バウム先生

毎週のオペラ指揮グループレッスンに、ある学生が飼い犬を連れて来た!80歳になる動物好きの教授はこれに大喜びで、終始ご機嫌。時々軽く吠えたりすると、「うんうん、その通り、私も今ちょうどそれを指摘しようと思ってたところだよ。オケと歌手が同じ旋律を持っていたら、ピットじゃなくて必ず舞台を見るんだ!そうだよね、ヨナ(犬の名前)?いやあ、ヨナはよくわかってるなあ。」とこんな調子だった。先生がレッスンを中断したのでどうしたのかと思うと、全員でセルフィーを撮ろうとワクワク顔だ。それを嬉しそうに見返して「今夜What's Upで送るね」と言い、さらにヨナちゃん目線のレッスン動画を撮って、「これがベルリンの音大だ!ってYou Tubeにあげちゃおうかな」なんて、先生は信じられないくらい感覚が若い。写真と動画は宝物になった。ここ数日気持ちの重くなる仕事のやり取りで疲弊していたのが、少し軽くなった。

先生は普段からおちゃめで、例えばある日のレッスンでのこと。「指揮者というのは一度にたくさんのことを考えて瞬時に判断し、オーケストラや歌手に示す必要があるのに、腕が二本しかないのは困ったもんだ。」と言いながら先生はおもむろにピアノから鞄の置いてある机へ向かった。ニヤリと笑って鞄から取り出して見せてくれたのは、千手観音の写真だった。また別の日のレッスン後、先生が真剣に将来に向けてのお話をしてくださり、「lieb die Opern(オペラを愛しなさい)」というシンプルで、重みのある先生の言葉に感動的な雰囲気になった。その直後、その頃話題になっていたアイーダの奇抜な演出の話になり、先生の感想を聞いてみると、普段全く英語を話さない先生が、「I don't like opera.」と鼻で笑ったのだ。うーん、私の文章力では伝わらないのがもどかしいけど、オペラ愛の塊みたいな人が片言の英語で「オペラきらーい」とかわしたのが本当におかしかった。

こういうこと書くと意識高い系学生の定型文みたいでちょっと恥ずかしいんだけど、先生と出会えただけでもベルリンに来てよかった。恵まれた環境に感謝してこれから(以下略)。


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