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【不定期連載】経済法入門(第1回)

0.はじめに

・前提
 独占禁止法の正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」といいます。以降の、「独禁法」や「法」はこの法律を表しています。

・内容  
 本レジュメは、経済法をはじめて勉強する人に向けたものです。そのため、理解することを第一次的な目標としており、内容の正確性に多少欠ける部分もあると思います(注1) 。その点は、ご了承ください。詳細な点については、基本書や判例百選を読んだり、授業を聞いてください。

・予備試験受験者へ
 おそらく、主に予備試験合格者(及び令和4年以降の予備試験受験生)が経済法を選択することとなると思います。経済法は数ヶ月で答案を書けるようになると思うので、選択肢のひとつではあると思いますが、個人的には、将来自分がしたいこととの兼ね合いで選択科目を考えることをお勧めします。なんで経済法を選んだのかという質問は必ずされます。

・勉強したこと
 私が行ったことは、以下の通りです。

・伊藤塾の経済法講義
・菅久修一編「独占禁止法〔第4版〕」(商事法務、2021年)
・金井貴嗣=泉水文雄=武田邦宣「経済法判例・審決百選〔第2版〕」(有斐閣、2017年)
・川濵昇=武田邦宣=和久井理子編「論点解析経済法〔第2版〕」商事法務、2016年)(注2) 
・泉水文雄「入門経済法」(法学教室、2015-2016年)
・司法試験過去問

 一般的な予備合格者よりは多く、ロー生よりは少ないかもしれません。ただ、これだけやれば十分だとは思います。
 なお、予備合格者の間でよく聞く流れは、予備校の講義なり導入(インプット)→論点解析(答案構成)→過去問(起案)、です。

・対策
 対策としては、出題範囲を中心に勉強することが考えられます。不当な取引制限、私的独占、不公正な取引方法、事業者団体規制、企業結合結合規制、各エンフォースメント、くらいです。なので、とりあえず全体を知っているということは前提です。
 もっとも、その中身についてイメージを具体的に持ち、理解に落とし込めていることが大切です。例えば、その条項について、適用事例が思い浮かべられると大きいと思います。また、今回の事案だとこういうことがされると、どういったところに、どんな影響が出るから、これはよくないものなんだという経済的見地からの検討が必要になってくるので、そもそも独禁法って何を守ろうとしているのか、どういう状態を防ぎたいのか、ということをイメージすることが大事だと思います。
 そのため、そのあたりのイメージが具体的につくようにレジュメを作れればなとは思っています(できるかは分かりません)。

・経済法は簡単か?
 経済法は他の選択科目に比べ負担が少ないです。イメージとしては、刑法に近いものですね。しかし、普通に難しいです。もしかすると、経済法は簡単らしいという話を先輩や友人からきくかもしれません。しかし、はっきりいってそれは間違いです。刑法は簡単だというのと同程度に間違いです(注3)。内容はなんだかんだ難しいが、周りもそこまでできないのであまり心配しなくてもいい、というくらいに受け止めておくといいと思います。

1.独禁法の存在意義

 独禁法は何のためにあるのでしょうか。いわゆる立法趣旨について考えようというのが今回です。
中学生の公民の授業で、カルテルは禁止されてるとか、談合はしてはいけないといった話を聞いたことがあると思います。その辺を法律的に論じているのがこの科目です。あったなあとうことは覚えているのではないでしょうか。

1.1.事例
 さて、それは置いておいて、一つの例を考えてみましょう。

Q.あなたは、世界で2社しか製造していない商品の一方の会社のトップ(代表取締役)だとしましょう(以下、同じ事案を想定しています)。そうですね、車とかでいいんじゃないでしょうか。その場合、いくらで売りますか?会社の利益を追求することを目的に考えてみてください。

1.1.1.王道
 まず、できればなるべく高く売りたいと考えますね。高ければ高いほど利益が出ます。しかし、あまり高くしすぎるともう一方の会社にお客さんが流れ込んでしまい、売れなくなってしまいます。皆さんも同じ物であれば安いほうを買うのではありませんか?そうすると、他社よりもぎりぎり安い値段でたくさん売れれば利益を最大化できそうです。
 では、少し高くても売りたいと思う場合はどうですか。この場合、同じ物であれば安いほうに流れます。これは上の通りです。しかし、他社よりもいい製品を作れば売れますよね。例えば、安全性が高いとか、乗り心地がいいとか、デザインがかっこいいとか、そういった差別化、いわゆる商品の品質の向上を目指すことで、お客さんを自社商品に引き込むことができますね(注4) 。

1.1.2.邪道
 まあ、これが王道なわけですが、もっと効率のいい方法はありませんか?
今までの前提は相手がライバルであったから、そいつらとしのぎを削って争わないといけなかったわけで、じゃあ、そいつらがライバルじゃなくなってしまえばどうでしょう。例えば、相手と協力する場合です。2社で品質や料金をそろえる場合を考えてみると、ほかに売っている人がいなければ好きなだけ料金を上げることができますね。ほかには、ライバルを排除してしまうことも考えられます。ライバルがその商品を売れなくなってしまえば、自分だけになってしまうので、値段も自由に設定できます。

