ドラゴンの思い出①

僕の地元には、ドラゴンがいた。身体には小さめな翼が生えていて、太い後ろ足で立っている。口が妙に大きいが、全体としては寸胴のようなドラゴンだった。それの居た場所が、今はスーパーになっている。昨日久々にここへ帰って来るまで、僕はそれを知らなかった。買い物カゴを手に取り、店内を進む。ポップには、見覚えのあるドラゴンが描かれている。

もともとは、潰れた本屋か何かだったはずだ。そこに、ドラゴンが降りて来た(正確には、降りて来るのを見たわけではない)。上物はめちゃくちゃになっていたけれど、怪我人もなかったと聞いている。いつものハイボール缶をカゴに入れ、レジのあるほうへ回る。惣菜コーナーでは、店員が割引のシールを貼っている最中だった。にんにくドラゴン増しと付された餃子のパックを手に取り、何か違う気がして、元あった場所へ戻した。

ドラゴンが来たとき、僕は中学生だった。学校の帰り際、中嶋か誰かが興奮した様子で走って来て、僕や他の仲間に言ったのだ。「ドラゴンが出たらしい」近くにいた女の子は嘘だァと笑ったが、中嶋は叔母さんから送られて来たというメールを出して見せた。それで、僕たちは色んなことを放って走り出し、電車に乗り込んだ。

電車が動き出すと、僕たちはすぐに窓に張り付いた。ドラゴンについて思うままに想像を言い合いながら、答えが見えるのを待った。それで何駅かを過ぎた頃、先頭に近い方からアッという声がして、車両にいた大人たちも皆が立ち上がって同じほうを見た。夕方の街の中、不自然に大きな影が建物を覆っている。そして、見たことのない生き物の背が見えた。今も忘れられない。本物のドラゴンを見たのは、それが初めてだった。

ドラゴンは大きい。実際に何メートルあったのか今となってはわからないが、今まで見たことのあるどの動物よりも大きかった。大人になった今でも、それは更新されていない。僕たちはその後着いた駅で電車を降り、階段を駆け上がった。父親と手を繋いだ小さな子供が、外を指さして飛び跳ねている。跨線橋の窓からは、ドラゴンがちょうどよく見えた。そこから見えるドラゴンは身動き一つしなかったが、その顔はニコニコと笑っているように見えた。

それからというもの、僕たちは毎日のようにドラゴンを見に行った。近くの歩道橋からドラゴンに向かって叫んでみたり、足元へ近づいてコンビニのチキンを置いて逃げたりしてみたけれども、ドラゴンは全然動くこともなく、ただニコニコとしているだけだった。

不思議なもので、半年も経てば、ドラゴンは風景になっていた。冬から僕は塾に通い始め、この駅で降りることも少なくなった。何度か気晴らしに行ってみたものの、いつの間にかドラゴンの周りは柵で囲われ、近づくことはできなくなっていた。

(続く)

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