風をかたどる(ユリアと彼女の愛するひと)

 ※このあいだアップした「ひとりではしる」ののちの話。
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 庭を歩くだけなのに着膨れてしまって、そんなユリアを彼は笑っていたけれども、いざ歩き始めると彼は「寒いな」と言い出した。ユリアは襟巻きに顎を埋めて、ふふと笑う。秋の庭は色づいた木々が吹く風に葉を舞わせている。明日になれば葉はかなり落ちてしまっているのではないかとそんな気がした。
 庭師は毎日落ち葉を掃いているが、これでは追いつかない。追いつかなくても、庭師は葉を掃く。そうやっていつもこの庭は美しい。
 風が強く吹く。木の葉が舞う。舞い落ちる葉が、地を滑る落ち葉が風をかたどる。葉をまだつけた柳の大木が、ゆらゆらと枝を揺らした。
 その枝の下には誰もいない。
 ユリアは隣を歩く彼を見上げる。肩をすくめているように見えるが、首をすぼめているのだ。よほど寒いのだろう。風が強い。ユリアは襟巻きを外し、背を伸ばして彼にかけようとした。それはまずいと彼は言ったが、無理やり首にかけた。ふぅと息を吐いて暖かいなとつぶやいた。温もりを分けあえたならうれしい。首元に吹く風が冷たくて、今度はユリアが首をすぼめた。
 「戻りましょうか」
 ユリアは言った。先ほどまで襟巻きで押さえつけられていた彼女の長い髪を風が乱した。