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『ナナメのろうか』深田隆之監督インタビュー🎤

こんにちは!映画チア部大阪支部の(なつめ)です。

今回は、4月1日(土)からシネ・ヌーヴォで1週間限定上映される『ナナメのろうか』の深田隆之監督へのインタビューをお届けします!

モノクロの世界に描かれるのは、どこかの姉と妹と一軒の家で、だけど何故か自分の家や家族、きょうだいのことを思い出させます。
44分の中編映画ですが、非常に濃密な映画体験を味わえること間違いなしです。

私はこの映画を観て、この間帰省したばっかりなのに実家に帰りたくなりました…🥲


今回のインタビューでは、かなり映画の内容に関することをお聞きしてお話しいただいたので、映画を観る前だけでなく、観ていただいてからも読んでいただきたいです!

シネ・ヌーヴォでは1週間限定上映なので、お早めにご覧ください!私も何とか時間を作って観に行きたい……





(聞き手:なつめ)

チア部:どのような経緯でこの映画を製作されたのでしょうか?

深田監督:この映画で使われている家は、実は僕の祖母の家で、小さい頃とかはいとことか親戚とかがお正月や夏休みに集まるような家でした。今は祖母も年を取って介護施設に入っていて、この映画の「祖母が施設に入っている」という設定は、現実のことです。

今は空き家になっている祖母の家の、僕の記憶の中にある風景みたいなものを、映画の中に収めておきたい、記録しておきたいという思いがありました。ドキュメンタリーを作るっていうのも手法としてはあるのかもしれないですけど、僕が基本的にフィクションを作っているっていうこともあって、フィクションの場としてこの祖母の家を撮影しようかなと思ったのがきっかけでした。

チア部:あの生活感というか懐かしさというか、「おばあちゃんの家」感がとても良かったんですが、実際のおばあさまの家だったんですね。

深田監督:そうですね。空き家になってはいるんですけど、モノが片付けられて整然とした状態かと言われるとそうではなくて、かなり祖母の生活の跡が残ったままになっています。映画にも、生活感がある状態で空間が映されていると思います。


チア部:今回映画では、郁美(妹)と聡美(姉)が出てきます。男女のきょうだいや兄と弟ではなく、姉と妹を描いた特別な思いがあったのでしょうか?

深田監督:僕自身は弟がいて、女きょうだいがいるわけではありません。ただ、きょうだいならではの感覚や、兄や姉特有の思いであったり、弟や妹特有の思いであったりがあるだろうってまず思っていて。

そこで今回なぜ姉妹としたのかと言うと、祖母がいて、母がいて、自分がいるときに、「家」や家族というものに対して抱えているものが、男性と女性ではかなり違うと思うんですよね。

女性のほうが、すごく大きなことを言えば「命の循環の中にいる」というか。この映画の郁美も妊娠している設定ですが、もうすぐ母になって、ゆくゆくは祖母になる可能性がある、という循環の中にいるという感覚が、男性よりは女性のほうがとても強いだろうなと。

この家がリノベーションされて新しく生まれ変わっていくことや、郁美が妊娠し新しい命を産もうとしているという循環の中にあるということ。その中で、良くも悪くも「家」を抱えてしまう存在として、姉妹を選択しました。姉妹だからこそ相手に対して思うこともあるだろうし、その部分に焦点を当てました。

これが男女のきょうだいだったら、ニュアンスが変わってきたのだろうと思います。

ちなみに、なつめさんはきょうだいはおられるんですか?

