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まだ誰も気づいていないコムドットの戦略の本質を東大生が分析してみる

(追記:やまと本人がtwitterでこの記事をいいねしてくれていたようです。嬉しい! ありがとうございます。)

(本気出して書いたら13000字の論文になりました。誰が読むのか謎すぎるが、読んでくれた友人からは「めちゃくちゃ面白い!」と言ってもらえた。)

「そもそもうちの妹コムドットとか見てるタイプだからさ。」
-ある東大生の発言より

コムドットやまと、好きですか? 嫌いだよね?俺にはわかる。

残念ながら筆者の周囲でコムドットを見ている人は少ないです。twitterで繋がっている同級生をチェックしたところ、コムドットをフォローしている人は周囲に一人しかいなかった。

筆者の同級生たちが見るyoutuberは「ベテランち」だったり、メジャーどころだと「ARuFa」のようなyoutuberが多い印象です。twitter見たらFFがARuFaを23人もフォローしている。界隈に人気すぎだろ、ARuFa。

これだけ売れているのにもかかわらず、コムドットについて深い分析をしている人はあまりいません。もちろんyoutuberには理解している方も少なくないと思うのですが、彼らがコムドットの戦略論を公開することはない。ので、コムドットの戦略、まだ十分に語られていない。だからコムドットの話を俺はしたい。これは基本的にはファンの皆さんに読んでほしいと思っている文章ですが、そうでない方にも読んでもらいたいなと思っています。ちなみに一番読んでもらいたいのはやまと。

一応コムドットというYouTubeグループを知らない人のために説明すると(ファンの人はしばらく飛ばしてください)、今一番若者に人気なyoutuberです。2021年下半期トレンドのyoutuberランキングとかで、上半期下半期どちらも一位を獲得しています。彼らは20代前半〜半ばの男性5人組のyoutuberで、「地元ノリを全国に」をスローガンに活動し、現在チャンネル登録者数が332万人です。リーダーは「やまと」(以下「やまと」と呼ぶ)という男性で、全員が存在感がある中でも彼がコムドットの顔のような存在です。

彼らの特徴の一つは、アンチが多いことです。なぜアンチが多いのかは

こういうツイートとか

見ると肌感覚としてわかるんじゃないか。こういう感じのyoutuberです。

アンチが多いのもわかるのですが、これだけの成果を上げている背景にはやはり一つの優れた戦略があると見るのが妥当です。自分なりに色々と考えていたのですが、最近一つ重要な資料が発表されました。それを踏まえて分析をしてみるとやはりコムドットは非常に賢く、他のyoutuberとはそもそも違った発想でyoutubeを捉えている可能性があると感じました。

こういう視点でコムドットを分析できることは明らかなのですが、インターネットで検索をザッとしたところ、まだ僕と同じような問題意識でコムドットを分析している論考が存在しない。例えば、以下のような分析はよりミクロな観点での最適化戦術を議論する「戦術論」かなと感じます。それ自体意義があるものですが、より抽象的で再現性のある部分での「戦略」の観点、ひいてはコムドットの背景にある思想の部分の分析については論じていない部分があるという印象です。

それもそのはずで、やまとは、彼自身の戦略の本質について外部向けに発信したことは実はないからです。彼自身の言葉を理解するためには、ある必要不可欠な視点があり、それを導入することで彼の言動はクリアに理解できるのですが、直接言われないと見破るのは難しい。

では、その必要不可欠な視点とはなにか?コムドットを理解するために本当に必要なフレームワークとはなんなのか?

結論から言ってしまうと、それはスタートアップです。コムドットを理解するためには「スタートアップ」の戦略論を知っておくことが不可欠です。

言い換えれば、やまとは「天才クリエイター」として理解するのではなく「優れたスタートアップの起業家」として理解するべきです。彼らが成功した理由を一言でまとめるのならば、スタートアップの戦略論をyoutubeに持ち込みそれを徹底したということになるでしょう。

この文章ではステレオタイプのコムドットのイメージ「子どもっぽい」「ナルシストでイタい」「顔がいいから売れている」「地元ノリとか言って頭悪そう」を転換します。そのために、えびすじゃっぷチャンネルで公開されたやまとの対談動画を、FoundXが提供しているスタートアップの戦略論についてのスライドを参照しながら、彼らが語っていない言葉の裏を分析します。

読み終わった後に、あなたは、「起業家としてのコムドット」「極めて戦略的なユーチューバー」としてのコムドットを理解することになるでしょう。

コムドットは凡人か?

