よく寝ましょう

3月半ばにベルリンに戻ってきてから、新作オペラの稽古漬けであっという間に4月になってしまった。窓のないスタジオに1日篭っていると、自分が季節においてきぼりにされてしまったような感じがする。外に出た瞬間の圧倒的な春の雰囲気にくらくらする。

ベルリンに住み始めたのはちょうど2年前の今頃だ。この2年間で私はとにかく健康になった。理由は単純。よく寝るようになったこと、そのことに罪悪感を感じなくなったこと、それから食べ過ぎたり飲み過ぎたりしなくなったことだ。不思議と物欲もなくなった。

「他の人だって寝ないで頑張ってるんだから自分も頑張らなきゃ」っていうのは裏返せば「自分が頑張ってるんだから他の人も同じくらい頑張るべき」と同じで、だんだん「なんで自分ばかりが苦労しなきゃならないんだ!」とか「あの人ばかり得してずるい!」と人との比較でしか自分を捉えられなくなってしまう。そこから解放されると、休むことに罪悪感を感じて返ってストレスを溜めてしまったり、他人が楽をしているように見えることが気に障ったりしなくなる。

人の苦労なんて比べられるものじゃないし、苦労したから偉いなんてことはない。何かを成し遂げた人への「表には見えない努力と苦労」を讃える東洋的な視点も、「天が与えた才能に感謝」する西洋的な視点も、その人物を孤独にしてはいないか。

私は「母さんが夜なべして編んでくれた手袋」も、「母さんがAmazonでポチってくれた手袋」も、その親子の関係次第で、同じ価値があると思う。



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