1.1.3.どちらが望ましいのか?
 会社側から考えれば、簡単に競争社会で生き抜くことができる邪道のほうがいいに決まってます。まあ、頑張らなくても売れるのだから、わざわざ開発費などにコストをかけるのもばかばかしく、現状維持になってしまうというのも納得できますね。
 しかし、お客さんの立場からすればどうでしょう?商品は高いにもかかわらず、品質は高くない物しかないという状態です。何もありがたくないですよね。「もっと安くしろ、いい物を作れ!」といってやりたいです。そして、そういった状況を成し遂げられるのは、王道の場合になります。競争社会においては、より良いものをより安く提供しないとお客さんが振り向いてくれないわけですから、他社よりも、なるべく安くできるように努力し、また、他社よりもよりいい物を提供できるように日々開発に勤しむわけです。

1.2.独禁法の望む世界
 ここまで読んでもらえればわかると思いますが、独禁法は王道の状態、すなわち、会社が競争している状態の社会であってほしいと考えています。わかりやすく言えば、正面から正々堂々、自分の腕一本で成り上がってこいといった感じです(余計わからないかもしれません)。なぜかといえば、そういった社会でないと、結局お客さんが損をすることとなってしますからです。ちゃんといえば、より安く、より品質のいい物の提供によって、消費者の利益を保護しようということになります。
 ここで、独禁法1条(『』につき筆者が記載)を見てほしいのですが、

第1条(目的)
この法律は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力の過度の集中を防止して、結合、協定等の方法による生産、販売、価格、技術等の不当な制限その他一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正且つ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛んにし、雇傭及び国民実所得の水準を高め、以て、『一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的』とする。

と規定されています。『』部分は、独禁法の「究極目的」と呼ばれたりしますが、今までいっていたようなことを言っています。
 ざっくり言えば、競争ってみんなのために大事だねってなります。

2.個々の個別規定との関係性

 個々の類型についての説明は別でやろうと思うので、特に説明したりはしませんが、簡単に言えば、上記のような競争を欠く状態(邪道なやつ)になるものや、なりそうになっているものについて個々の行為に分けて規定されています。例えば、競争相手と協力している場合や、競争相手を排除する場合なんかがありますね。
 ただ、行為とか形とかが異なってくるので適用条項は変わってくるのですが、結局のところ、上記の弊害が生じているのか、生じそうなのか、といったことを当てはめることが大切になります(それを防止する法なので)。上記では極端な2社しかいない事例を紹介しましたが、イメージとしては、その邪道パターンと同じようにいえるのか(値上げしたり、現状維持を貫けるのか)それとも邪道パターンほどうまくいかないのか(目論見がうまくいかない)、といったことを考えてみるとわかりやすいかもしれません(注5) 。

3.まとめ 

 今回は、独禁法の存在意義に関して論じてみました。だいたいどの本にも書いてあると思うので、もう少し丁寧なものを読みたいという人やイメージに終始しすぎてむしろわからないという人は基本書などを当たってみてください。内容的には、まあそうだよねと思うかもしれないですが、今後この理解が試されることになるので、人に話せるくらいには理解しておくといいと思います(図とかも有用です)。次回からは、これがいかせるように頑張って説明していきたいです。

★文末脚注

注1:著作権法との関係上、ガイドラインや判例以外は基本的には自分の言葉で書こうと思うので悪しからず(たまに引用するかもしれません)。だいたいイメージに終始していると思います。基本書の副読本的な形で使ってみてください。

注2:百選及び論点解析は改正法に対応していません。そのため、改正部分(特に課徴金)については、気を付けて読む必要があると思います。

注3:一例をあげると、窃盗罪の権利者排除意思があげられます。権利者排除意思が肯定される場合として、対象物が高価品の場合がありますが、なぜ高価だと権利者排除意思が認められるのかということを、権利者排除意思の定義に当てはめて書くことができるでしょうか。とりあえず、高いからといって認めている人が大半ではないでしょうか。要するに、そんな感じです。

注4:別の商品を考えると、財布とかのブランド品が考えられますね。同じ財布でもいいものは多少高くても買おうと思いますね。

注5:例えば、10社くらいあって、弱い2社で高い値段にしても、ほかが安いと結局買ってもらえないので意味ないですよね。なので、伝聞の推認過程ではないですが、その行為がなされたら、どういう過程を経て、結局市場に対しどういう影響が生じるのか(わかりやすい例で言えば、自分以外有力なやつがいなくなって値上げに成功できる状態を作り出したと言えるのか等)ということを丁寧に論証していくこととなります。そのような視点で見ると、考慮要素とかの意味はよく分かるのではないでしょうか。
結局は事例に当たるしかないですね。



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