まず、筆者はコムドットのことをyoutuber(動画クリエイター)として天才だとは思いません。そのことを、先日公開された、極めて重要な資料である

【天才対談】コムドットが売れた戦略と裏側の苦悩をリーダーに根こそぎ聞いてみた(2022/2/24公開)

を参照しながら確認してみましょう。

※対談相手のえびすじゃっぷは登録者数50万人のyoutuberです。リーダーはフジ(以下「フジ」と呼ぶ)で、登録者数こそコムドットに遠く及びませんが、コムドットやまとはこの動画の中でも繰り返し、「えびすじゃっぷ」へのリスペクトを口にしています。

※以下のnoteで断りなく「動画の〇〇分から〜」と言及するときは、この動画を参照しています。

この動画の中では「天才」フジと「凡人」やまとという対比が存在しています。動画クリエイターとして、フジは紛れもなく天才ですが、やまとは決してそうではありません。おそらく本人もそれを認識しています。

やまと「天才でもないですからね僕なんて本当に
やまと「天才ってそれこそフジ君みたいなことを言うというか」

真面目にユーチューブ戦略を語るこの対談動画において、やまとが漏らしたこの言葉は、日頃見せている姿以上に彼の本音を現しているものと思います。

しかし、チャンネル登録者数はゆうに300万人を超え、破竹の勢いで成長し続けるコムドットを率いるやまとが自身を『天才ではない』と思う、その逆説とは一体なんなのでしょうか。

それを理解するためには、コムドットの下積み時代を考える必要があります。コムドットには一年以上の下積み時代、つまりほとんど登録者がいない状態での活動期間がありました。ユーチューバーになるぞと決めてから一年以上、毎日投稿や声掛けによる登録者獲得のような地道な活動をしていても、決定的なヒット作を作り出せず、鳴かず飛ばずの状態で過ごしていたことがあるのです。

ユーチューブという媒体は素人でも手軽に始められるものであるために、競争が激しく、下積み時代があるのは当然と思われるでしょうか? いや、決してそんなことはありません。すべてのユーチューバーが下積み時代を過ごしてきているわけではないのです。やや極端な例ですが、天才であれば、一発目の動画から『当てる』ことも可能な媒体です。

実際にこの動画において対談相手であるフジは、一発目に投稿した動画がバズり、登録者数を一夜にして獲得、youtuberとしての地位を一気に獲得しています。

試行錯誤をすることなく一つ目のアクションで「当ててしまう」センスを天才と呼ぶのならば、まさに天才「フジ」に対して凡人「やまと」であることは明らかでしょう。

それでも、動画クリエイターとして凡人であるやまとがここまで圧倒的な成功を収めることができているのならば、その背景にはセンスに頼らない、ロジックに基づいた緻密な戦略と計算があるはずです。彼は動画クリエイターとしてのセンス・嗅覚においては天才ではなくとも、戦略家・リーダーとしての才に恵まれていました。

フジとやまとの共通点

その鍵が「スタートアップ」だと先程言及しました。実はそう読み解くヒントは、この動画の2:51~の冒頭部に既に潜んでいます。

やまと「こういう話とかしたいんですけど、(中略)そういう話したがりな人ってあんまりyoutubeの世界いないじゃないですか。それでまあしたがりな人いるなと思ったらやっぱフジ君。まあだからフジ君と電話するの楽しいんで。」

動画の冒頭部において、やまとがフジに対して「youtubeの戦略論を語ることができるのはフジくらい」ということを言及しています。彼らは話が合うのです。

もちろん、「(youtubeの戦略論を)したがりな人」という言葉通りにこれを読み取って、単純にやまととフジは馬が合うという見方に帰着させることは可能です。一方で、性格の問題だけが、二人の話が合う原因だと断定してしまうのもまだ早い。

性格が合うという以外にも、他のユーチューバーにはない意外な共通点がある可能性を検討し、言葉の裏を読んでみることをあえてここではしてみます。

つまり、youtubeの戦略論をやまとの期待する水準でできるのがフジなのではないだろうか? フジとやまとは他のyoutuberとは異なる戦略論を共有しているのではないだろうか? それこそが彼らが「話が合う」ということなのではないか? そういう仮説を検討してみようということです。

