聖戦のおはなし⑤ 11/12

つづきです。かけるテンションの時かいてしまいたいので。けどあと一話は書けていない。

ノヴァの閾

レンスター城のいくつかの城門に至る道、その一つが、城の少し手前で鍵型に道が曲がってから門へと導かれる。防御面の意味は見出せそうだが、城外の道で周りは草地であるし、櫓も遠くて意味を成していない。
明らかに不自然なそれをアルテナは奇妙に思ったが、さらにアルテナ様はあまり近づくなと言われていた。理由を問えば、かつては道も真っ直ぐでその道の先に立派な門があったというが、愛するものを失ったノヴァが悲嘆のあまりこの門の閾の上で倒れ伏したというのであった。それからしばしでノヴァは亡くなったのだという。門は閉じられ道は付け替えられた。ノヴァの時代から時がたち城の改修でその閾も門も、もう誰もそこを通れるようにと姿を消したが曲がった道がその名残となっているということだ。
そういうことになっているのか。
北トラキア、特にレンスターの人と話していると、その人たちの知るノヴァとトラキアで自分が知っているノヴァにあまりに開きがあって驚くことがある。ノヴァの死に至る物語もそのうちの一つだ。ノヴァがどう生き、何を思い、死んでいったかはアルテナには知る由もない。けれども不自然に曲がった道は過去に確かに何かがあったことを示しているのだろうと思われた。

オードの井戸

シャナン、何をしているの?
エーディンに声をかけられてシャナンはぴくりと肩を震わせた。
「なにもしてないよ」そう言って、手に持っていた木刀をエーディンから見えないように自分の陰に隠した、つもりだった。もちろん隠し切れていない。
別にエーディンの声に咎める色はなかったのだが。
「井戸が……」
「井戸?」
「……ううん、なんでもない」
シャナンはこの場所に井戸があればいいと思ったのだ。だから、シャナンは木刀で地面を突いた。
イザークの各地には剣聖オードがバルムンクで地を突き水の沸いた井戸というのがいくつもあるのだ。だから、自分も、地を突いてみた。ここにも井戸があったら暮らしの苦労が減ると思うから。しかし、何も起こらなかった。
「オイフェがシャナンを探していましたよ」
エーディイは井戸のことは追わず、要件を告げた。「うん、わかった。ありがとう」とシャナンは答え、木刀を置いた。エーディンはその木刀を目で追っていたが、何も言わなかった。