タランティーノのオタク心と娯楽作に仕上げる手腕に恐れ入るウェスタン映画「ジャンゴ 繋がれざる者」

クエンティン・タランティーノとは

僕が好きな映画監督の1人、クエンティン・タランティーノという監督は独自のスタイルを持っている。
時系列を並べ替えたり、やたら面白い無駄話を展開させたり、キツいブラックジョークを絡めたり、映画のパロディを散りばめたり、果てには監督自身がやたら濃いカメオ出演する。
映画オタクが作った映画なのに、単純に娯楽作として楽しめる上に、オタクだとより楽しめるというバランス感覚を持ち合わせている。

スパゲティ・ウェスタンmeets黒人奴隷andニーベルンゲンの歌

スパゲティ・ウェスタンとは1960年代にイタリアで流行った娯楽映画のジャンル。1800年代のはずなのにマシンガンが出てきたり、7発打てるリボルバーが登場したり、やたらドギツいバイオレンスなど、荒唐無稽とも言える特徴がある。
そんなジャンルをこよなく愛する監督が「アメリカの負の歴史」と言われる黒人奴隷制度を描き、更にドイツ人の古い叙情詩「ニーベルンゲンの歌」をストーリーのモチーフとして取り入れている。
こんなごちゃ混ぜ具合なのに、元ネタを知らずとも「黒人奴隷制度を嫌悪するドイツ人と黒人が出会い、囚われの妻を救い出す復讐劇ウェスタン映画」として楽しめるのだから凄い。

クリストフ・ヴァルツ演じる、飄々としながら狡猾で熱いシュルツ医師の魅力

クリストフは同監督の前作「イングロリアス・バスターズ」にてユダヤ・ハンターとして恐れられる冷酷かつ知的なナチスの高官、ハンス・ランダを演じていたが、今作のシュルツ医師はそれ以上に抜け目無く頭が切れる。
胡散臭い馬車に乗る凄腕の賞金稼ぎであるが、ドイツ人という出自故に、アメリカでは人間以下の扱いが当然とされる黒人に平等に接し、ジャンゴの妻の名を聞いた途端にドイツの叙情詩を想起して、運命を感じ彼の手助けをする熱いパッションの持ち主である。ハンス・ランダとはある意味対照的なキャラである。

偏見に満ちた傲慢で狂気を見せる"ムッシュ"キャンディ役がハマるレオナルド・ディカプリオ

個人的にレオナルド・ディカプリオは30代以降の、恰幅が増し、髭を生やした役柄の方が怪優としての魅力があって好きだと思ってる。
話を戻そう。今作の悪役であるキャンディはフランスかぶれで、フランス語が分からないにも関わらず名前に「ムッシュ」とつけさせ、お坊っちゃま故に世間知らずで、人種的に黒人が劣っていると本気で思ってる。
黒人とは絶対的に相容れず、ジャンゴと対立する悪である。
そんな金持ちで幼い面を残しながら大人になったキャンディ役は、歳を取っても若い頃の甘いマスクを残すレオナルド・ディカプリオとピタリとハマり、鬼気迫る名演を残している。
ちなみに途中で手を怪我して出血するが、これは演技に熱が入りすぎて本当に出血している。

165分という上演時間があっという間に感じる濃密さ

テンポ感の良さ、外連味溢れるウェスタンアクション、下らないのに面白い台詞回し、そしてどのキャラも濃い印象を残す名演技で、3時間近い上映時間を忘れさせるエンターテイメントとしてどっぷり浸れる。
一度見始めると止まらなくなるので、腰を据えて観るのをお勧めする。

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