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*dʰeh₁- [doom/प्रतिनिधि]

"doom"と聞くとどんなイメージだろうか。Doomsday は「最後の審判」、「人類滅亡の日」や「破滅の運命」というニュアンスで使われるが、脳内でヒンディー語の "dhoom" のイメージがいつも邪魔してくる。

英語の doom に付きまとう暗雲立ち込める破滅の運命というイメージに、ヒンディー語の धूम (dhūm) [煙] や धूल (dhūl) [土埃] という単語が勝手に頭の中でミックスされて、あれっ? doom って本来どんな意味だったかなと分からなくなる。“doomed” と使われると「滅びに定められた」と訳せるが長すぎてお堅いので「お先真っ暗」と考えたいが、余計に「暗雲」のイメージが入って来る。たちのわるいことに、धूम (dhūm) はお祭りやお祝いで大騒ぎする喧噪のことも指すので、doomと聞くと最初は暗雲立ち込める情景が思い浮かんでいるのに、なぜか途中から紙吹雪や色煙の中でドラムを叩き鳴らして踊るムービースターが頭の中に登場してくる。これは語源という脳内整理の薬を処方せねば。

English "doom"
← OE dom (“judgment”)
← IE *dʰóh₁mos
← IE *dʰeh₁- (“to put”) +‎ *-mos (action or result suffix)
*dʰeh₁-につながる単語は他に "do, deem, -dom" など。他にも多数!!「法」や「裁量」に関係していそうな語が多い気がする。Doomsday とは字義的には "Judgment Day" ということか。

dʰeh₁-につながる サンスクリット系語彙 निधि (nidhí) は「給仕・基金」と一見関係のなさそうな意味だが、手元に置かれた巾着袋や小箱に入って差し出された何かをイメージすると分かりやすい。持っているものの中から一部を取り分けて目の前に置く प्रति (prati) "towards" + निधि (nidhí) "put" ということで権限を委任する प्रतिनिधि (pratinidhi) "delegate" とつながるのだろう。*dʰeh₁-は"put"だが、「手をのばして裁量の届く範囲でつかんだものを、目の前に落とす」とイメージすると、派生語を包含できそうだ。

Hindi "dhoom"
(1) धूम (dhūm)
← Skt धुनि (dhuni) "roaring, sounding"
← IE *dʰún-is
← IE *dʰwen- ("to make noise")
*dʰwen- につながる単語は धुन (dhun), ध्वनि (dhvani) "sound, tune" や、英語の "din"。

Hindi "dhoom"
(2) धूम (dhūm)
← Skt धूम (dhūmá)
← IE *dʰuh₂lis
← IE *dʰewh₂- ("smoke")
*dʰewh₂-につながる単語は धुआँ (dhuā̃) "smoke", धूल (dhūl) "dust", 英語の "dust, dew, fume..." など。ギリシャ語の τύφω (túphō) "to raise smoke" も*dʰewh₂-から来ているようで、ギリシャ語の Τυφῶν がアラビア語に入りそこから逆輸入でポルトガル語などを介してtyphoonという語がヨーロッパ言語に入ったという説もあるらしい。

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