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『論点』とは?ー法律が苦手な人へー

1.はじめに

 みなさんは普段勉強する中で、論点を意識しながら学習していると思います。問題を解けば、これとこれが論点だなというのが分かるのではないでしょうか。
 しかし、そもそも論点とは何なのでしょうか。
 何を意味のわからないことをと思うかもしれませんが、せっかくなので考えてみましょう。法律が苦手という人は、これをマスターすれば少しだけ法律問題が分かるようになるかもしれません。
 とはいえ、何も無いと難しいので例を1つ出して考えてみることとします。

2.論点とは何か?

〔Q1〕
 XはYから甲(動産)を購入しました。しかし、甲はAが所有しているものであり、YはAから借りていただけでした。この時、AのYに対する返還請求は認められるでしょうか。

 簡単な問題なので、訴訟物、請求原因、抗弁、辺りを軽く確認しておきましょう。その後に論点について考えていきたいと思います。
※要件事実を知らない人は、左から、請求、要件、反論、くらいに考えてくれればいいです。

2.1.訴訟物(請求)
 訴訟物は

所有権に基づく返還請求権としての甲(動産)引渡請求権

になります。

2.2.請求原因(要件)
 請求原因事実としては、

①Aが甲を所有していること(〇)
②Yが現在甲を占有していること(〇)

です。

※要件(民法)
①自己所有
②相手方占有

2.3.抗弁(反論)
 これに対して、Yとしては所有権喪失の抗弁を主張していきます。すなわち、Yが甲を即時取得(民法192条)したことから、Aの所有権は喪失したとの主張(反論)が考えられます。
 抗弁事実として、

❶Xは〇年〇月〇日Yに対して甲を売ったこと(〇)
❷Yは、〇日、Xから❶に基づき、甲の占有を取得したこと(?)

を主張します。

※要件(民法)
❶前主との取引行為
❷❶に基づく動産の占有取得
❸❷の占有取得が平穏な取得であること
❹❷の占有取得が公然な取得であること
❺取得者が善意であること
❻取得者が無過失であること
❼前主の占有

❸❹❺については、❷と民法186条1項により推定。
❻については、188条により前主の権利行使が正当と推認される結果、後主は無過失と推定。
❼については、❷の中に❼の内容を含むため別途主張不要。
よって、主張する事実としては❶と❷です。

2.4.問題
 さて、❷を(?)にしているのですが、これは問題文が〈未完成〉だからですね。というわけで、問題文を完成させて考えてみましょう。まあ、ここからが論点の話になっていきます。

2.4.1.現実の引渡し

〔Q1-1〕(Q1の続き)
 YはXから甲の引渡しを受けていた場合(現実の引渡し)はどうでしょう。

 実際に引き渡されて占有している(民法182条1項)わけですから、これについては❷が何の問題もなく認められると思います。あとは、Aの再抗弁(再反論)が認められない限り、Aの請求は認められないことになりますね。

2.4.2.占有改定

〔Q1-2〕(Q1の続き)
 YはXから占有改定の方法で引渡しを受けていた場合はどうでしょう。

2.4.2.1.事案の処理
 では、占有改定の場合にはどうでしょうか。この場合には、即時取得は認められないという結論になると思います。
 それはなぜでしょうか。おそらく、最判昭和35年2月11日(民集14・2・168)の「一般外観上従来の占有状態に変更を生ずる」ような占有を取得することが必要であるが、占有改定はそのような変更を生じさせないため、即「占有を始めた」とはいえない、ということを思い浮かべる人が多いと思います。
 論文試験であれば、民法192条の趣旨を書いて、この規範を論じ、占有改定はこの規範に当てはまらないことを記述していくことになりますね。

2.4.2.2.問題意識 
 では、そもそもこの論点はなぜ問題になるのでしょうか。言い換えれば、先ほどの現実の引渡しの場合には論証を挟まずに当然の結論であるように記載しましたが、なぜ占有改定の場合にはこの規範を論じる必要があるのでしょうか。
 占有改定も引渡しの一つの方法であることからすれば(民法183条)、他の引渡し方法と同様に「占有を始めた」に含まれてもいいように思えます。しかし、占有改定は外観上占有が移転しないわけでして、即時取得の趣旨からすれば、このような場合にまで保護してあげる必要はあるのかという疑問もあります。つまり、まだ自分の手元にないのであれば、別にもとの所有者に返してあげればよく、わざわざ保護してあげる必要はあるのかということです。
 簡単にいえば、占有改定は「占有を始めた」に含まれるという立場(被告)と「占有を始めた」に含まらないという立場(原告)の対立なわけですね。そして、これは、条文上占有改定を含むか否かが不明であることから、解釈が必要となってくることになります。

2.4.2.3.まとめ
 何が言いたいのかというと、論点というのが先にあるわけではなく、事実があってはじめて論点が生じるということです。今回の問題であれば、「占有を始めた」という解釈上の論点が先にあって、占有改定がそこに含まれるのかが問題となるのではなく、占有改定という事実がある場合に、「占有を始めた」の要件を充足するのかが不明である、すなわち、「占有を始めた」の要件該当性を考えるうえで解釈が問題となります(解釈によって結論が分かれる)。
 見知った論点なので、なかなかイメージがつかないということもあるとは思いますが、今後問題演習をする際に役に立つと思うので、その視点は持ってもらうといいと思います。

[整理]
×××(本件事実)

「〇〇〇」(条文の文言)

文言からは不明

Aという解釈⇒事実があてはまる
Bという解釈⇒事実があてはまらない

どう解釈するのか?(問題点)

