聖戦のおはなし② 7/12

前回の続きです。

バルドの皿

シアルフィでは筆頭騎士に銀皿が下賜される。バルドの皿と呼ばれている。それが皿である謂れをオイフェは父から聞いたことがあるが、一般には知られていない。
さてオイフェがシアルフィを継いでグリューンリッターの再編に取り組む中で、この皿をどうするかをオイフェは考える。元々はロプトとの戦いの中で軍功を挙げた配下の騎士に磁気の皿に料理を山と盛って与えたという故事が形式的になって銀の皿になったもののようで、元はと言えば主は料理であり皿は従である。食べ物は消えるから形式的に皿になったのだろう。しかし皿を作っていた職人たちも死に絶え、歴代の騎士たちに贈られてきた皿たちも失われた。絵図もない。さてこの皿を復活させるべきかどうか、もうしばし思案しようとオイフェは思った。

ヘイムの床

バーハラの城はありとあらゆるところが見事な彫刻に飾られている。目も眩みそうだし、実際にその全ての価値を意識しながら過ごしていたら目が眩んでしまう。生まれてこのかたこの環境に包まれている王族にとってはこれが普通のことなのでなんとも思わない。よって目も眩まない。たまに訪れる者に対してはグランベル王家の圧倒的な力を示す役割を果たすのだ。
多くのものはこの城で天井を見上げるのだが、そうではない人もいる。ディアドラは先ほどからずっと自分の爪先のあたりを見ていた。磨かれた石が滑らかに光っているが、ディアドラにはその冷たさがどうも落ち着かない。記憶がないからわからないのだが、何か違う気がする。足の裏が、まだと柔らかい世界に慣れ親しんだことを覚えているようだ。頭では全く思い出せないのに。
この城に初めて来てそんなに下ばかり見ている人はお前が初めてだよと祖父が言った。ディアドラ は顔を上げて祖父を見る。床に何か見つけたのかいと祖父は言う。何か答えなければいけないような気がして再び視線を落とす。床には足のはめ込んで鮮やかな文様が描かれている。鮮やかな…この文様はなんだろう。星か、太陽か、それとも光そのものか。