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PUIPUIモルカー ヒットの理由を考える。

皆さんは、フェルトで作られたモルモット風の車を見たことがあるでしょうか。

油断すると、既存の子供向け番組なんでしょ、と敬遠してしまいがちに見える「PUI PUI モルカー」ですが、わずか3分程度で見れてしまう簡易アニメーションでは決してありません。

見たことがないという人も、これから見る人も、この謎にかわいらしいキャラクターや世界観について、その魅力の一旦を語ってみたいと思います。

モルカーの世界観

本作品をみた方は、モルカーという存在が当たり前という世界観に驚かれると思います。

ストップモーションアニメと呼ばれる技法で作られており、その作りのすばらしさや、背景の作りこみなども含めて大人も子供も楽しめる世界ではありますが、本記事においては、別の視点から眺めていきます。

モータリゼーションの中で、自動車が生活の一部になっている我々ですが、モルカーの世界では、モルモットと車が一体化した、モルカーなる存在が、交通手段の重要な部分を占めています。

もちろん、ツッコミたいところはあると思いますが、モルカー達がいる世の中では、モルカー専用のトイレがあったりする一方で、どうにもモルカー達を大切に扱わない人間もいたりします。

この絶妙な世界観の中で、なぜかついつい見てしまう、そんな面白さが「PUIPUIモルカー」にはあるのです。

もちろん、その内容の面白さというのはあるのですが、決定的な部分があります。


監督の作家性

世界観のすばらしさについて極々簡単に書きましたが、何より注目すべきは、監督である里見朝希監督の作家性です。

里見監督といえば、東京藝術大学大学院アニメーション専攻の修了制作で作った「マイリトルゴート」が、数々の賞を総なめしたことで知られており、ストップモーションアニメ制作において、学生とはとうてい思えない高レベルの作品をつくっています。

そんな監督が満を持して作った作品こそが、「PUIPUIモルカー」なのです。

里見監督は、自分でもモルモットを飼っており、「PUIPUIモルカー」のモルカーの声も、監督の飼っているモルモットの声だというから驚きです。

(モルカー達の声が、なんかの合成音だと思っていましたが、モルモットは実際にああいう、ぷいぷい、という音で鳴くのです)。

ちなみに、里見監督による「マイリトルゴート」は、グリム童話で有名な「狼と7匹の子山羊」をモチーフにした作品です。

オオカミによって消化されかけてしまった我が子を助け出した母ヤギが、死んでしまった長男の死を認めることができず、人間の子(他人の子)を我が子として監禁してしまうというストーリーになっています。

学生時代の制作物である「あたしだけをみて」もそうですし、第11回ACジャパンCM学生賞をとった「あぶない!クルレリーナちゃん」にいたるまで、里見監督は、何か別のものに世界を置き換えることで、心象風景でありメタファーとして物語を作り変え、且つ、その世界の中で調和がとることのできる強い作家性を獲得しています。

里見監督の過去作品や具体的な作家性については、別記事で紹介したいと思いますが、モルカーという作品そのものが、世界観をつくりだすことに長けた監督によるものである、ということを抑えておくと、より作品に入り込むことができます。

モルカーの素直さ

モルカー達は、こびたりしません

監督自身もインタビューで答えているところですが、モルカー達は、基本的な発想はモルモットであり、人間の為にこびるような表情はしません。悲しい時は悲しそうな表情をして、涙を流します。

モルカー達は結構無茶な行動をしたりしますが、むしろ、自分勝手な行動をする人間たちのほうが、罰を受けることが多い内容となっています。

ただ、本作品は、説教くさくないですし、必要以上に教育的過ぎない、というところはポイントだといえます。

2話では、葉っぱをもしゃもしゃと食べているモルカーに、銀行強盗たちが脅しながら乗ってきます。

警察のモルカーも追ってきますが、ニンジンを投げられて、ついつい、食べ物のほうに行ってしまい犯人を見失ってしまうのです。

当たり前ですが、警察のモルカーであっても、本能的にはあらがえないのです。どこまでもモルカー優位でありながら、でも、嘘くさくないのです。

また、怖くて、排泄物を垂れ流してしまうモルカーですが、結果として、犯人たちのアジトを教えることになり、勲章をもらい、ご主人? のところに何事もなく帰っていくことができて、めでたしめでたし、が2話になります。

