『ファンさん』

ワン・ビン監督『ファンさん』(2017)

アルツハイマー病で寝たきりとなり意思疎通もできないファンさんと、それを取り囲む家族等を記録したドキュメンタリー映画。寝たきりのファンさん、それを囲む親族、或いは電流を流す魚捕り等を長回しでひたすら撮影します。
ワン・ビン監督は『鉄西区』がめちゃくちゃ長いってことぐらいしか知らず、今回はじめての鑑賞でした。『鉄西区』は9時間10時間に及ぶそうですが、アレもこの調子なの…?だったらちょっと観たら気絶しちゃうかな。

死の際を撮ることができるワン・ビン監督と彼らの関係はただならぬもののはずだけど、ワン・ビン監督は被写体とはあくまで一定の距離を保って人の死と向かい合っていました。人々はファンさんを見舞い、バリバリと電流を流して魚を捕り、殺すのやだ〜とかいいながら、魚をシメる。漁へ向かう男たちを追う時さえ全てが長回しで何の展開もなく、等身大の時間が流れていきます。バリバリ電気漁と中国のおっさんがやたらと腹を出してるのは面白かったです。

しかし、90分の映画だからそんなはずはないのだけど、長回しに必要以上の長さを感じてしまいました。褐色の夜空に漁をするシーンはとても綺麗ですが、それでさえやはり過剰な長さを感じさせました。目をみはる美しい水辺の長回しのショットにしてもカメラが揺れるのがやたら気になって…これを固定にしない意味がちょっとわからなくて引っかかりました。

この長回しでこの映画の中に身体は束縛されながら、これを観る私の心は彼らとともにはありようがないです。というのも、これだけクローズアップされたファンさんと意思の疎通はできないし、彼女が誰なのか、村の彼らが誰なのか、漁と場所の描写を介してしか特に話されることはないからです。記号的にしか知らないからです。ファンさんの頬には涙が流れていました。それは事実で、そこに物語を嫌でも見出すのでしょうが、私はどうもそれをしたくありませんでした。本当に何も知らぬ死の際の人のそれに、外から何か意味を言ってみる気には私は全くなれなかったです。私は所詮、映画館から映画を観ているだけなので。

(文:松澤)


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