仕事漬けの貴方に。映画「日の名残り」
公 開:1996年
監 督:ジェームズ・アイヴォリー
上映時間:134分
ジャンル:ドラマ
見どころ:小説の内容が何か
毎日、忙しく過ぎてしまっていませんでしょうか。
我々は、大なり小なり日々の生活に追われています。
仕事をしていると、状況によって自分の都合だけで動くこともできず、満足に休むこともできない日々を過ごすことになるでしょう。
さて、ノーベル文学賞作家であるカズオ・イシグロが描いた「日の名残り」は、現代人である我々にも通じる作品となっています。
第二次世界大戦後のイギリスを舞台に、アンソニー・ホプキンス演じる老紳士が、結婚を機に引退した女性を、再び雇うための道中、過去を回想する物語となっています。
原作とは異なる
カズオ・イシグロの原作と、内容と筋立ては同じになっていますが、登場人物が変更されていたりしまして、映画のポイントとなる点とは大きくことなっています。
原作の書評などを読んで敬遠してしまっていた方も、安心してもらえればと思います。
原作は、皮肉すぎるユーモアがたっぷりであり、登場人物も実在の人物の影響を強く反映されているとされています。
特に、ジョン・F・ケネディがモデルだとされるファラディ氏は、アメリカ人であるルイスに統合されていたりしますし、原作において重要な、品格とは何か、というところは、映画において言及されていません。
二つの軸
映画「日の名残り」は、二つの軸で作られています。
一つは、当時、女中頭として一緒に働いていたケントンへの想い。
仕事人間であるスティーブンスは、父親が亡くなるときですら、仕事を優先します。
主人の沽券に係わる重要な来賓がきているときだったりするのでやむえないところではあるのですが、主人であるダーリントン卿の為に、彼は様々なことを犠牲にしています。
特に女性関係については、潔癖を貫いており、顔のいい女中は雇い入れないようにしています。
スティーブンスも男性ですので、自分自身が女中に入れこまないようにするという戒めでもあります。
これだけ、恋愛に対して鉄壁な男が、有能な女中頭であるケントンとの出会いによって、葛藤していくところは見どころです。
鈍感な主人公
特に見どころなのは、ケントンもスティーブンスも、お互いを意識しているのをなんとなくわかっていながら行う、駆け引きです。
仕事に私情を挟みたくないスティーブンスは、明らかにケントンに好意を向けられているにも関わらず、素知らぬふりを決め込みます。
それが気に入らないケントンは、どんどん自分の気持ちとは異なる行動を起こしてしますのですが、二人の気持ちがいつまでもすれ違ってしまうあたりは、身もだえするような恋愛映画をみるかのようなところです。
ケントンが仕事を辞めたあと、20年経ってもなお彼は、ケントンのことを思い出してしまうのですから、業の深い話ですし、作中の中で、彼らが結ばれるのかというと、かみ合わないときはいつまでもかみ合わないものだな、と思わせてくれるものでもあります。
無能な執事
アンソニー・ホプキンス演じるスティーブンスは、ものすごく有能な執事です。
一方で、彼が使える主人であるダーリントン卿は、悪い人ではないのですが、当時のナチス党を陰で支援するシンパとなっており、政治的に利用されている存在でした。
話しは少し変わりますが、主人に仕える執事として、何ができるのか、ということを教えてくれる映画があります。
それこそが、実話をもとにした作品「大統領の執事の涙」です。
8人ものアメリカ大統領に仕えた黒人執事の物語となっておりまして、「日の名残り」を気に入った人は、是非みてもらいたい作品でもあります。
これもまた、仕事というのをどう考えるべきか、という点で深い作品となっています。
国政を担う人間の身近で使える人間であり、色々な人間から話が聞けるにも関わらず、その内容に関して、まったく知らぬ存ぜぬというわけにはいかないだろう、という話になっています。
「日の名残り」もまた、ドイツやイギリスを戦争の戦渦にまきこむ要因を作り出そうとダーリントン卿はしており、現代のシーンにおいて、スティーブンスは、元の主人がダーリントン卿であることを消極的に隠していたりします。
映画においては、明確に主人が行っていたことが、よくないことだ、ということをわかっているのです。
執事はどうあるべきか
「君の意見を聞かせてくれないか」
と、スティーブンスは来賓に聞かれます。
しかし、彼は何も答えることができないのです。
でしゃばらない為に言わないのではなく、言うことができないのです。
毎日、主人の為に新聞にアイロンをかけて、様々なお客をもてなしているにも関わらず、彼は、政治的な事柄に対して、特に興味をもっていなかったのです。
勿論、職業人として、余計なことは避けるべきなのでしょうが、一生懸命働いている女中が、ユダヤ人だったからといって解雇するようにご主人が言うときも、スティーブンスは、ダーリントン卿に強く反対することはありません。
原作は、信頼できない語り手として、自分の都合のいいように物語を捻じ曲げる語り部としてつくられていますが、映画においては、メディアの性質上、客観的に描いているところがポイントです。
仕事の結果、交差しなかった二人の想い。
主人の過ちを正すことができなかった執事。
アンソニー・ホプキンスの名演によって、より説得力のある内容になっています。
もし、仕事に追われて、大切なものを見落としそうになっている方がいましたら、今一度、「日の名残り」をみてもらうと、何か気づくことがあるかもしれません。
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