雨3(ジャンヌの話)
てのひらに力が入らない。指が動かない。先ほどから湿った布を絞り続けているが終わりがない。
ずぶ濡れの兵士たちが次々と戻る。体が冷えないように濡れたものは脱いでもらう、乾いた布で体を拭ってもらいたいが、足りず、体を拭って重く水を含んだ布を次の兵士が使う。やがて水が滴り落ちて役目を果たさなくなる。あちらに火が、あちらに飲み物が。ここには布が。布が。もう乾いた布はない。ジャンヌは搾り続けて力の入らないてのひらを自分の腿に叩きつけた。
負け戦はある。しかし今回解放軍が負けたのは帝国ではなく天候だった。帝国がこの地の天候をよく知るものを連れ去るか殺し尽くすかした結果、解放軍は雨に負けた。その土地の空の動きを知るものが戦には必要だった。雨に兵は濡れながら敗走した。
「ジャンヌ、代わって!」
明るい声が背後からかかった。振り向くとパティが立っている。
「交代、交代!」
「でも……」
「そう言わずに休んで!……って言いたいところだけど、杖が足りないの」
それを聞いてジャンヌは息を止める。いままではずぶ濡れの兵士しかいなかったが、杖が必要ということは傷ついた兵士が戻り始めているということだ。
「こっちは任せて! 頼んだよ」
そうパティは言った。ジャンヌは傍らの杖を掴み立ち上がった……つもりだったが、握力を失った指は杖を取り落とす。杖が派手な音を立てて床に跳ねた。