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*mew- [move/emotion]

「“小さな世界”の大引っ越し」ほどではないが、家族のために腹をくくって大引っ越しを敢行。4月から色々と”fresh”に始めてみようと思っていたが、それどころでは…。整理するのに後どれぐらいかかるだろう。そんな合間にも語源辞典だけは箱詰めせず手元に。引っ越しだから "moving" について語源を調べてみた。

move
←中英語 moven, moeven, meven
←古ノルマン語 mover, moveir
←古フランス語 mouver, moveir
←ラテン語 movēre,
←印欧祖語 *mew- (“to move, drive”)

mud につながる語根 *mew- (meu- ) と関連があるかと思いきや、語源辞典では別項目になっていて別物のようだ。動き回ることと泥まみれになることは関連がありそうだが、そう簡単に同じとは言えないのが難しい。moveの*mew- (meuə-) に由来する単語は他に、mobile, motive, motor など。

ラテン語・フランス語経由で入って来た move が、それまであった 本来語の stir に取って代わったとのこと。(stir < ME stiren < OE styrian < IE *(s)twerH- /*twer-) *twer-からは storm, turbid, turbine など。त्वरते [tvarate] ("to hurry, hasten") と関連ありかも。

*mew- (meuə- ) は Sanskritの मीवति [mīvati]("pushes, presses, moves") につながるが、他に派生した現代語は特に見当たらない。類似の意味だが異なる語派から来た別語源の単語に取って代わられることは英語にもよくあること。ある印欧語根のインド語派に下った単語をみつけようとしても、見あたらないことはよくある。

なんとなく、move系 (motive, emotion) も、stir系 (disturb, troubleも) も、物理的な物の移動だけでなく、感情が動かされる(かき乱される)ことに関わる意味が根底にあるような気がする。

I was moved.
It motivates me!
The photos stirred up some painful memories.
He was deeply disturbed.
This left me feeling very troubled.

emotion のもとになったラテン語の  ēmōtus (ēmoveō) は ex- ("out of") +‎ moveō ("move")から成っているし、こころを かき乱す(stir/disturb)事象がtroubleということなのか。

日本語の「引っ越し」はただの「移動」ではなく特有の意味合いがこもっているので、英語で「moving」の一語で置き換えられることに味気がないと思っていたが、いやいや move の一語のなかにこれほど心動かす力がこもっているとは知らなかった。

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