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*preyH- [friend/Friday/प्रिया]

気付かなかった別々の語彙が、グリムの法則を知ることでつながるAHA体験。「p → f への変化」で、father と paternal [पिता]、foot と pedal [पैदल, पैर, पाँव, पद्] はよく例に出るが、最近そうかと思った語彙は friend.

friend
←中英語 frend, freend
←古英語 frēond ("loving[-one], lover")
←西ゲルマン祖語 *friund
←ゲルマン祖語 *frijōndz ("lover, friend")
←印欧祖語 *preyH- ("to like, love")

friendの原義は「愛する人」だが、インド語派では pry の音が良く残っている。प्यार, प्यारा, प्रिय, प्रिया, प्रीतम, प्रीति, प्रेम, प्रेमी など、愛に関する頻出の単語が friend と関連があるのは目から鱗だった。

また、*preyH-(愛) を元とする英語の fr- で始まるよく知っている単語と言えば、なんと Friday。

Friday
← 古英語 frīġedæġ [frīġe + dæġ]
← 西ゲルマン祖語 *Frījā dag

Frīġ (古英語)
Frigg (古ノルド語)
← ゲルマン祖語 *Frijjō (goddess)
← ゲルマン祖語 *frijōną ("to love")
← 印欧祖語 *priHyéh₂ti ("to love")
← 印欧祖語 *preyH- ("to love") +‎ *-yós (deverbal adjectival suffix)

Friday は スペイン語でも Viernes と言うので繋がりが分かる通り、愛の女神 Venus の日、北欧神話では愛の神 Frigg の日、ということだ。英語語源辞典によると後期ラテン語の Veneris dies の "なぞり" ということだ。

惑星つながりで、sapphire の語源も元はサンスクリットの शनि प्रिया (Shani Priya; "Lover of Saturn") が関係しているらしい。

それよりも意外だったのは「free」も friend と同じく *preyH- (*pri-) を語源としていること。語源辞典には「『愛する, いとしい』→『自由な』の意味変化はゲルマン語とケルト語に共通して見られる。ゲルマン語における用法はケルト語の影響か」とあった。

free
←中英語 free, fre, freo
←古英語 frēo
←西ゲルマン祖語 *frī
←ゲルマン祖語 *frijaz ("beloved, not in bondage")
←印欧祖語 *priHós ("dear, beloved")
←印欧祖語 *preyH- ("to love, please")

ゲルマン祖語で「free」の意味が変わったのは、「愛する人→家族・同族の人→農奴・奴隷ではない・自由人→自由な」という意味の変化があったようだとの考察もある。

friend の多義性と、印欧祖語の時代以降の意味変化の繰り返しについて詳しくは、「hellog #4381. friend の意味変化と多義性」へ。(https://user.keio.ac.jp/~rhotta/hellog/2021-04-25.html)英語史コンテンツの記事「友達と恋人の境界線」も面白い。

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