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映画『アボカドの固さ』城真也監督インタビュー🥑

大阪/シネ・ヌーヴォでの上映が終了し、23日から京都/出町座にて上映が始まった映画『アボカドの固さ』。本作で監督を務めた城真也監督に、映画のこと、そして監督自身についてのお話を伺いました。(聞き手: 映画チア部大阪支部 中平・ちこ)

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チア部: 『アボカドの固さ』という題名になった経緯を教えてください。

城: 最初は『戻らない』というタイトルにする予定でしたが、テーマを言葉で説明してしまっているすわりが悪い感覚がずっとあって別の言葉を探していました。映画祭の上映の直前になって、俵万智さんの短歌からインスピレーションを受けて脚本を書き進めた経緯を思い返し、このタイトルに決めました。あと劇場公開をしようと思っていたからネットで調べて引っかかりやすい題名にしたのも理由の一つかな。

チア部: 主人公・前原さんのキャラクターに共感するところはどれくらいありますか?

城: 共感…は二割しかないです。ほぼしていないね(笑)。
そもそも映画を共感でみることがなくて「主人公に共感できたね」で終わる映画ってそもそも残らない。消費されて終わっちゃうと思うし結局覚えてないんだよね。映画をみて「俺みたいな人が主人公だ!」って言う人がいるけれど、他人に自分を投影して気持ちよくなってるだけだからね、それは。スクリーンに映っているのは他者だと。この映画では主人公・前原に僕の自己を投影するんではなく、あくまで他者を見つめるつもりで作りました。

チア部: では、主人公の前原さんを好きですか?

城: どちらかと言えば嫌いです(笑)。じゃあなんで主人公にしたんだって思いますよね。もちろん100%嫌いならば映画にしないので、好きな部分もあれば嫌いな部分もあって、愛憎の念が入り混じる感じですかね。この主人公はめっちゃ格好よくてめっちゃ好きなんだと撮る映画も勿論良いですが、こんなにくだらないやつでも生きてるんだという視点も大事、今回はそう撮りました。元々前原くんを主人公にして撮ることを決めてから作り始めた映画ですが、僕と前原くんの関係性がそのままカメラと被写体の距離感に現れているというか、だから結構観る人によってはこの監督はこの主人公の前原くんに対してどういう感情を抱いているのかというのがストレートにバレちゃうと思う(笑)。あんまり好きじゃなさそうって、むしろ嫌いなんじゃないかって(笑)。

チア部: 主人公の前原さんとの撮影はどうでしたか?

城: 前原が1人でいるシーンを撮るのが楽しかったです。普段から彼は周りにいる人やその場の空気に合わせてつねに演じている人だと感じるのですが、逆に1人きりでいる時間は想像できない分、面白かった。いちばん純粋にお芝居を撮っている気がしました。本当はこの人何を考えているのかわからない。興味をそそられる主人公でした。

チア部: 劇中にでてくる人で監督が魅力的に感じるのは誰ですか?

城: 佐々木監督かな。他のみんなは前原くんに優しすぎるから(笑)。前原にしっかりと意見を言うところが好き。他人だったらあえて言わないことでもはっきり言ってくれるところがいいですよね。

チア部: 1度好きになった人は監督にとってどういう存在になりますか?

城: 僕はずっと好きなタイプかな。上書き保存はもったいない。ずっと大切な存在のまま、好きでいて良いんじゃないかなと思いますね。結構別れたら即ブロックする人とか多いじゃないですか。忘れるため、次に進むためにあえてそうしているのかもしれないけど。大切な恋愛をした相手として記憶に留めておきたい。

チア部: どのような映画の終わり方が好きですか?

城: どうとでも捉えられる終わり方が好きっていうのがまずあって、この映画のラストの前原は笑っているように感じる人もいれば、笑ってないと感じる人もいる、そのバランスがとても大事だと思いますね。

チア部: 監督のお気に入りのシーンはどこですか?

城: 色々あるんだけどあえて言うなら、地下道で別れ話をするシーンですかね。良い時間を切り取ることが出来た達成感がありました。カメラの位置も好きです。スマホ、パソコン、テレビでは分かりづらい、映画館でこそみてほしい距離感です。

チア部: 監督自身についてもお聞きしたいです。まず、映画に目覚めたきっかけを教えてください。

城: 高校生の頃は音楽が好きで、バンドを組んだりしていたんです。当時は、ニューウェイヴやノーウェイヴ、そういった音楽がとても好きでした。『No New York』っていうアルバムとか。十代の頃のモチベーションとしては、聴いたことのないような変な音楽をもっと聴きたい、というのがありました。ノイズとかパンクもそうだけど、アルトサックスが40分ぶわーーーってなってるだけのCDとかを聴いて喜んでたりとかして(笑)。そういう青年でしたね。
そんな感じで映画にはあまり興味がなかったのですが、ジョン・レノンがあまりにも気に入りすぎて興行権を買い取っちゃったカルト的な映画がある、というのを聞いたんです。ジョン・レノンの死後40年?とかで権利が切れて、再上映できます!みたいな売り文句で宣伝されていたんですが、まあ音楽青年としてはそれは「どんなんなんだ、この映画」って気になるじゃないですか(笑)。それがアレハンドロ・ホドロフスキー『エル・トポ』で、これが僕のミニシアター初体験になるんですが、ヒューマントラストシネマ渋谷まで友達と一緒に見に行ったんです。そしたら、くらくらするほどすごくて、やられてしまって。それまでは大作系の映画しかみたことがなかったから、それまでとは違う形の映画を見て、「わ、こんな映画があるんだ!」っていう驚きもあり、今考えたら舐め腐っているんだけど「これなら自分でもつくれるかもな」なんてことも思ったりして(笑)。そんな風にして映画をたくさんみるようになり、そして自分でもつくるようになりました。

