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*sem- [same/homeo/समुद्र/ہمسفر]

接頭辞の語源は、語彙が広がりすぎてカバーしきれないのであまり普段深追いしないが、最近考察したものが関連し合っていて連鎖的にハッと気づかされた。

*wed-が "water" の語根で、それに関連のあるサンスクリットの単語で udra は otter のことだった。udra に 関する基本語彙がもうひとつあった。 "together, wholly" を意味する接頭辞 सम्- (sam-) を उद्र (udra) につけると、समुद्र (samudra)「海」だ。現代口語では転訛して समंदर (samandar) とも言うが、こんなに基本的な単語の構成が sam + udra だったとは長年気がつかなかった。

समुद्र (samudra) の接頭辞 सम्- (sam-) は、他にもさまざまな単語の接頭辞になっている。संस्कृत (sáṃskṛtá) “Sanskrit” を分解すると सम् (sam, “together, wholly”) +‎ (स्)कृ ((s)kṛ, “to do”) +‎ -त (-ta, “-ed”)で、「良く作られた」という意味だが、語頭にこの語がある。「一つの・集まる・全部」ということは「無欠・完全・良質」ともつながる。この接頭辞 सम्- (sam-) は究極的には印欧祖語の *sem- ("one") に遡るようだ。*sem- に連なる英語の単語は、same, seem, similar, simple, single, some, -some... などなど。「同一・同じような」という意味の語彙に繋がっていた。接尾辞の-someは、「傾向」を意味する形容詞になったり、数詞につくと「~人組」を意味するが、「~でくくられるその類・まとまり」というニュアンスなのだろうか。

*sem- ("one") に関連する語に、「同一・同族」を意味するギリシャ語起源の接頭辞 homo-, homeo- がある。super/hyperの例からも、ラテン語での/s/が ギリシャ語起源の語の/h/に対応しているのが分かる。これでハッと気づかされたのは、ペルシャ語 هم (ham) は サンスクリット सम्- (sam-) に対応する語だったのだ。

ペルシャ語系単語のヒンディー語で हम (ham) が語頭につく語彙がたくさんある。
हमसफ़र (hamsafar) "together + traveller" = "companion"
हमदर्द (hamdard) "together + pain" = "sympathy"
हमउम्र (hamumr) "together + age" = "contemparary")

ヒンディー語の人称代名詞(二人称複数 "we") が  हम (ham) なので、それに関連するものと勝手に考えていたが、人称代名詞の ham はペルシャ語ではないので、そんなわけなかったのだ。

似たような接頭辞に、"with, in company with, together with" という意味の英語の接頭辞 syn-/sym- がある。syn-は ギリシャ語 σύν (sún) から来ている。syn-のつく単語はたくさんある。
symposium [συν- (sun) + πίνω (pínō, "drink")] 共に飲む→饗宴→討論会・シンポジウム。
synergy [σύν (sún) + ἔργον (érgon, "work")] 共に働く→相乗効果・シナジー。synagogue [σῠ́ν (sún) + ᾰ̓́γω (ágō, "I lead")] 共に連れて行く→集まり・シナゴーグ。syzygy [συ(ν) (su(n)) "together" +‎ ζυγός (zugós, "yoke, pair") -ία (-ía)] 共にくびきに繋ぐこと→連接。

syn- も *sem から来ていてもおかしくないかと思ったが、英語語源辞典によると syn- の印欧語根は *ksun- としていて、*sem-との結びつきについては述べていない。*ksun- は スラブ語では su-/so- になり、Soviet の so- [съ- (sŭ-) + вѣтъ (větŭ, "agreement")] や Sputnik [ с- (s-, "with, together") + пу́тник (pútnik, "traveller")] の s- の部分がそうだとのこと。そうか、спу́тник はそのまま हमसफ़र なのか。

*ksun- は *sem と *kom (「共に」という意味の接頭辞や接続詞の "con-") を、意味が似ているため合成してできたとする見方もあるようだが、その説は確立されてはいないようだ。敬遠していた他の接頭辞も少しずつ調べてみたいと思った。

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