ストーブ

[ストーブ]
軽快なギターが鼓膜をくすぐる。
…ストーブ、冬の曲だろうか?ストーブのような暖かい曲?
♪そろそろストーブをつける頃
思い浮かべた光景は冬休み。雪が沢山降る地元。外には雪が積もっていて、寒い寒いと言いながらストーブにあたる。

♪小窓のあなたも煙になる
小窓…煙…煙とはなんだろう?小窓に吐いた息の水蒸気だろうか、と少しの疑問で思い出が霞み、点と点を強引に繋げる。

♪泣くだけ従姉妹は手伝わぬ
 別れの言葉は喉の中
…やはりそうか。これは冬の寒い日にストーブをつける、といった曲ではない。この曲中でさすストーブとは火葬炉の事だ。理解した瞬間から絶えず涙が溢れてくる。
火葬炉、つまりお別れ。あなたにはもう二度と逢えない。あなたはもうどこにも居ない。


火葬炉ではなくストーブと歌うその柔らかい声と表現がまた涙を誘う。

これは火葬炉だとお別れ感が強いからなのかな。火葬炉と聞くと、どうしても堅くて冷たい感じがするから。

だからストーブか。
ストーブの方が火葬炉なんかよりもずっと柔らかいし、あったかい感じがする。お別れ感もあんまりないかも。
優しい表現だなぁ。

敢えて火葬炉という言葉を使わない。
もしかすると頑なに使いたくない、のかもしれない。

強がりだよね。あとひと月半はデートもしまくり、とか。もうあなたは居ないのに。生きてた頃に行ったデート先を巡ったりするのかな。
笑顔で涙零しながら。

思い出すのかな、幸せの日々を。そしてきっと思うんだろうな。できることなら、もっとずっと一緒にいたかったと。

止まった体はどこに行くんだろう。
上る煙を見上げながら考える。空が眩しい。清々しいほどの青空だ。心の中とはまるで反対で。何故こんなにも青空か。
あぁ、でも青空で良かった。明るいあなたにぴったりだ。
それにね、あなたの煙がよく見える。

見上げ続ける。涙を零したくなくて。
最後のあなたをずっと見ていたくて。

またね、デートでまた会おう。
さよなら、あなたのいれもの。





お葬式ってキレイなものだと思われているけれどほんとはそんなこともないんだよ、って。
そういうことを言いたくて。

綺麗なものだけ見ていたい。
綺麗なものだと信じたい。
誰もがふと感じる絶望を。あの人は優しい音にする。

やっぱりこの世界を生きている限り絶望からは逃げられない。
そんな思いを紡いでいたあの頃の音も何気ない幸せを紡いだあの音も、近頃では希望を含む音が輝いて。
いつのどの音も心の奥に深く刺さっては深く響く。

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