チア部: 以前、城さんとお話させていただいたときに、高校生の頃に『シコふんじゃった。』をみてテレビを壊してしまった、とおっしゃっていましたね。

城: あれは決して『シコふんじゃった。』のせいじゃないし、面白くなかったわけでもないよ(笑)。高校2年生の頃、家庭の状況がゴタゴタしていたせいで、ちょっと精神的にイライラしちゃって。リビングが騒がしかったから、「俺は今『シコふんじゃった。』を見てるのにうるせえ!黙れ!」ってことが言いたいがためにテレビに向かって蹴りを入れちゃった。それも当時割れないと定評のあったプラズマテレビを(笑)。それで家庭が微妙な空気になる、という青春の一場面がありましたね。今思い返すと自分が甘ったれてるだけで恥ずかしいんだけどね。なんか高校生の頃ってずっとムカついてるよね。


チア部: 自分でも何に対してムカついてるか分からない、みたいな?

城: そうそう。

チア部: では、年齢を重ねることに恐怖を感じることはありますか?

城: 恐怖は…最近はあんまりないかな。昔はありましたけどね。

チア部: 今は歳を重ねることに楽しみを感じていると。

城: んー楽しみかもね。というかあんまり気にならなくなったのかも。十代、二十歳の頃はひとつひとつ歳を取るたびに「あーやばいやばい」って思っていたんだけど、やるべきことを淡々とやる、みたいなモードに変わってきたかな。あ!でもやっぱりそんなことないわ(笑)。以前のような焦りはないけど、「やべーな、やべーな」と常に思ってはいるし、そう思っていたいなとは思ってる。
この映画も24歳の主人公が25歳になる期間の話だから、そういう年齢の不安みたいなものも実はちょこっと描かれていて。25歳になった途端に急に自分が変わるとまでは思わないけれど、ちょとずつ変わってきてるなっていうのは実感としてあって。恐怖とはまた違うけど、25歳になると色んなものを背負わなければいけない、「大人」として周りから認識される、みたいなう疎ましさはあるかもしれないです。

チア部: 城さんには音楽や映像クリエイターをやるという道もあったとは思うのですが、なぜ映画を選んだんでしょう?

城: 映画、っていうのにはこだわっていますね。あんまりMVを見て楽しむっていう習慣もないし。自分の実人生を映画で描くことによって整理出来るというか。実際に経験したことを映画はいくらでも表現出来る、そういうメディアだなと思ってるので、安心感がある。映画の中では音楽表現も出来るし、詩とか小説みたいなことも出来るし。それくらい映画は懐の広いメディアだと思うんだよね。

チア部: 仕事で城さんにとって1番の報酬だと思うものは何ですか?

城: …難しい質問だね。自分の考えていることが整理出来るということ、かな。それで作品を色んな人に見てもらえるってのはすごいことだと思う。だけど決してお客さんに見てもらおうと思って映画をつくっているわけではないんです。あくまでも自分のため。

チア部: 城監督が学生の間にやっておいた方が良いと思うことを教えてください!

城: バックパッカー(笑)!当時は全く興味がなくてやらなかったけれど、あれは学生のうちにやっとけばよかったなと思ってる。
まあ、図書館ももっといっとけばよかったって思うし、でもやっぱり映画じゃないですか。映画をとにかくみまくる。なんでもかんでも死ぬほど観るのが大事だと思う。あと学生の皆さんには、何もない時間を過ごすという豊かさ、無為な時間を過ごすことに全力を注いでほしい。先の事をあまり考えず今を生きてほしいです。無駄に思える時間は決して無駄ではないから。

チア部: 最後に、関西上映ということでメッセージをお願いします。

城: 自分の人生経験によって見え方が変わる映画です。ぜひみた後に友人などと語り合うきっかけになってくれたら嬉しいです。


城監督がティーンエイジャーの頃に影響を受けた作品

・エル・トポ(アレハンドロ・ホドロフスキー、1970年)
・浅川マキの音楽
・はっぴいえんど 『風街ろまん』
・町田康の小説
・明日に向って撃て!(ジョージ・ロイ・ヒル、1969年)

「ロードムービーが当時は好きでした。十代の頃すごくすさんでいたから、ハッピーエンドの映画が嫌いで。今はあえてのハッピーエンドなんだな、とハッピーエンドを認めていくようになったんですけど。十代の頃は『俺がこんなに不幸せなのにお前が勝手にハッピーエンドにすな!』と思ってイライラしてた(笑)。『明日に向って撃て!』は主人公が死を迎える前でストップモーションで終わるっていう映画なんだけど、これこれ!って当時は思いましたね。」

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