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*wed- [water/otter/Vodka]

redundancy~冗長性あるいは余剰性。語源は ラテン語の redundō の変化形 redundāns からで、分解すると red- ("again, back") + undō ("to surge, flood") となり、この undo のところが "a wave" を意味する unda から来ている。海の波のように繰り返し押し寄せる様から来た言葉とのこと。

unda は 印欧語根の *wed- ("water") と関連があるらしい。

印欧語根 *wed- に関する語は wash, water, wet とあるが、意外だったのが「otter」。なるほど、日本語でも「カワ」に棲む「ヲソ」恐ろしい、よくわからないおごそかで不思議な生き物(海遊館のHPより)、という意味があるのと同じ気持ちなのか。ヒンディー語で ऊदबिलाव (ūd-bilāv)。bilāvは雄猫を意味しイタチ型の生き物全般を指す言葉にもなっているが、前半の ऊद (ūd) あるいは サンスクリットでは उद्र (udrá) そのものがカワウソやビーバーの類を指す言葉だ。udra と hydraは音がよく似ている。それもそのはず、ヒュドラのギリシャ語 ὕδρα (húdra) はおなじ語源で、*údreh₂ あるいは *udrós [= *wed- (水に) +‎ *-rós (棲む生物)] から。

他にも whiskey や во́дка (vódka) [= вода́ (vodá, "water") + -ка (-ka, 指小辞) も *wed- から来ている。whiskey は 中期ラテン語 aqua vītae ("water of life") をアイルランド語に翻訳借用した uisce beatha から来た、usquebaugh という単語の略語 usque の 別綴りとのこと。

ここで疑問に思ったのが、ラテン語の「水」aqua は *wed-系統とは関係がない。印欧祖語 *h₂ékʷeh₂ (語根 *akʷā- あるいは *h₂ep-) から来ている。*akʷā-系統はゲルマン語に行くと、*ahwōとなり、古英語の ēa (islandの最初の "i" の部分) になるそうだ。フランス語 eau も 古フランス語の ewe, euwe, egua ← ラテン語の aqua から来ていて同じ系統。*h₂ep- は サンスクリットになるとअप् (ap)、ペルシャ語に下ると آب (âb) になる。薔薇のことをगुलाब/گلاب (gulâb) というが、gulは花, abの部分が「水」。

さらに脱線するが、ペルシャ語の gul (花) は薔薇のことだが、中期ペルシャ語 gwl、古代ペルシャ語で *wṛda- とされる。この *wṛda-が、古代ギリシャ語に入り、ῥόδον (rhódon) となり、オスク語を経由してラテン語に入ったのが rosa という説もある。

印欧祖語で「水」を意味する語がなぜ2系統あるかと言えば、能動的要素には*wed-、受動的要素には *h₂ep- という対立があったのではという考察がある。同じ例として「火」にも能動的 *h₁n̥gʷnis 系統 [ラテン語 ignis, サンスクリット अग्नि (agni)] と 受動的 *péh₂wr̥ 系統 [ギリシャ語 πῦρ (pûr), 古英語 fȳr 英語 fire)] が対になる。能動vs受動あるいは有生vs無生の捉え方が文法上の性の起源になったという。

#1135. 印欧祖語の文法性の起源
https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2012-06-05.html

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