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話題にふれる〜MBH的推薦図書〜|#読書の秋2020 ②

 あらゆる差別の根絶を目指す学生団体Moving Beyond Hateのメンバーは普段どんな本を読んでいるのか?ということで全2回で参加している #読書の秋2020

 はやくも最終回となる今回は、MBHのイベントに登壇してくださったケイン樹里安さん編著を紹介したり、代表であるトミー長谷川🦒も執筆に参加したりともりだくさんの内容をお届けします!(編集:ピエール🦄)

#ずるい言葉

 『LGBTを読みとく クィア・スタディーズ入門』の著者でもある森山至貴による本書、『10代から知っておきたい あなたを閉じこめる「ずるい言葉」』は、よく聞く気がするけれど本当は「ずるい言葉」を分解、解説することでトーン・ポリシングルッキズムなどさまざまな概念を紹介している。
 それによって「あなたのためを思って言っているんだよ」というような表現になんとなく「イラッ」としたり「モヤモヤ」していた理由がはっきりと説明されているのが特徴だろう。「ずるい度」を最大★3つで評価する試みや具体的なやりとりを取り上げてのシーンごとの解説など、スッキリしたい人に、そして「モヤモヤ」の正体を知りたい人に読みやすい構成となっている。(ピエール🦄)

#ウチら棺桶まで永遠のランウェイ

 生き辛さの乗り越え方は?若者が選挙に行くべき意味は?人間関係の悩みってどうしたらいいの?そうした私達の様々な悩みに、バシッとアドバイスしてくれる、宝物のような本だ。
 傷ついたとき、心が病んでるときに、親身に話を聴いてくれる感じが好きだ。「自分らしく生きたい!でも、そんなこと出来ない…。」と悩んでる人の心に、響くと思う。コンプレックスを才能に変えて開花させるため、混乱の時代で戦い抜くために、著者が大切にしていることのひとつを紹介したい。

だってよく考えたら政治にウチら世代の意見がないことが、私たちの30、40代とかに影響出てきて、そんときに「やだ!無理!」って言ったって遅いじゃん。

 私がMBHの活動をしていると、周囲の人々から「あまり政治的な言葉を発しない方が良い」とアドバイスをもらうこともある。そのとき、「本当に自分のやり方は正しいのか?」とかなり悩んでしまうのだが、著者のアメリカ留学の経験を読んで、政治に積極的に関わろうとする姿勢が大切だと実感できた。
 スピーディーな時代の流れを追いかけるのではなく、自分が先陣を切っていくことが、成功の鍵だと思えた。(あかとんぼ🦊)

👉編集🦄によるプチ情報
 つい先日、新規書き下ろし・撮り下ろしありの文庫版が出たばかりの本書。著者であるkemioは、サブチャンネルにアップした動画で「アリアナグランデ大先生」のコンサートでの話をしたりと、政治について発信することがある。そのような意味でも、日本のZ世代代表する著者と言えるだろう。

#目の見えない人は世界をどう見ているのか

 「視覚障害者がどんなふうに世界を認識しているのか」理解するというテーマを掲げる本書『目の見えない人は世界をどう見ているのか』は、子ども時代より生物学者を志すも美学者になった伊藤亜紗によって書かれた。この意外とも言えるバックグラウンドにより、「本流生物学を美学の手法を使って実践しよう」とする試みが生まれたようであるが、その感性は本書の成立に影響を与えている。

 「視覚を使わない体に変身してみたい」という著者の願望から始まった研究は、見えないことを、見える人たちにとって「戻って」こられる「世界」がない状態と捉えるのではなくむしろ、見えないというひとつの「世界」が存在することを軽快な文章で表現している。
 このように、見えないことを「欠如」ではなく「全体」として認識することで「特別視」するのではなく理解したいという欲求は、「変身」して身をもって感じることをもたらし、差異を「面白がる」土壌を与えてくれるだろう。「そっちの見える世界の話も面白い」のだ。(ピエール🦄)