筆者はここで彼らの共通点としての「起業」に注目してみようと思います。

もちろん彼らには他にも多くの共通点があります。その最たる例が「高学歴」というものでしょう。フジは早稲田大学の出身ですし、やまとは上智大学を卒業(追記:在籍中でした。)しています。それ以外にも、若い男性の友達同士で結成したグループyoutuberのリーダーであることも共通点です。また、双方のグループの特徴として「陽キャ」であることも挙げられるでしょう。

ただ、それ以外に注目するべき共通点として彼らには「起業」というバックグラウンドを持っていることが挙げられます。

対談相手のフジはyoutuberになる前に会社を立ち上げていた経験があります。

詳細は省きますが、この動画の3:20~頃、そして5:30~頃(彼は二度、起業に携わった経験があります)からフジが起業をすることになった経緯について言及がされています。

そしてやまとの方にも同じく「起業」というバックグラウンドがあるのです。

ここで、今日二つ目となる、やまとを理解する上で極めて重要な資料を提示します。それは、2020年10月3日にやまとのインスタグラムに掲載された、【夢】という題の文章です。

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この文章からやまとにとって「起業」や「社長」という言葉が重要な意味を持っていることが推測できます。単純に「起業家」になりたいと願っただけでなく、中小企業診断士の勉強をし、事業モデルを考え、社長に会いに行ったということまで考えると、やまとが真剣に起業を考えていたことは明らかです。

では彼がその夢を諦めたのかと言われるとそうでもない。彼にとってyoutuberとして自分たちを運営する会社を設立しその社長に就任するということが、彼の「起業家」になる夢を実現するということでした。つまり、彼の中で起業をすることとyoutubeで上を目指すことはシームレスにつながっていることでもあるのです。

それ故に以下のような大胆なことすら考えられてしまいます。

やまとはyoutuberではなく、起業家なのではないか?

コムドットはyoutuberではなくスタートアップなのではないか?

という仮説です。

一見たじろぐような大胆な仮説ですが「youtubeの戦略論を語ることができるのはフジくらい」というやまとの言及を、以上のような二人の「起業」という共通点を踏まえて見ると、この部分を深読みしてみることに何か面白い発見があるような気がしてきます。

フジとやまとの話が合うのは、多くのyoutuberがyoutuberである中で、彼らだけが起業家であるからかもしれない、ということすら妄想できてしまいます。

その仮説を頭に入れた上で、上記の動画をさらに深読みしていきます。するとやまとはスタートアップの方法論をyoutubeというフィールドに徹底的に持ち込んでいることが明らかになってくるのです。

起業家としてのやまとを読み解く

ここまでの文章で、そもそもやまとは、通常のユーチューバーとは異なった思考をしている可能性が高いという仮説を提示しました。

以下ではその仮説を示すために、対談動画をスタートアップ戦略についての資料を参照しながら深読みをしていきます。

より具体的に言えば以下では四つの概念を提示します。それは

1)学びを単位にリーンにやっていく
2)PMFを目指す(スケールしないことをする)
3)ビジョンを掲げる
4)あきらめない

ことです。

戦略その一:リーンスタートアップ


筆者がやまとのヤバさを確信したのは、対談動画の5:00~頃からのシーンです。特に以下の二つのコメントが象徴的だなと感じました。

5:05「視聴者の意見聞きながらですかね」
5:52「(youtuberは)毎日トライ&エラーを出来るっていうのがすごい自分的には魅力的な職業だなと思ってて」

これは完全にヤバいです。ユーチューバーという職業についての考え方で「毎日トライ・アンド・エラーすることができる」と発言してることは本当にヤバい。

と言っても、このヤバさを理解するためには、リーンスタートアップの概念を理解する必要があるかなと思います。

リーンスタートアップとは、アメリカの起業家によるエリックリースによって提唱されたスタートアップの方法論です。

wikipediaから説明を引用するとリーンスタートアップとは

コストをそれほどかけずに最低限の製品や、最低限のサービス、最低限の機能を持った試作品を短期間で作り、顧客に提供することで顧客の反応を観察する。その観察結果を分析し、製品、サービスが市場に受け入れられるか否か判断し(市場価値が無ければ撤退も考慮)、試作品やサービスに改善を施し、機能などを追加して再び顧客に提供する。このサイクルを繰り返すことで、起業や新規事業の成功率が飛躍的に高まると言われている[1]。