チア部:兄もいるんですが、下に妹がいます。今は自分自身まだ学生だし若いので、家のことや命のことを妹と話したり想像することはないんですけど、いつか自分たちもこんなふうになるのかもしれないなぁとか、大人になった姉妹ってこんな感じなのかなぁとか思いながらこの映画を観ました。

郁美と聡美の後ろ姿のフォルムがなんとなく似ていて、なんだかんだ似たもの姉妹という感じがしました。また、一緒にいる空気感も姉妹のそれだと感じさせる説得力がありました。郁美役の吉見茉莉奈さんと聡美役の笠島智さんのキャスティングについてお聞かせください。

深田監督:姉妹らしいと言っていただけるのは嬉しいです。この映画は構成が複雑だったり後半トリッキーになったりするんですけど、やっぱり言われて嬉しいのはこの2人が姉妹に見えるということ。

後ろ姿については初めて言われましたけど、姉妹のように見えるのは、2人と過ごした時間が通常の映画の現場よりは長かったことや、芝居についての「実験」をしたことが影響していると思います。

多くの映画では、衣装合わせをしてすぐに現場に入るんですけど、この映画では撮影の7日間の前に稽古(リハーサル)の期間を7日間取りました。僕は演劇が好きなんですが、演劇の人たちって舞台本番に向けて1~2ヶ月も前から稽古をするんですよね。映画はそうではなくて、ワンテイクOKがとれればそれで良いという世界ではあります。

でもそれにしたって、ちょっと話して本読みして現場っていうのはさすがに短すぎるな、と。要は、役者もこちらも選択肢が狭まってしまうんです。様々な人物像が考えられる中で、現場で時間もない中、俳優の選択する幅が狭まってしまう。こちらも、この人物はこんな側面もあるしこんな側面もあるっていう振れ幅の発見ができないまま撮影が終わってしまうことが多いんですよね。

そこで、7日間稽古をするっていうの大前提として、俳優2人にはオファーをしました。吉見さんについては、以前舞台でお芝居を拝見して、居姿というか居方が面白いなぁと思ってオファーしました。笠島さんについては、杉田協士監督の『ひかりの歌』(2017)や草野なつか監督の『王国(あるいはその家について)』(2018)で観ていて、素敵だなぁと思ってオファーしました。

チア部:お二人の存在とか人間性も含めて、いっちゃんとさっちゃんになっていったんですね。

深田監督:そうですね。現場にいるときはそこまで自覚的ではなかったんですけど、恐らく僕が目指していた芝居は、俳優が役になりきるということでもなく、かと言って俳優が素で自然で映っているということでもない、役と俳優自身が半分半分に混ざっている状態ということだったんです。


チア部:映画前半では、おばあちゃんの家の片付けをしながら、2人で幼い頃に戻ったかのように遊ぶシーンが印象的です。「だるまさんが転んだ」やシャボン玉など、私自身とても懐かしい遊びが出てきましたが、あの遊びのシーンはどのように作り込まれていったのでしょうか?

深田監督:先ほど実際の祖母の家で撮影したと言ったんですが、実は僕はああいう遊びを祖母の家ではほぼしたことがなくて。映画として遊びのシーンをどう入れていくかと考えていって、映画のためにやったという感じでした。

例えば「だるまさんが転んだ」をやっていた場所は、祖母が生活していたときは草や木でうっそうとした場所で、全然遊べるような場所ではなかったんです。でも、あそこで「だるまさんが転んだ」をやったらとても面白そうだなと思ったんですよね。正直脚本の段階では、すごくあざといというか、ちょっと演出が強すぎるシーンになるかなという気もしていました。

でも撮影ではお二人がかなり自由に動いたり居てくれたりして、演出の強さを緩和してくれたと思います。僕は郁美と聡美として遊んでくださいと言っただけで、何回か映画的にカットを割ってはいるんですけど、振り返るタイミングとか立ち姿とかについては何も言っていません。

チア部:私はあのシーンを観ていて、2人は小さい頃もこうやって遊んでたんだろうなぁって感じました。

深田監督:それは嬉しいですね。

あと、家の周りを走る秒数を数えるっていう遊びのシーンは、本当に直感でした。わざわざ3カットくらい割るんですよね、そしてそれを3周する。それを反復したのは、直感的に面白いなと思ったし、そこから何か読み取ってくれる方もいらっしゃいますし。でも今考えると、反復動作、反復されるアクションっていうのは、映画のすごく根源的な部分なのかなと思います。

