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空間認識絵画


「こっちだって」

と地図を使いこなしながら、腕を引っ張られる。

そういう時、脳内でこの人はどういう絵を描くのだろうという好奇心が湧き上がる。


少しの方向転換を終え、離された腕。
半歩先を歩く彼。
「あれじゃん」そう言って目的地に到着した。


「男性ってさ、地図を読むのが上手い人多いじゃん?」

「そういう人が描く絵って絶対上手いと思うんだよね」

そう言いながら彼の目をぼーっと見つめた。

「俺は?」
「何が?」
「俺は絵、上手いの?」

そう言って彼は珈琲を飲み、真っ直ぐにこちらを見た。

「いや、知らないけど地図得意でしょ?」

考えるフリをする彼を見ながら、私は地図が得意な男性はこの世に何人いるのだろうと想像してみた。

「まあやは?絵描いたりすんの?」

描いたりするのだけれど、この質問に答えることがとても億劫に感じ、彼が時折見せるマグカップの底を眺めながら、私は適当にはぐらかした。


絵を描く行為よりも、他人の絵を覗きたい。そんな欲求が、目の前に現れ始めた。


「まあやってさ、」

絵を描いたりするのかと聞かれたときのような、怠さが襲いかかってくる。

「絵上手い人が好きなの?」

絵が上手い人、絵を描ける人、絵を描くのが得意な人。

「絵が上手い人も好きになるよ」

絵が上手い人も、歌が上手い人も、何も得意なものがないと語る人も、私の頭の中では並行して並んでいる。

「じゃあ、どういう人が特別好きなの」

「ニュートラルな人」
「ニュートラル状態に戻れる人」

一瞬の憂いを吹き飛ばすように、そう答えた。

別にそういう人に出会ってきたわけじゃない。たまに、人間のニュートラルな状態を見られるだけで私は満足だったりする。

"そうなんだ"と出来事や私の思想を一度止めることができるような、そんな何の変哲もない一瞬が好きなのだ。


彼は、"分からない"という考えを顔に出しながら、またあれこれと質問を始めた。

そんな質問よりも私は、彼が描く絵というのは意外と、動物だったりするのかもしれないなんてことを考えていた。


絵を描きたいと思うことよりも、絵を見たいと思うことの方がきっと多くて。

絵を見て、分からないと思いたいのだと思う。

この人の考えてることが分からない、と。

こんな絵をどうやって描いたのかと考えたい。

こんな絵をどうやって思いついたのかと。

意味を超えた、感性の扉をこじ開けたい。

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