また、モルカー達でレースをする 5話の「プイプイレーシング」では、大混戦の中で、ニンジンを食べられなかったモルカーが、泣きながら、1位でゴールします。

モルカーにとっては、レースだから1位をとる、ということより、おいしいニンジンのほうが大事なのです。

でも、ニンジンを食べられなかったモルカーが結果として、優勝賞品の豪華なニンジンパフェ?をもらえますが、ほかのモルカー達の姿をみて、みんなに分けてあげます。

モルカーはものすごく優しい。本能に忠実なので、時には、ひどいことをしたりしますが、誰にでも分け隔てなく優しいです。

それは、第6話の「ゾンビとランチ」でも示されており、ハンバーガーを分け合うシーンでもわかります。

肉が食べたいゾンビと、葉っぱやトマトが食べたいモルカー。それぞれ、分け合って食べるというほほえましいシーンです。

どこまでも、モルカー達は性格がいいのです。

性格がよくてかわいいモルカー達を、なぜそこまでかわいく思ってしまうのでしょうか。

感情移入できる

「PUIPUIモルカー」を見ていると、モルカー達の気持ちがなんとなくわかったりしないでしょうか。

当たり前ですが、モルカー達は人間ではないので言葉を発しません

「ぷいぷい」

というだけです。

にもかかわらず、動きや目線の移動で、なんとなく、モルカー達の気持ちがわかります

3話の「ネコ救出大作戦」では、モルカーの中に猫が侵入していることに気づいたモルカーたちは、最初は驚きおびえます。

ですが、熱い日差しの元、モルカーの温度があがっていってしまうのです。

熱をあげることで猫を外に追い出そうという作戦かと思っていましたが、性格のいいモルカーたちはそんなことはしません

暑さで猫がツライだろうと思って、日陰に移動し、それでも足りないと思って、店を襲撃、もとい、プールに入る、というオチにつながります。

彼らの行動、そして、監督のモルカー達への理解は常に一定しているのです。

言葉は通じないですし、あのモルカーがなぜか存在する世界と、我々の世界とは大きな隔たりがあるはずなのに、不思議と彼らの気持ちはわかる

ストップモーションアニメとしてのできの良さもけた違いであるのに加えて、モルカーというキャラクターたちの心のやさしさこそが、現代人の我々に刺さる大きな要因ではないでしょうか。


令和ヒット作品の共通項

と、書きましたが、これはたんなる勝手なあてはめですので、読み飛ばしていただいてもかまいません。

近年の大ヒット作品といえば、知らない人がいないであろう「鬼滅の刃」です。

この作品も、なぜこれほどまでのブームになったのか、という点については疑問を抱く人も多いでしょう。

その要因の一つを抜き出して、「PUIPUIモルカー」と紐づけるとしますと、やはり、キャラクターの性格の良さがあると思います。

主人公の竈門炭治郎にしても、ほかのキャラクターたちにしても、根が素直で、すごくいい性格をしている、という点が大きいと思います。

色々なトラウマを背負って、それを糧に頑張るというのも大事なことですし、他人を信用したり疑ったりするというのも社会生活を生きる中では、必要不可欠な能力だったりします。

ですが、そんなキャラクターばかりで息が詰まってしまうのもまた事実。

そんな中で、「鬼滅の刃」の、自分に素直なキャラクターは強い、という設定で作られている作品と、悪いことをした人には悪いことがおきるけれど、モルカー達は素直にそのまま生きている、という点において、気持ちがいい作品となっているのではないでしょうか。

嫌みがない、というと誤解を招くかもしれませんが、あざとくなく、裏表なく彼らは生きている、というのが清涼剤として我々の心に届くのではないかと邪推する次第です。

ストップモーションアニメのオススメ

「PUIPUIモルカー」を見て、ストップモーションアニメって面白いんだ、と思った方には、いくつかの作品を紹介しておきたいと思います。

里見監督が影響を受けた作品をあげる、というのもいいのですが、ここでは、ムービーメーメー的に面白かった作品を紹介して、記事の結びにかえたいと思います。

それは、ウェス・アンダーソン監督「犬ヶ島」です。

「天才マックスの世界」や「グランド・ブダペスト・ホテル」で有名な天才監督であるウェス・アンダーソン監督が、ストップモーションアニメをつくったということで話題になった作品です。

可愛い犬のキャラクターたちや、犬と人間との関係を含めてつくられる、外国の人から見た、かつての日本が進化したらこうなった、という謎の設定で作られた世界が特徴の作品です。

ウニ県メガ崎市で問題となっていたドック病とスナウト病という犬に感染する病気のため、犬が島流しにされてしまい、その愛犬を探しに主人公である小林アタリ少年が犬が島にいく、という物語です。

この作品も、世界観がとにかくぶっとんでいるのと、必ず画面が左右対称になっているという、凝った画面構成にも注目の作品となっています。

3分程度で見られるお手軽さと、誰が見ても問題のない安全安心な「PUIPUIモルカー」は、ヒットするしかない要因をいくつも備えた作品となっておりますので、これからの展開も含めて楽しみにしたいところです。

以上、PUIPUIモルカー ヒットの理由を考える。でした

次回も、め~め~。

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