チア部:この映画はモノクロ映画ですが、前半と後半で違う効果をもたらしていると感じました。

前半は、片付けをしながら思い出のモノ自体や記憶を掘り返すことや「おばあちゃんの家」という場所そのものが醸し出す懐かしさを増長させています。後半は、突然暗闇になった家の中で迷子になった2人が名前を呼んでも届かない不安な・不穏な気持ちを駆り立てたり、「もうあの頃には戻れない」という現実を突きつけたりしているというふうに思いました。

観終わって、この映画がモノクロであることは必然的であったように思ったのですが、そこに対する思いを教えてください。

深田監督:この映画はモノクロで画面のサイズもスタンダードサイズで、いわゆる昔の映画のオマージュのようにも思えるかもしれないですね。

ただ、この家の壁の色が、あまり良くなかったというのが大きな理由です。肉眼だと全然問題ない木の色なんですけど、カメラで映すとケバケバした感じになってしまって。グレーディングっていう色の補正段階でも色を直すのが難しかったので、思い切ってモノクロにしました。

スタンダードサイズについては、日本家屋全部そうですけど、廊下にカメラを置いたときにかなりの面積が壁になってしまって余計な情報量になるなぁと。家の中ですべてを完結させるというのは決まっていたので、いわゆる16:9の横長サイズではなくて、スタンダードサイズにしました。

技術的な説明はそんな感じなのですが、前半と後半で表現されているモノクロの意味合いの違いは後から発見しました。でも、この映画においてとても重要な点であったというふうに思います。

おもちゃ箱がひっくり返ることをきっかけに、思い出が掘り出されていって、姉妹の関係がフラットだったとき、つまり一緒に遊んでいた幼少期の状態に戻ります。ただもう大人になっている2人は、ある意味他人になってしまっているというか。当たり前のことなんですけど、価値観が違う一人ひとりの人間になってしまっている。子供の頃への懐かしさを感じながらも、もうあの頃には戻れないっていうもどかしさもやっぱりあると思うんですよね。2人は今の現実を生きながら昔を思い返していて、昔の関係に戻りながらも、現実…というより、現在という時間を突きつけられている。

それが後半で、暗闇の中で急に何も見えなくなってしまう。お互いの姿も見えないし、郁美に関しては手元もあまり見えない状態の中で、手探りでお互いを探していく。その描写や、モノクロの「黒」の中に、姉妹特有の時間の変化を映すことはできないかなと、無意識に思っていたと思います。

最初は本当に技術的な、現実的な問題に対応するためにモノクロにしましたけど、この映画が表現しようとした抽象的なもの…「家」とか家族とか姉妹とかを映すために、結果的にはモノクロが適していたのかなと思います。


チア部:ありがとうございます。聞けて良かったです。

ここからは、監督ご自身のことについてお伺いしたいと思います。

監督は「海に浮かぶ映画館」の館長も務めておられるということを知ったのですが、「海に浮かぶ映画館」はどのようものなのか教えてもらえますか?

深田監督:2013年から始まった、船の中での映画上映イベントです。船と言ってもクルーズ船ではなくて、貨物船。はしけ船っていう、戦前から港の物流を支えていた船で、動力がなくて他の船に引っ張られて荷物を載せて運行する貨物船です。横浜に1,000隻近くあったそれが、高度経済成長期や東京オリンピックを境に、稼働する船がものすごく減ってしまって。それを横浜にある劇団が劇場に改装して使っていて、そこで映画を観たら面白いんじゃないかなってことで始めたのがちょうど10年前です。

常設の映画館ではなく、映画祭の名前としての「海に浮かぶ映画館」。フィルムで映画を上映したり、実験映画を上映したり、この10年で濱口竜介監督の『なみのおと』(2011)とか三宅唱監督の『無言日記』とか鈴木卓爾監督の『ジョギング渡り鳥』(2015)とか、若手も含めていろんな作家さんの映画を年に1回上映してきた映画祭です。

去年は船の事情で開催できなくて、1年空いている状態です。今年は後半にできたらいいんですけど…。

場所は空かしていない秘密の場所で開催していて、元町中華街駅に集合してスタッフに連れられて歩いて移動し、船に乗り込んで映画を観ます。

チア部:めっちゃ良いですね……!!

