【映画の余韻】7つの贈り物

※ネタバレしています。
生きる動機を考え尽くした末の話
ずっと物憂げな表情のウィルスミス。
それだけで悲しい。最初は妻を亡くした悲しみからかと思うが、なんだか違う。引き込まれるうち、見えてくる過去とその重み。

客観的に見てしまうと、骨髄提供してすぐなのに臓器取れるのかなとか、日本ではドナー提供者を知ることができないから成立しない話だなとか、ドナー提供者だからってDVを被っているという秘匿性が高すぎる情報を漏洩するのは危険すぎないか?とか、国税庁のシステム緩すぎないか?とか数々の疑問点とともに、

「自らしてしまった事の償いを自分で決めて、対象者を自分で選ぶというのは本当の贈り物と言えるのか?」

とどうしても感じる。この内容をもし事実としてニュースで見聞きしてもそう感じるだろう。

でも、映画として、ウィルスミスを通しているからこそ、加害者となってしまった1人の人間としての感情、人生を主観的に考える事ができる。

加害者だからといって、何もかもがいい加減で、悪なわけではない。善良な人間。

幼少の空を飛びたいという憧れに向かい努力して、マサチューセッツ工科大を出て、宇宙関連の仕事に就いて近づいている主人公ベン(本名ティム)。美しい婚約者がいて、人生順風満帆。一瞬のよそ見運転さえなければ。
たった一瞬で婚約者含む7人が死亡。
取り返しのつかない7人の命の喪失と、後悔と、全て失った悲しみとを一生背負っていく人生。
毎日死にたい、生きている資格がないと自らを責めながらも時は進んでいく中で、亡くなった人がいる以上、残された人生と命を惰性で無駄に過ごしてはいけない。

起こしてしまった事実、遺族の気持ちを真剣に主人公なりに考えると、命を削って捧げて、人を助けるしか、生きる動機が見つからないのだと思う。

とはいえ、償いの意味で命を捧げて提供する臓器が、再び過ちを犯したりすることなく、善良な人生に使われて欲しいと思い、提供相手を観察していたのだろう。

この作品の内容を自己満足と捉える人がいるのもよくわかるが、してしまった過ちと向き合わない、または向き合っても酒浸りになったり、気持ちを軽くして新たな人生を生き直すより、ずっとずっと真っ当な生き方だと私は思った。
まだ恋を楽しむ気持ちにはなれなくても、とても好いてくれるエミリーという女性にも出会い、彼女と結婚して過去を忘れるという逃げ道もあったにもかかわらず、彼は初志貫徹した。
一瞬のよそ見など誰にでも起こりうる事が招いた転機、でもその結果への向き合い方は誰しもができる事ではない。自分だったらできるかな?と思うと私はベンを責める気にはなれない。

ただ臓器提供をするだけではなく、バナナを肥料にしてみたらと他人にアドバイスしたり、犬の散歩を助けたり草むしりをしたり、臓器提供後もエミリーが仕事をして税金を払いながらも生きていかれるよう、心臓への負担が軽い方の凸版印刷機械を修理したり。日常の時間の過ごし方の中でも、誰かのために自分を使って生きているところがとても良かった。

元々善良だが、事故を起こす前の少し強引な営業トークをしていた頃よりも、その後の方が、人の気持ちにもっとずっと寄り添える人生になっている。だからこそ、自殺しなくても、とも思うが、これで楽しい方に流されないのがこの作品の真面目さ。

そして、加害者にも遺族がいるという視点も入っているのが更に良い。

ハブクラゲを一緒に見た、本物の国税庁の弟は、それを自殺に用いた兄を見てどれだけ哀しむだろう。国税庁のデータや庁員証を勝手に使われるのもかなり迷惑だが、そんなの一瞬で吹き飛ぶ。

計画の実行を担わされた親友もどれだけ哀しいだろう。本物の親友で、痛いほど気持ちがわかるからこそ計画に協力するわけで、大切な親友を亡くしたい人などこの世にはいない。

でも、ティムの人生は、提供した人々の身体を通して、続いていく。
最初からわかって近付いたのだろうけれど、エミリーと血液型(おそらくAB?または−?)が同じで、拒絶反応もなく、良かった。
ピアノマンの目の色が青から黒に変わり、またエミリーがピアノマンからティムの目を感じるのも、印象的な演出だった。

メインの登場人物が皆優しく、人間味に溢れていて、重いテーマの中でも個々の自然な感情の変化、優しさが伝わってきて、浸る作品。

車に積んでいたエミリーへの贈り物は、なんだったのだろう。最後に着ていたワンピース?

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