましょう。
カ 商法
a 教材紹介
b 演習書
「ロープラクティス」に掲載されている論点が必要最小限度だと思います。まずは、それらができるようになりましょう。
また、会社法が苦手だという人は、会社法の条文をしっかりと引くようにしましょう。一般的な手続きを抑えることは大切です。
もし、時間があれば、「事例で考える会社法」を使用してもいいと思います。解説がとても丁寧で、会社法を理解するのに役立ちます。もっとも、学説対立等難解な部分もあるので、司法試験合格のためにかならず演習しなければならないものではありません。「ロープラックティス」等の基本的な演習書をしっかりと学習しましょう。
c 過去問
「ぶんせき本」の解説や再現答案で十分だと思います。
もう少し丁寧な解説が欲しい方は、「論文演習会社法」を使用してもいいかと思います。
なお、起案しない年度の答案構成については、時間があれば行えばいいと思います。
d 判例
できれば、「百選」を読みたいところです。ただ、「ロープラクティス」が判例をベースとしているので、時間がなければ無理する必要はありません。
e 注意点
苦手とする人が多い科目です。
そのような人は、しっかりと条文を読んだり、「リーガルクエスト」等の簡単な基本書を通読することで理解できるようになると思います。
もっとも、基本書の通読を行うには時間がかかります。そのため、とりあえず、演習の際、使用した条文はすべて引くようにしましょう。条文を引くだけでも、流れを覚えることができると思います。
キ 民事訴訟法
a 教材紹介
b 演習書
民事訴訟法は、何かよくわからないという人が多いと思います。形式的といいますか。
そこで、「ロジカル演習民事訴訟法」をお勧めします。基本の基本に絞っているため、問題数は少ないですが、一つ一つが丁寧に解説されています。また、判例をベースとした参考答案が付されており、論証や当てはめに関して参考になります。
もちろん、最初から「ロープラクティス」を使用して学習してもいいと思います。ロープラクティスは判例をベースに問題が作られているので、論点を網羅するには適しています。
c 過去問
特にこだわりがなければ、「ぶんせき本」で大丈夫です。
また、実際に起案しない過去問についても、答案構成をするなどして勉強しましょう。なぜなら、問題が対話形式であり、誘導に乗ることに慣れる必要があるからです。
d 判例
「ロープラクティス」での学習で十分だと思います。もっとも、時間があれば、「百選」を読んでもいいと思います。
e 注意点
誘導にのること、問いに答えること、に尽きると思います。論点を一通り学習したら、過去問でそれらを身につけましょう。
ク 刑法
※出題傾向が変わってからは、同様の形式が続いています。今後も大幅な変更はないように思われます。
a 教材紹介
b 演習書
まずは、定義や論点をしっかりと押さえましょう。その上で、刑法事例演習教材の問題がしっかり解けるようにしましょう。
学説問題に対しては、基本刑法等の基本書を通読しましょう。短答試験対策という意味でも、読んでおいて損はありません。
c 過去問
実際に起案するのは、傾向の変化後の年度のみでいいと思います。
もっとも、最近は、長文問題となっているようにも感じます。そのため、起案をしない年度に関しても、答案構成を行う等勉強しましょう。
他方で、起案の量が他の科目よりも少なくなってしまうことから、予備校の答練を受講するなどして書く量を増やしましょう。
d 判例
時間があれば「百選」を読んでもいいと思います。もっとも、基本刑法を通読すればあえて読む必要もないとは思います。
e 注意点
学説対立についてしっかりと勉強することはもちろんなのですが、事例問題についてもしっかりと対応できるようにすることです。「刑法事例演習教材」や旧形式の司法試験過去問でしっかりと事例問題に対応できるようにしましょう。
ケ 刑事訴訟法
a 教材紹介
b 演習書
「事例演習刑事訴訟法」が一通りできるようになれば問題ありません。学説対立について深く理解することまでは不要ですが、少なくとも判例の理解や自説の立場の理解についてしっかりと押さえておきましょう。
c 過去問
こちらも、「ぶんせき本」で良いと思います。
起案しない年度については、時間があれば答案構成を行いましょう。
d 判例
刑事訴訟法に関しては、「百選」を読みましょう。判例の事案をしっかりと把握することによって、判例の射程を意識して適切に当てはめができるようになります。
e 注意点
他の科目に比べて、論点が分かりやすい科目であると思います。もっとも、事案が長く、当てはめることも多いので、そういう意味では難しいと思います。
演習をしたり、判例を読む中で、どのように当てはめをすればいいのかをしっかりと意識してみてください。
⑶ 小括
以上が論文試験対策の各論となります。
まとめると、①基本論点の掲載された演習書での学習、②司法試験の過去問演習、③百選等での判例学習、の3つが論文対策の柱となります。
なお、上述の通り、教材についてはあくまで参考にという趣旨なので、現在使用している教材があればそれを利用してもらえればと思います。あくまで、何を使用していいのか迷っているという人への紹介です。
5 終語
この記事を見に来たということは、試験に対して焦りがあるからだと思います。しかし、人に言わないだけで、みんな意外と焦っています。
合格した人でも、過去問を解いてみて、全くできなかったなんてことはよくあることです。そのため、過去問を解くたびに気に病む必要はありません。
現時点でどうかというのはあまり気にする必要はないです。
むしろ大事なのは、今から何をするのかということです。まだ時間はあります。取捨選択をしてしっかりと勉強すれば合格することも可能です。
