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POETRY FES "SPOKEN WORD BOY" 書くことと生きているのこと、ありがとうのこと

2022年の7月7日の記録になる。僕がさっきまで参加していた、POETRY FES "SPOKEN WORD BOY"のことだ。LIQUIDROOMを出て、恵比寿駅に着くまでの道でnoteを開き、1番線の山手線を待つ。手が止まらないうちにと、これを書いている。21時15分。まだ嬉しさが残る。

GOMESSに会いに行った。全然チェックしていなかったのに運良くYouTubeでこのイベントの告知を見かけて、出演アーティストの一欄を見て、タイミングが来たと思った。仕事のシフトも示し合わせたかのように、休みだった。僕はGOMESSがずっと好きだったし、人生の難しいタイミングで彼のラップに何度も救われてきた。だからお互いが生きているうちに一度は会いたかった。そしてありがとうは生きているうちに言っておきたかった。それが僕からの一方的な希望であったとしても、僕には大切なことだった。生きていることだけが人であることだとは思わないけれど、生きているうちしかできない人であることがあるからだ。そのタイミングを探していた。そして今日、僕が望んだ通りそれは叶った。

このイベントは17時過ぎに開演し、20時半くらいまで続いた。GOMESSの出番は後半だったが、時間の流れは早かった。本当はもっと書きたいけれど話題がずれるので少ししか書かないのだが、僕は日高大地も好きで、めちゃくちゃ良かった。やっぱ上手い人は本当に上手いし、楽しそうなのが一番好きだ。言葉が全てわかるくらい聞き取りやすかった。激褒め。話題を戻すけれども、そうこう楽しんでいるうちにGOMESSのパフォーマンスが始まった。動画で観るのとは比べ物にならない圧倒的な迫力で、やはり彼もとにかく聴き取りやすく、かっこよかった。しばらくして周りの数名がスマホを取り出したのがわかった。即興混じりの今日だけの歌だ。撮りたくなる気持ちがわかった。僕もスマホを取り出して動画に撮ってしまう選択肢はあったが、それはしなかった。今日は動画も、写真もサインもいらなかった。それはまた後で書くけれど。

今日は振り返るためにない。長らく滞っていた、しかし最近になって少しずつ動き出した人生ゲームのマスをまた一つ進めるために今日があると、あの場に至る前からわかっていた。だから僕はずっとそれぞれが歌うその目を見つめていた。言葉の全てをできる限りその場で受け止めた。色々なことを感じ、考えていたと思う。それでも、もうその多くを覚えてはいないし思い出せもしない。遡って解釈することもできない。勿体ない気もするけれど、それでも良いと思う。それがきっと愛することや居合わせることの覚悟だと思う。取り戻すことはできない。全てをそこでやらなければいけないタイミングが必ずある。もとよりそのつもりだった。そうしたつもりでいる。

公演が終わって、少しだけ時間があった。順番を見計らって、僕は会場に残っているGOMESSに話しかけた。フランクで、しかし丁寧な言葉遣いで対応してもらえる。実際に話す距離に立ってから、なんか普通に居るんだなと、変なことを思っていた。挨拶をして、簡単な感想を伝えながら何をどの順番で話すべきか考えた。ただいずれにせよ、最後に伝えたいことはありがとうだった。だから彼のラップに救われてきたこと、生きているうちに面と向かってありがとうを言う必要があったことを説明した。そしてありがとうが言えた。彼は嬉しいと言った。

彼は一人のファンでしかない僕にもまた会えると言ってくれた。実際ライブにはまた行くと思う。そうすればまた会える。ただ、初めて彼と向かい合って言葉を伝えている間、僕はそういうことは書かないだろうとわかった。僕はまだ書く人でいる。書く人でありたい。書く人になりたい。写真もサインもいらないと思ったのは、同じだと思ったからだ。

僕の書くことは仕事ではない。仕事にしたいとかそういうのも別にない。その意味では、現にプロのアーティストとして目の前に立つ彼と、閉演後に話しかけてきた初対面のファンでしかない僕の間には、大きな立場の違いがある。けれども僕は彼と話しながら書きたがっていた。苦しかった自分を救ったアーティストを目の前にしても、自分の書きたさがそこにあった。好きな言葉を使う人がそこにいる。ならばなおさら書きたいと思う。彼とは書くことが違う。生きてきた人生も環境も世界の見え方も何もかもが違う。僕が書くことそれ自体に意味がある。だからこそ同じだと思った。彼がこれからも言葉をラップするように、僕もこれからも言葉を書く。彼が今そこにいるだけだ。いずれまた会う必要があるなら、そうしているうちにいつか「そういう形で」会えるはずだ。だから追う必要がない。生きている人間は、常に生きることを並走していて、必要なタイミングで交差する。GOMESSは自称、人間ではないけれど。

彼が喜んでくれたのは良かったが、本当は、別に喜ばれても困られても、反応がなくてもどちらでもよかった。僕が、僕の生きていることを棒の信条の通りやっていくために、伝える必要があっただけだからだ。それが終わって、いまとてもスッキリした気持ちでいる。彼のことはこれからも応援しようと思っている。そして僕は僕の書くことを続けよう。そんな晴れやかな気持ちでいる。

それから電車を乗り換えたりして、文章を書いているうち、今は22時になった。あと駅を数個過ぎれば最寄りに着く。家に着いたら、また物語の続きを書こう。自分が楽しいと思える書くことをしよう。僕にはそれができる。

最近はめっきりnoteを書かなくなっているが、実は文章は書いている。自分の過去を許すための書くことは、今までのような頻度では必要なくなってきている。それで、最近は美しさのための文章を書いている。僕が綺麗だと思えることを、最近は書いている。いつか人の目に触れたら嬉しいが、僕はすでに楽しい。

今日はありがとうが言えて良かった。生き方の自信にもなったと思う。ありがとうを言うべき人に、これからもありがとうが言えたらいい。生きているうちにやるべきことを、生きているうちにやりたい。

それと今日は七夕だったので、会場には短冊が置いてあった。人が集まっていたのでさらっと書いて置いてきた。書くことには迷わなかった。

2022.7.7 靄篠

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