というものです。ここでポイントになってくるのが、「構築」「計測」「学習」のサイクルを短期間で回し続けることです。(リーンスタートアップについて詳しく知りたい方は自分で検索してみると色々情報が出てくると思います。例えば、以下のリンクにあるslideなんかでも理解できると思います)

どれだけの早いサイクルを回すことができるかということはリーンスタートアップにおいて一つの重要なポイントになってきます。

やまとはこの概念に忠実に、トライアンドエラーのサイクルを高速で回すことにこだわりを見せ、それを自らの職業の利点とすら考えています。

コムドットの場合、毎日投稿というものも仮説検証を高速で回すという発想でやっているわけです。普通のユーチューバーであれば、毎日動画を投稿することで、ファンを飽きさせないというところに重点を置いて考えているのかなと思います。一方で、やまとの発言から、コムドットにとっては、他のユーチューバーと異なる発想で、つまり毎日投稿は仮説検証のプロセスを短縮させるためにやっているということが読み解けるわけです。

さらに、プロセスの短縮化ということだけではなく、リーンスタートアップのもう一つのポイントもやまとは忠実に抑えています。例えば6:20~頃の

やまと「そしたらまたサムネ変えてとかやればいいわけじゃないですか。」

という発言もそれを示唆するものですが、それ以上にはっきりそのポイントを言語化していくのは、7:20~頃のふじの「(メンバーが写っていないような)サムネがベストではないように見える時があるのはなぜ?」という質問からやまと引き出された回答においてです。

やまと「トライ&エラーの一環というかマネージャーだけのサムネにした時にどれくらいの再生回数が取れるのかって僕の中で気になるんですよ

これはもうめちゃくちゃにすごくて、やまとは仮説検証において「学び」を徹底的に意識していることが読み解けるわけです。

先ほど述べたように、リーンスタートアップでは「構築」「計測」「学習」のサイクルを短期間で回し続けることがポイントになってきます。これはそもそも何のためにするのかというと、ユーザーにぶつけてみてわかった確実な「学び」を効率的に得るための方法論であるわけです。リーンスタートアップにおいては「学び」が一つの重要な単位になっていきます。

やまとは、ある一つの再生回数を犠牲にすることを厭わず、「学び」にこだわり続ける姿勢を見せています。これはまさにリーンスタートアップを身体感覚レベルで理解していないとできない発想ではないでしょうか。

仮説検証プロセスをできるだけ高速で回し、成長に必要な学びを最大効率で得ることに重点を置く。これが単に「面白い動画を作る」ことに拘らない、やまとの一つ目の特徴的な発想です。

(追記:本文では書き忘れましたが、コストをそれほどかけずに最低限の製品や、最低限のサービス、最低限の機能を持った試作品(MVP=Minimum Viable Product)を短期間で作ることで仮説検証のスピードを高めることもリーンスタートアップのポイントの一つです。この点についてもやまとは動画の10:58~で「僕たちが決めているのは編集のクオリティを上げすぎないこと」という風に言語化しています。これも完全にリーンスタートアップの思考法であり、やまとの天才性の現れかなと思います。)

戦略その二:スケールしないことをする

二つ目のやまとの戦略を検討する前に、スタートアップの話をします。

最初期のスタートアップの戦略として「スケールしないことをする(Do things that don’t scale)」という言葉がしばしば使われます。

これは何か。スタートアップでは資金が尽きてしまうことが何よりも恐ろしいことなので、資金をあまり使わない状態のまま、人々が欲しいと思うプロダクトを作ろうという発想が根底にあります。

と言っても最初に思いついたアイデアをそのまま形にするだけでは、まず間違いなくうまくいくことはありません。アイデアを思いついた段階ではまだユーザーのことをよく理解できていないからです。

そこで、一人の顧客と向き合い手作業で顧客にサービスを届けることが重要になってきます。こうした作業を通じて仮説検証を繰り返す中で、ユーザーを理解することができ、そうして初めてユーザーが欲しいと思うプロダクトを生み出すことができるのです。(詳しい話は以下のスライドが参考になるかと思います。)

一旦まとめると、スタートアップの最初期において重要なのは、「①ユーザーを理解すること」と、「②ユーザーが欲しいと思うものを作り出すこと」です。

後者の、ユーザーがめちゃくちゃ欲しいと思う製品を作ることに成功した状態をPMF(Product Market Fit)と呼びます。初期のスタートアップの目標はこのPMFに至ることです。(こちらのスライドも参考になります。)