また、ゴールとの距離を測る上で、現在何ができないかを考えることももちろん大事です。しかし、何ができるようになったのかということを忘れないでください。
応援しています。
6 補足1〜計画を立てる〜
もし、来年受験するという人は、逆算して計画を立ててみてください。
司法試験は7月中旬です。そうなると、7月は論証の確認等の最終調整月ですね。
また、試験直前の1〜2ヶ月前は集中できない可能性があるので、軽く勉強するくらいのイメージ(復習)でいましょう(6〜7月)。
その上で、計画の目安としては、司法試験ではなく、司法試験模試を本番(5〜6月?)として計画を立てることです。
そうなると、5月又は6月までに、基本論点の学習や短答の勉強を終えている必要がありますね。
あとは、司法試験を7〜8年分起案するつもりで予定を考えてみましょう。一例として、土日に1通ずつ起案して、1月で1年分起案することも考えられますね。
なお、計画はあくまで暫定的なものなので、必ずしも計画通りやらなければならないというものではなく、適宜修正しながら勉強を行えばいいと思います。
7 補足2〜再受験者へ〜
上記と重複する点も多いですが、重要なことなので記載します。重複点は読み流してもらって結構です。なお、論文についての記載であるため、短答については上記の対策を参照してください。
⑴ 原因の探究
再現答案を作成した人は、合格者等の誰かに見てもらいましょう。作成していない人は今すぐ作成しましょう。
何が自分に足りていないかを把握できなければ計画を立てようがないのであり、まずは自分のことを客観的に見つめ直すことから始めましょう。
一例ですが、原因として、三段論法がきちんとできていなかったり、基本論点について事実を過不足なく拾った上でしっかりと評価を行うことができていなかったり、時間配分に失敗して途中答案となってしまったり、メンタルがやられてしまって頭が真っ白になってしまったりということが挙げられます。原因を明らかにした上で、対策を立てましょう。
⑵ 対策
上記の通り、不合格にならないためには、①基本論点をしっかりと書き、②分からなくても最後まで書き切ることが必要です。また、③試験ごとに引きずらないメンタル(切り替え)も重要です。
ア ①について
過去問演習のみならず、基本論点についての演習書をしっかりとやり込むことが大切です。何度も演習を行い、知識を定着させましょう。また、漫然と演習を行うのではなく、なぜそれが問題となり、どうしてそのような規範となるのか、どのような事情から判断されるのかといった理解を大事にしてください。基本論点を理解できるようになれば、一般的な事例から少しズレた事例についても対応することができるようになりますし、応用問題にも役に立ちます。基本問題と応用問題は別物ではなく、基本の上に応用があるというイメージです。
イ ②について
過去問の起案をする際には、必ず時間内に答案を書き切るようにしましょう。別に完全答案を作成する必要はありません。何かしら最後まで書き切という癖をつけることが大切です。残り15分しかないのであれば、残り15分で全て書ける程度の記載とすべきであり(論証の規範部分だけ書くとか、定義を当てはめに盛り込むとかしてなんとかして最後まで終わらせましょう。)、ここまでは時間内に書けたけど、ここからは時間外みたいなことは全く意味がありません。考えたいのであれば、時間内に書いた後にでも考えてください。
なぜそのようにするのかといえば、時間配分通りにうまくいかなかった場合にどうするのかという点を対策すべきだからです。試験会場では、緊張や前半で書き過ぎてしまったり、思いつかなかったり等のトラブルによりうまくいかないということはザラにあります。その際、最後まで書き切ることに慣れていなければ、途中答案となってしまします。これは評価に影響するだけでなく、メンタルに対しても大きな影響を与えます。他方で、普段から対策できていれば、そんなものかと次の試験への切り替えができます。
また、答案を書くという点からは、できれば予備校の答練を受講するようにしましょう(お金はかかりますが)。緊張感のある空間で答案を定期的に書く機会は大切です。
ウ ③について
メンタルは司法試験において1番の問題です。正直なところ、積極的にこうしたらいいという方法は分かりません。ただ、こうしてはいけないということはあります。
まず、試験の出来を気にしないことです。最後まで書き切ったのであればそれで十分なので、できなかったかもしれないと思う必要はありません。
また、仮に試験ができなかったとしても、次の科目で取り返そうと思わないことです。上述の通り、試験の難易度は当日になってみないと分からないのであり、次の科目で取り返せるとは限りません。次の科目でうまくいけばいいですが、失敗してしまった場合、目も当てられません。そのため、終わった科目は終わったものとして、その後の試験で取り返そうという気持ちは持たないようにしましょう。
最後に、ラフな気持ちで受けることです。上記とあまり変わりがないですが、ガチガチに緊張した状態で受けてしまうと実力を出し切ることができないです。
例えば、試験会場で論証集を読み込むこともいいいですが、もう実力は変わらないとして、音楽を聴いたり、散歩したりしてリラックスするのもいいと思います。
⑶ 最後に
司法試験は、今この時から短答式試験が終了するまで長い期間があります。常に緊張状態にあると、精神的に病んでしまう恐れがあります。
まだまだ時間もあるので、たまには休憩をとりながら、地道に頑張ってください。再挑戦を応援しています。
8 補足3〜紹介〜
関西大学の公開している司法試験対策レジュメの出来がいいので、そちらも上げておきます。
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