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2020年 読書ベスト10

※年が明けて、はやくも数日が経ってしまったが、例年は年末に投稿している記事なので、以下では年末気分を捏造して2020年を"今年"として書く。

毎年書いているように(去年までは別のブログをやっていた)、ぼくは別に”本読み”というほど本は読んでいないのだけれど、今年も暇なときにちびちび本を読みました…ということで、来年もモチベーションを維持できるよう祈りつつ、一年間に読んだ本から10冊選んだ。書籍ベスト…ではなく、”読書”ベストとしたのは、単純に「今年私が”読んだ”本」から選んだから。新刊はごく限られた数冊である。

締切やら転居やら、何より仕事(生業)の忙殺期でもあって、年末年始は立て込んでいて、毎年年内に出している年末恒例のベスト備忘記事を残すことができなかった。…が、申し訳程度にひとまずTwitterでは年内に発表したので、それで良しとしたい。では、年は跨いでしまったけれど、2020年の10冊。

1.  『狂うひと:「死の棘」の妻・島尾ミホ』梯久美子
2.  『サイレント映画の黄金時代』ブラウンロウ
3.  『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』マイケリス
4.  『ハリー・スミスは語る』ラニ・シン(編)
5.  『A子さんの恋人(全7巻)』近藤聡乃
6.  『水は海に向かって流れる(全3巻)』田島列島
7.  『ヌメロ・ゼロ』エーコ
8.  『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』栗原康
9.  『炎に消えた名画』ウィルフォード
10.『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』エーコ&カリエール

読書に限らず、個人的に今年ほど"ベスト選び"が困難を極めた年は例がなかった。いうまでもなく理由はコロナ……ではなく、ツイート数が減ったこと。備忘録代わりの感想ツイートをめっきりしなくなってしまったことで、後から思い出すことができず、もはや大抵の内容は忘却の彼方である。何を読んだかは記録をつけていたために、上の10冊に偽りはない…けれど、どこがよかったのか?と問われれば、それは過去のみぞ知るという感じ。無意識選別フィルターを信じて、"印象深さ"で順序はつけられた。

今年は大部の書物を多く読んだ年だった。
1 の『狂うひと』は905頁、2 の『サイレント映画の黄金時代』は900頁、3 の『チャールズ・シュルツ伝』は720頁…と、上位三冊がこれほどの重量級揃いの年も稀な気がする。ただ、どれもその分厚さに見合った高密度の研究書であり、今年の読書体験を思い返したときに真っ先に浮かんでくる三冊で、便宜上順位をつけたが印象としては同率に近い。とはいえ、とりわけ『狂うひと』は日記や手紙の徹底的な分析は本当に圧巻で、島尾敏雄の読者のみならず、日記本/手紙本が好きな人にも心の底から勧めたい。また『サイレント映画…』は今年にぼくが読んだ"映画本"では特出していた断トツの一冊だったが、他にも諏訪敦彦『誰も必要としていないかもしれない映画の可能性のために』や国立映画アーカイブで行われた展示の図録『ポーランドの映画ポスター』も良かった。
一方で、今年は小説の読書量が著しく減った年でもあった。3月に大学を卒業し、一介のジリ貧/映画学徒から債務者/会社員へと変貌を遂げてからというもの、生活は一変した。インプット/アウトプットと生活(=生存)がうまく噛み合って回らず、活動量/生産性の波にフラストレーションを感じ通しだった。よくよく考えてみれば、平日休日を問わず昼から深夜までバイトを幾つか掛け持ちしながら学校へ通う傍ら、劇場で映画ばかり見ていたのだから、学生時代の方が生活スケジュールとしては遥かに多忙だったに違いない気がするのだが…まあ考えても仕方ない…色々と要因はあるのだろう…たぶん。経済状況的に学業を続けることが叶わず、諦めて一介の"社会人"になってしまったという後悔や焦りも大きかったのかもしれない。はやく"本線"に戻らねば、というような強迫観念。本当は今いるところが本線なのだが。ゆえに、結果論ではあるけれど、情報摂取としての"取れ高"を求めて、大部の研究書や評伝へと向かったように思えなくもない。今年選んだ小説はたった二冊だが、『ヌメロ・ゼロ』『炎に消えた名画』ともに、あまり輝かしくない編集者の仕事に関連する物語という共通項があり、なにかを物語っている感じがする。とはいっても、前者は『ハリー・スミスは語る』と共に"パラノイア"系統として楽しんだという側面が大きいのだが。ウィルフォードは『コックファイター』も最高だった。いまより少しだけ尖っていたストイック信奉大学時代ならば、こちらを挙げていたと思う…。
今年読んだもうひとつの大部の書物『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』は、一見それなりに分厚くはあるけれど、対談なのでスルスル読め、読書習慣が鈍った時期にリハビリとして活躍した。くわえて、怪しげな出版ビジネスについての言及もあり(以下略)。

「本棚は、必ずしも読んだ本やいつか読むつもりの本を入れておくものではありません。その点をはっきりさせておくのは素晴らしいことですね。本棚に入れておくのは、読んでもいい本です。あるいは、読んでもよかった本です。そのまま一生読まないのかもしれませんけどね、それでかまわないんですよ」
「知識の保証みたいなもんですよ」
「ワインセラーにも似ていますね。全部飲んでしまったら困りますね」

…などなど、励まされる発言もある。読書量が落ちたとて、購入量を変える必要はないのだ。
また、今年選んだ漫画二作品──ともに今年完結した──と『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』は、昨年の10冊にも少なからず影響があったのと同様、パートナーの勧めに依る。信頼できる人から本を勧めてもらうというのは本当にいいもので、自らの狭い"関心"フィルターを取り払い、出会うはずのなかった作品と出会う機会が生まれる。本当にありがたい。挙げた三作品のほかにも、勧めがなければ読むことはなかった本が多くあった。

駆け足にはなったが、これにてひとまず終わりとしたい。大して言及できていない本があるようにも思えるし、覚えてないと書いた割には健闘した気もしなくもない。とはいえ、いま心中にあるのは、今年は感想を都度残そうという情けない決意のみである。

2021年も面白い本がたくさん読めることを祈りつつ。
知人の方は、ぜひお勧めを教えてくださいな。

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