スタートアップにおいては、とにかくこのPMFという概念が重要です。PMFに入る前と入った後では明らかにステージが変わるということが言われています。ユーザーが熱狂する製品を作り出すこと。これがなくなったらとても悲しいと思わせるプロダクトを世に送り出すこと。それができて初めて、マーケティングに力を入れて成長(=スケール)をしていく段階に移るのです。

さて、以上の観点を踏まえて、フジとやまとの対談動画を振り返ってみましょう。驚くほどにこの戦略を忠実にやまとが実行していることが確認できます。

どういうことか? より具体的に述べるのならば、やまとは初期の登録者数が少ない期間をうまく利用して、①一人一人の顔が思い浮かぶまでにユーザー理解を徹底的に深め②コアなファンを獲得している状態 (PMF)を実現しているのです。

その証拠は動画の17:55~頃の会話から確認できます。フジが初めてコムドットとコラボした時の印象を語るシーンです。

フジ「(当時のコムドットは)なんか再生数なんか10万行かないくらいだったの。だいたい平均して。でもtwitterとかのエンゲージメントだけめっちゃすごかったの覚えているの。あれなんだ。なんなんだろうこれって思ってたよね。」

再生数の規模感に比べて、ユーザー(ファン)が熱狂するプロダクト(動画)を作ることが実現できていた。成長はしていないがコアファンは獲得している。まさにPMFの状態であり、これは今後のコムドットの爆発的な成長の大きな礎になっているはずです。

そして、この段階でのPMFを実現できた要因として、やまと自身18:20~頃の箇所から「オフ会」について言及していきます。

やまと「youtuberと芸能人の違いってやっぱ圧倒的に距離感な訳じゃ無いですか。(中略)距離感も自分たちで選べるわけじゃないですか。(中略)一人一人が動画を見て成り立っているっていうことを目の当たりにしているんですよね。声かけでチャンネル登録を増やしてる時代ってやっぱ200回再生とかなんですよ。200回再生って大体誰見てるかわかるんですよ変な話。自分たちが声かけた人たちが見てくれているんで。で「見たよ」っていうDMをもらえるんで「あ、この人が見てくれたんだ」「あ、地元の友達のこいつが見てる」とかがわかる訳じゃ無いですか。その人たちが積み重なって再生回数になってるっていうのを僕たちすごい身に染みてわかってるんで」

ここからわかることは、やまとがまさに「一人の顧客と向き合い手作業で顧客にサービスを届けること」というスケールしないことをしていたということです。

改めてこのスライドを眺めてみると、今は有名になったスタートアップも最初期には泥臭い方法で顧客を獲得していることがわかります。これはユーザー理解のためにやっているのです。

例えば、Uberについては、「CEOがコールドコールをして顧客を捕まえたり、twitterでリファラルコードをばら撒くなどしていた。またCEO自身が最初自分で運転をしていた。そうすることで、ドライバーを捕まえずに済んだ。」という事例が紹介されています。

最初期に街中で声をかけてチャンネル登録してもらい、その後もファン一人一人との関係性を意識し続けていたコムドットの姿と綺麗に重なるのでは無いでしょうか。

「スケールしないことをする」。この中のどこまでがやまとの戦略だったのかは断定できませんが、長い下積みの期間を利用しきって、やまとはじめコムドットメンバーが徹底したユーザー理解を行い、PMFを実現することにフォーカスをしていたのは、スタートアップの戦略的観点からすればベストな判断だったのは間違い無いでしょう。

20:00~頃からのやまとのコメントはまさにその意義をやまと自身が短い言葉で語り尽くしているものだと言えます。

やまと「底辺時代を長らくやってたんで、でそういう人たちがいて自分たちが活動してるっていうのをやっぱ念頭に置いてると距離感の掴み方がわかってるんすよね僕たち。例えばどういうことをしたら嬉しいだろうなっていうのは直接聞いてるからこそ分かってる部分であるしインスタライブ何時くらいにやってくれたら嬉しいっていうのをDMとかでもらうわけじゃないですか。そういうのを大切にしててまぁ例えばバイト終わった帰り道に見れるから「22時ぐらいがありがたいです」ていうDMをもらったらあ、じゃあ22時ぐらいにやろうとかそういう底辺時代からやっぱDMを見るとかコメントを見るっていうのをクセ付いちゃってるんであんまやってあげようとかいう感覚でやってないのが上手い距離感の掴み方に繋がってるなと思ってで結局その距離感が上手いから拡散してあげようとか応援してあげようっていう気持ちに視聴者の人たちが自然となってくれる」

