聖戦のおはなし⑥ 12/12

これでおしまいです。よんでくださった方、ありがとうございました。

セティの窓

半ば雪に埋まった窓から外を見ると、強い吹雪が止んだ後の世界は白い雪が太陽を照り返してどこまでも眩しい。目が絡みそうである。天からも地からも刺す強い光を少しでも和らげようと暗い色の布で鼻から下を覆う。さて外に出ようと扉に手を当てるが、扉が開かない。雪が積もりすぎているためだ。まずは扉を開けなくてはいけないから、先ほど外を見た窓とは違う、高い位置にある窓を開ける。そこから雪除けに必要な道具を外に放り出して樏を履いて窓から身を乗り出す。ゆっくりと外に着地したつもりだが、樏を履いていてもなお体が沈んだ。やはり一面が白く輝いて、アーサーは目を眇めた。そして放り出したおかげで雪に沈んだ雪除け道具を身をかがめて掘り出した。
と、そんな昔話をふと思い出したのは、シレジアを出てしまえば、「南向きの高い位置の窓」というのが家に備わっていないことに気づいたからだろう。まぁ、扉が開かないほどの豪雪に見舞われる恐れがなければそんなものは必要ないわけだが。
「言われてみれば確かにないね、セティの窓」とフィーは言う。
「セティの窓?」
「え、アーサー知らないの? あの窓のことセティの窓っていうのよ」
「知らない、いや、知らなかった。いま知ったよ」
アーサーにそんなことを教えてくれる人はシレジアではいなかった(餓えぬよう、凍え死なぬよう、助けてくれる人はいたけれども)……でも今は、こうしてシレジアから離れていても、教えてくれるフィーがいる。いつかともにシレジアに帰る日が来たら、もっとたくさんのことを教えてもらえるだろう、と、アーサーはそんなことを思った。