深田監督:面白いですよ。波があったり隣の船と擦れる音がしたり、その中で映画を観るという非日常体験を提供しています。

チア部:いつか行ってみたいです。

深田監督:是非来てください。

チア部:次に、学生時代に観て影響を受けた作品を教えてください。

深田監督:え~、難しいですね。学生の頃に観た映画か…。

僕は東京造形大学出身で、フランス映画はよく観てたと思います。いわゆるヌーヴェルヴァーグと呼ばれる、一時代の映画に革命を起こした映画たちっていうのは、そのとき集中して観ていたかな。大学生になってからゴダールも観たし。訳わかんない、やばいと思いつつ。でも何回か観ていくうちにすごさも感じるようになりました。

ヌーヴェルヴァーグに特化して言うと、エリック・ロメールとかジャック・リヴェットはとても学生時代から好きな監督ですね。ジャック・リヴェットの『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(1974)は、飴を舐めたらワープしちゃう女子2人のマジカルな映画で、結構好きです。『北の橋』(1981)も好きで観てました。

チア部:学生におすすめの映画はありますか?

深田監督:少し前に特集上映をしていた、オタール・イオセリアーニというジョージアの監督がいるんですけど、彼の作品はめちゃくちゃ面白いですね。

イオセリアーニは、悪いことをする人も良いことをする人も、すべての人に対してすごく愛情のある眼差しを向けて、生きるたくましさを映画の中で体現する監督なんです。それはなぜなのか、僕も最近わかったんですけど、やっぱりジョージアという国の歴史がすごく強く反映されていて。何度も他国に占領され、やっと独立したかと思ったらまた違う国が侵略してきたり。侵略される歴史っていうのがすごく根強くあって、だからこそ人生に対する見方みたいなものが全然違うなと。

イオセリアーニはジョージアからフランスに行って映画を撮り始めるんですけど、作り手の必然性というか、「この人のバックボーンがこの映画を作らせたんだな」というところで、すべて面白い。すごくおすすめです。

チア部:チェックしてみます。ありがとうございます。

それでは最後に、4月1日からシネ・ヌーヴォで1週間限定上映される『ナナメのろうか』をご覧になるお客さんにメッセージをお願いします!

深田監督:この映画は44分の中編映画なんですけど、観終わると2時間ぐらいの映画を観たような感覚になると、東京で上映する中でお客さんから言われました。そうは言ってもすごく気軽に観られる尺でもあるので、是非観ていただきたいです。観ていただいた後には、ご自分の家や家庭、きょうだいのことを振り返りながら、映画のことも反芻していただけたらなと思います。

この映画は配信とかもあるかどうかまだわからないですけど、映画館で体感することが一番良いだろうと思います。当たり前と言えば当たり前なんですけど、音響やモノクロなど、劇場で体験してほしい映画ではあるので、是非劇場に足を運んでいただけたらなと思います。

チア部:監督はシネ・ヌーヴォに来られたことはありますか?

深田監督:まだ行ったことないんですよ。だから、4月1日の初日に舞台挨拶に行くのがすごく楽しみです。





『ナナメのろうか』
出演
吉見茉莉奈 笠島 智
スタッフ
監督・脚本・編集:深田隆之 撮影:山田 遼 録音:河城貴宏 照明:小菅雄貴 助監督:高橋壮太 制作:南 香好 音楽:本田真之 整音:黄永昌 カラリスト:山田 遼 英語字幕:上條葉月 配給:夢何生 製作:√CINEMA
2022年/日本/44分/スタンダード/モノクロ/ステレオ
©️夢何生

4月1日(土)よりシネ・ヌーヴォにて1週間限定上映!順次、出町座、元町映画館にて公開。
また、公開初日の4月1日(土)上映後には、監督舞台挨拶が予定されています!


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