#グレタたったひとりのストライキ

 出会いは渋谷の本屋の店頭だった。見つけたときは買うしかいないと思った。それはたしか去年10月、グローバル気候マーチが行われてから数週間しか経っていない頃で、世界中で何百万人もの同世代の若者が気候正義を求める様子がまだ鮮明に脳裏に残っていた。
 早速買って授業中に読み始めたが(笑)、授業中に半分ほど読み終え、おもしろすぎて帰りながらも読んでいた記憶がある。それはあまりにもグッとくる内容だったのだ。

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 まずこれは、グレタとグレタの家族の物語だ。それはグレタが授業で世界中の海に浮遊する大量のごみに関する映画を見たところ、泣き続け、あまりにも大きな衝撃を受けたことで拒食症になったところからはじまった。以来グレタは気候変動について関心をもつようになり、かたっぱしから気候変動問題について調べ、考える。
 また、この本は気候変動問題への最良の入門書でもある。地球がまさに燃えている現在、気候変動は思想の問題ではなく、目の前にある現実の問題だ。そのような現実問題としての気候変動について正確に教えてくれるのもこの本だ。そしてグレタが気候変動対策をとってるかのように見える大人たちの欺瞞性を鋭く指摘する様子は痛快でさえある。
 でも、現実を知って絶望するための本ではない。今こそアクションを起こせば地球は助かる、ということだけではなく、アクションをとることがこれまで以上に生きやすい社会を作ることにもつながる、ということをも教えてくれる。

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 グレタからはじまった学校ストライキだが、それは今世界中に広がっている。私は今年2月、イギリスで大規模な気候ストライキに参加した。何万人の若者が集まったその場でなによりも私は子どもたちの熱気に衝撃を受けた。小学生ほど大きな声で叫んでいたのだ。それは怒りに満ちた声であると同時に、自分たちこそが社会を変えるという強い信念も伴っている声だった。
 この本は欧米の若者の声を代弁している。グレタだけがメディアで注目される傾向があるが、グレタのように不正義に立ち上がる若い世代は世界中にいる。彼らの力強い生き方が垣間見えてくる一冊だ。(トミー長谷川🦒)

#ふれる社会学

 日本における「ハーフ」研究で著名なケイン樹里安、『地元を生きる 沖縄的共同性の社会学』でも知られる上原健太郎、両氏による編著。「現代的なテーマを扱った社会学の教科書」である本書は、一見身近すぎるテーマとうらはらに、じつはしっかりと社会学をしている。例えば、第1章の「スマホにふれる」では、ゴフマンのような代表的な学者も扱いつつ、バトラー『アセンブリ』のような最近の議論にも触れ、かつメディア論の王道マクルーハンの議論も紹介するという、初学者にはかなりありがたい内容だ。
 けれども本書の魅力は、社会学をしながらスマホや飯テロ、就活、スニーカーといったテーマを扱っているという点だけにあるわけではない。それを端的にあわらすものとして「はじめに」では、本書をつうじて「あなたに伝えたいことはいたってシンプルだ」とし、以下のように述べている。

それは、わたしたちの日々のふるまいや考え方が、社会の影響から「自由」ではないこと、そして、わたしたちのふるまいや考え方が、社会を作り、社会そのものを変えていく、ということだ。

 その言葉をすべてのテーマで体現しているのだが、レインボー、「ハーフ」、差別感情、「障害」にもふれているという点でやはり期待を裏切らない。 #ふれしゃか こと『ふれる社会学』は社会と自分のかかわりあいを捉え直す可能性に溢れた本なのだ。(ピエール🦄)

👉編集🦄後記

 メンバー同士でも読書の趣味は把握してないので、いろいろと新鮮だったこの企画。自らがっつりと本文を書くのも初めてだったので、そういう意味でも新鮮でした。文体どうしよう、とか悩んだのはいい思い出。あとはなんだろう、ひとり🦄だけテイストちがくない....?
 そしてもし著者として登場した研究者について詳しく知りたくなった方がいらっしゃったら、researchmapで調べてみてください。

 →最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!メンバーによる #読書の秋 企画はどうでしたか?全2回と短いですが、 #読書の秋2020 はこれにて最終回。社会について、これからについて考えることのできる一冊と出会うきっかけになっていればうれしいです。

(画像:Pixabay・トミー長谷川🦒撮影)

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