※結局、「や―、文言に入るのか入らないのか、どうなんだろうね?」みたいなことがあって、「じゃあ、文言をどう解釈するんだろうか?」ってことにつながります。論点というのが勝手に存在しているわけではないということを押さえておいてくれれば大丈夫です。そして、趣旨や反対利益から規範を導出して、今回文言にはいるのか否かを検討していきます。

3.規範について

 次に、規範の流れについてです。大体の人は、趣旨→(理由・反対利益→)規範、という流れで書くことが多いのではないでしょうか。
 そもそも、この流れで考える理由は何なのでしょうか。それを考えるためには、まず趣旨とは何かについて考えていきましょう。

3.1.趣旨とは
 勉強していると趣旨は暗記と規範部分については暗記で、理由付けは覚えなくてもいいみたいなことを聞いたりします。そのため、趣旨って何かを具体的に考える機会というのはあまりないのかなという気はします。
 趣旨とは、要するに、その条文が何を果たそう(守ろう)としているのかということです。簡単に言えば、その条文が規定されている理由になります。
 とはいえ、法律を作った人じゃあるまいし、そんなことわからないよという人もいるかもしれません。その度にコンメンタールとかいちいち引くのも大変ですし。
 しかし、趣旨を考えること自体は実はそんなに難しくはありません。

3.1.1.考え方
 趣旨とは、規定理由であることは上で記述しました。すなわち、その条文があることで、何かが守られているということです。そうであるなら、その条文がないと、何か困ることが生じる、と言い換えることができます。
 というわけで、趣旨を考える際には、条文がないとどうなるのか(不都合)を考えることがスタートになります。不都合を考えて、それから保護しようとするものが趣旨です。

[整理]
条文がないと仮定

どういった不都合が生じるのか(誰が困るのか)

それを保護するのが趣旨

3.1.2.実践
 では、即時取得(民法192条)を使って考えてみましょう。
 即時取得が存在しないと何が困るでしょうか。
 例えば、皆さんがコンビニでおにぎりを買うとします。しかし、そのおにぎりがすでに購入されてしまった物である場合には、他人物売買であり、返品しなければなりません。そうなると、皆さんが購入する際には、そのおにぎりが本当にお店の所有に属するのかを毎回しっかりと確認しなければならなくなります。そうはいうものの、おにぎりのような動産は、不動産と異なり誰の所有に属するのかはわからないです。そうであるなら、確認することも難しいです。そんな感じになってくると、購入者は不安定な地位に置かれ、取引が円滑になされなくなっていきますね。これが不都合になります。
 そうであるならば、即時取得の趣旨は、占有という動産に関する権利の外形に対する信頼を特に保護し、もって取引の安全を図ることにありますね。

3.2.規範
 趣旨については上述の通りです。規範については、判例の「一般外観上従来の占有状態に変更を生ずる」ような占有を取得することが必要、という部分になります。
 しかし、趣旨からなぜそのような結論が導き出されるのでしょうか。占有取得者を保護したいのであれば、占有改定を除く必要というのはあるのでしょうか。まあ、今回は論点解説ではないので、詳細については控えますが、あまり考えたことがないという人は多いと思います。
  さて、趣旨は取得する人を保護してあげようという話でした。
 他方で、本当の所有者の観点からはどうでしょうか。これが反対利益というやつです。本当の所有者は即時取得が認められるとその物の所有権を失ってしまいます。その視点から考えるのであれば、何でもかんでも即時取得を認めるとするのは妥当ではなく、真の権利者が権利を失っても仕方ないといえることが必要となってきます。
 もうお気づきの方もいると思いますが、これが法律学で聞く天秤のつりあいという話です。ざっくり言ってしまえば、真の権利者と取得者のバランスを取っていくことになります。
   そうであるなら、判例の規範は対立する両者の保護の調整により導き出されるものになります。この感覚は未知の論点に対応するときにも使うので覚えておくといいと思います。
   即時取得の話に戻りますが、そうなると、「一般外観上従来の占有状態に変更を生ずる」ような占有を取得することが必要という判例の規範は両者のつり合いがとれている状態であるということができるわけです(真の権利者にも配慮されている)。どうしてこの規範であればバランス(つりあい)が取れるのかは自分で考えてみてください。

[整理]
条文の趣旨を考える

反対利益(や文言による制約)を考える

規範を導き出す⚖

4.問題演習において

 司法試験において、未知の論点に対応する問題が出題されるというお話を聞くことも多いと思います。しかしながら、やっていること(構造)としては、普段の基本論点と同じです。普段から行間を埋めるような勉強をしていれば応用問題にも自然と対応できるようになっていると思います。
 また、司法試験における基本論点についても、規範等の意味を理解していないと考えてほしい部分に至れないということは多いので(採点実感でできてないと怒られてます)、普段の勉強では、基本論点を大切にしていってほしいです。
 法律が苦手という人は、基本論点について、なぜその論点が問題になってどういう理由でその規範に至るのか、また、その規範が言いたいことは何なのか、という点についてゆっくりでいいので、勉強しなおしてみてください。規範は書けるけど、あてはめがうまくできないという人も実は規範があまりわかっていないということは多いので(暗記に頼りすぎてしまっている)、少し立ち止まって考えてみてください。
※理解できれば、基本的には暗記しなくても直前に確認するだけで何とかなると思います。

☆確認事項
・問題点:その論点を展開する理由は何か
・趣旨:条文から導き出せるか
・理由付け:つながっているか
・規範:判例をおさえているか
・論理の流れ:行間が埋まっているか、飛躍していないか
・規範の意味:曖昧にせずにうまく説明できるか

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