吉報(戦後のセティとホークの話)
このところの難提は王の結婚である。そろそろしてもらわなくては困るのだが、相手が難しい。各国の王たちのように先の動乱で決まった人と結ばれいれば、諸々の問題は起こっただろうが押し通せた。なのに王にはその気配はない。やはりまだ独身でいるフリージ公ティニーといい仲だったのではないかという噂もまことしやかに飛び交っているが、実際のところはわからないし、もしそうだったとしてもフリージ公はフリージを離れないだろうし……と思っていたところに大きな知らせがきた。
王に呼ばれで行くと、いくつかの用件を話した後に上機嫌そうに王が言う。
「ところで公式にはまだ伏せられているが、フリージ公が婚約するそうだよ」
それはそれは、ついにですか、などと思うが相手が浮かばない。フリージにいるアミッドと共にいる妹のフェミナからもなんの情報もない。
「……それはおめでたいことですね。お相手は?」
「デルムッドだよ、アグストリアにいる」
意外なような意外でないような名前である。ホークはその人に会ったことはないのだが。
「ほぅ、では婿に入られるのですか」
「それが違うらしい」
「……? ではドズル公が従兄弟殿に爵位を譲ってフリージに?」
言うと王は笑って言う。
「それはないよ。あの二人はとても上手くドズルをまとめているそうだし、それにアーサーはそういうことはしない」
「さようですか。しかし、では……」
「……本当に、聞いていないのか?」
「は?」
「フリージはアミッドが継ぐようだよ」
そんなことは聞いていない。
「つまりお前の妹のフェミナはフリージ公夫人となるわけだが」
返事をしないホークに王はそう説明するがそんなことは言われなくてもわかる。
「それはわかっていますが、いや、大丈夫なんですかね、それは」
「お前らしくない物言いだな。送り出すときそのくらいの覚悟はしてたろう?」
「それはそうですが」
「本当にフェミナは何も言ってこないのか」
「はい。しかし内密なのでしょう。そういうことは全く漏らさないたちですね、妹は」
「口が硬いんだな」
「いや、かたくななんですよ」
話がフェミナのことになってしまった。それよりもフリージ公の話だったのだ。すぐにどうこうの話でもあるまいが王は婚礼には出るのか、アグストリアに行くのか、行かないなら使者は誰を立てる。いったん妹のことを頭から追い出して頭を回転させはじめると、王が「気が早いぞホーク」と言う。
「婚約といっても結婚はまだ先らしい、かなり先だろうな」
「そうなのですか?」
「そのようだよ」
アグストリアがもう少し落ち着くのを待っているのかな、でもそれを待っていたら先が長いだろうと王は言った。
「それはそうと、王もそろそろ」
ホークが言うと王は「そう言われると思ったよ」と言って笑った。この話題を振るといつもあたり楽しくなさそうな顔をするのに、フリージ公の婚約が本当に王には嬉しいようだった。