ユーザー(ファン)のペルソナをめちゃくちゃ高い解像度で理解をし、さらにユーザーリサーチを今でも大事にしている姿勢は、ユーザーのニーズに応えるサービス(動画コンテンツなど)を提供し続けられるという点でコムドットの強い競合優位性になっているものだと考えられます。

スケールしていない段階でユーザーリサーチを徹底的に行い、どういう人間が自分たちの動画を見ているのか具体的にイメージできるレベルまで解像度をあげる。並大抵の労力では実現できないでしょう。やまとの起業家としての天才性はここにも現れているのです。

戦略その三:ビジョナリーカンパニーzero

コムドットの特徴としてあげられるのは、スローガンが存在することです。「地元ノリを全国へ」というわかりやすく、キャッチーなスローガンは、まさにスタートアップにおけるビジョンと全く同じものと言えます。他の多くのyoutuberがスローガン=ビジョンを持たない中で、活動初期から一貫してビジョンを掲げ続けているコムドットはyoutuberグループというよりもスタートアップのフレームワークで分析することがやはり正しいように思われます。

スタートアップにおいてビジョンというものが持つものの重要性はさまざまな媒体で語られていますが、中でもNETFLIXのCEOリード・ヘイスティングスをして「起業家なら、本書の86ページ分を丸暗記せよ」と言わしめた『ビジョナリーカンパニーzero』をここでは参照していきます。

ビジョナリーカンパニーzeroとはどのような本か。説明のために以下のリンクの記述を引用します。(引用元の記事を掲載しているcoral capitalはスタートアップに関わる者なら知らないもののいないシードステージのベンチャーキャピタルです)

「ビジョナリー・カンパニー」は日本のスタートアップ界隈でも愛読している創業者が多い世界的なビジネス書シリーズです。1994年の第1巻以来、シリーズ5巻は長く読みつがれていて殿堂入りしています。
新たに創業した会社の中には大きく成長するばかりか、継続的にイノベーションを起こし続けて、数世代のCEOの交代を経ても業界トップで尊敬される偉大な企業があります。一方、衰退してしまう企業や、成長が止まる「普通の企業」がある。この違いは、なぜ生まれるのか? この問いに向き合い、長年の研究と科学的アプローチによって分析し、共通項やパターンをあぶり出したのが「ビジョナリー・カンパニー」の名で知られる、ジム・コリンズ氏の一連の著作です。全5巻のシリーズは全世界で1000万部を超える大ベストセラーとなっていて、ビジネス書ランキングでは常に上位。多くの経営者に読みつがれています。

このシリーズの中でもビジョナリーカンパニーzeroでは、特に会社の創業期に注目して議論が進められています

この本の中では繰り返しビジョンの重要性が語られています。例えば以下のような記述です。

・有効なリーダーシップのもっとも重要な要素は、会社のビジョンを誠実に実践することだ。(p81)
・有能な企業経営者は自分の価値観、信念、願望をどこまでも熱く語る。(p82)
・リーダーシップの機能、すなわちリーダーの一番の責任とは、会社の明確なビジョンを生み出し社員と共有し、そのビジョンへのコミットメントと精力的な取り組みを促すことだ。(p156)

これはもうほとんどやまとのことを言っていると言っても過言ではないのではないでしょうか。

やまとの起業家としての天才性が現れるのはビジョンを生み出したという点にとどまりません。むしろその徹底さに見るべきです。彼は、常に「地元ノリを全国へ」というビジョンを語り続けています。そしてそれがメンバーはもちろんファンにまで共有されるものとして徹底的に浸透させようとするのです。

具体的には、SNSで精力的に発言したり

youtubeでは時にメンバー以外の自分の地元の友人を出演させ、さらにはそれらの動画をまとめた再生リストを作っていたり

ビジョンを策定して終わりではなく、それを徹底するために、一見無駄かと感じるほどのかなりの労力をかけているのです。

こうすることで、メンバーのモチベーションを維持し、長い下積み期間でも圧倒的な頻度での投稿を実現し、さらにはファンの熱狂も獲得することが可能となりました。(詳細は割愛しますが動画の36分頃からやまとが語る「底辺時代のモチベーションの維持」についても、ビジョナリーカンパニーzeroを片手に見ると彼のリーダーシップの隙のなさが確認できるかと思います。)

一旦まとめてみると

さてここまで、スタートアップの三つの戦略的方法論、具体的には「リーンスタートアップ」「スケールしないことをする」「ビジョンを掲げる」ことを紹介する中で、やまとの「起業家」としての姿を浮き上がらせてきました。

つまり、やまとは

①youtubeを仮説検証を高速で行い学びを効率的に得ることができるプラットフォームであると再定義しそれを徹底的に実行し
②登録者数が少ない段階で、ユーザー一人一人に泥臭く声をかけ全てのリアクションに目を通すことで徹底したユーザー理解を実現、それを元にコアファンの獲得(PMF)を達成し
③「地元ノリを全国へ」というスローガン(ビジョン)を策定し、それを徹底的に組織に浸透させている

わけです。ポイントは戦略もさることながら、やまとの徹底した実行ぶりにもあるかと思います。

はっきり言ってもうこれだけでもやまと=コムドットの戦略の本質がスタートアップであることは明らかだと思われます。ここでこの文章を終えてもいいのですが、最後に、もう一つだけ重要な戦略を紹介します。それは戦略というにはあまりにもシンプルな「あきらめない」という原則です。

戦略その四:あきらめない

だから今言っておこう。これからひどいことが起こる。それはスタートアップの常なのだ。ローンチしてからIPOや買収が行われるまでに何らかの災難に見舞われないようなスタートアップは1000に1つというものだ。だからそれでやる気をなくしたりしないことだ。災難に見舞われたら、こう考えることだ。ああ、これがポールの言っていたやつか。どうしろと言ってたっけな? ああ、そうだ、 「あきらめるな」だ。

ここで紹介した文章は、2007年にPaul Grahamというシリコンバレーで知らないものはいないであろう著名なベンチャーキャピタリストがYコンビネーターという世界的なシードベンチャーキャピタルの夕食で行った講演です。

筆者はこの文章が好きで、初めて読んだ時から何度となく読み返してきました。あきらめないこと。言葉の上では簡単ですが、それがどれだけ難しいことかは、多くの人が身をもって知っていることでしょう。

ここまで色々と書いてきましたが、なんだかんだコムドットの最大の凄さは、底辺時代に諦めなかったということにあると思います。

「地元ノリを全国へ」というスローガンを掲げ、YouTubeで成功することを目指しながら、ほとんど登録者のいない状態で、1年から2年にわたる期間を過ごすこと。周囲からの視線や、何より自分たち自身の心の声から挫けそうになったことだって、一度や二度ではないと思います。

その中でもコムドットが諦めずにいられた勝因は「メンバーが本当に仲が良かった」ということに尽きるようにも思われます。どんな戦略を差し置いてても、何よりこのメンバーでグループを結成したことがまさに彼らの強みだったのではないか。この実績が証明するのは、コムドットのクリエイターとしての才能やインフルエンサーとしてのセンス以上に「彼らが日本一仲の良い友人同士だった」ということなのではないか。これも彼らの戦略として語ることができるでしょう。

稀有なリーダーに恵まれ、組織としての一体感が非常に強く、その上でスタートアップの戦略を忠実に、かつ、徹底的に実行したこと。これが彼らの成功の秘訣であるように思われます。

終わりに

以上、コムドットの戦略をスタートアップで語られる概念を用いて説明してきました。もう少し短くなるかと思ったのですが、書き終わってみれば12000字を超える大作となりました。

タイトルを含めて(まだ誰も気づいていない、というのは多分そんなことないので申し訳ない………文中で紹介したコムドットの分析はどれも興味深く拝読しました。)多くの方に読んでもらいたいという思いから、所々根拠のない断定が多く見られたり、議論の飛躍などが存在する文章になっていることは筆者も承知するところです。YouTubeにたいして筆者は造詣が深くない上に正直自分がコムドットのファンであるかも怪しいので、単純に事実と反するような記述もあるかもしれません。ただ、コムドット=スタートアップ説、これ自体一つの仮説としては面白いものとして提示できたのではないかと秘かに自負するところです。

ここまで読んでくださりありがとうございました。面白いと思った方、ぜひコメントなどいただければ幸いです!

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