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spacemoth/fripier ZOETROPE オーナー、豊田香純さんにインタビューを行いました!

神戸の栄町ビルディングの3階に豊田香純さんがオーナーを務めるお店「spacemoth/fripier ZOETROPE」はあります。映画チア部大阪支部ではこれまで上映会の際にタイアップをしていただご縁のある素敵なお店です。実際部員の半数以上がお店でお買い物を楽しんでいます。豊田さんとの会話の端々からお洋服だけでなく映画や音楽への愛が感じられる…それなら掘り下げて更にお話を聞かせていただこう!ということでインタビューをさせていただきました。(聞き手: かんな、ちこ)


チア部: 「スペイスモス」というお店の名前になった由来はなんですか?

豊田: お店を始める前に、学生の頃イギリスのロンドンへ留学していました。そのとき偶然イギリスとフランスで活躍しているステレオラブというバンドの2人と知り合い、 住んでいる間色々とよくしてもらったんです。
日本に帰ってから大学を卒業し、ヴィンテージショップを始めることになり、店名をどうしようかなと思っていたときに2人に相談したら考えてくれました。

チア部: 「スペイスモス」ってステレオラブの曲があると思うんですけど…

豊田: そう!ちょうど店名をつけた半年後ぐらいに彼らが出したアルバムの中に、「スペイスモス」という曲が収録されています。2人が店名を考えてくれた時期にもしかしたらその曲のレコーディング最中だったのかもしれないなって思って。

チア部: 「スペイスモス」って直訳すると「宇宙の蛾」という意味ですね。最初はどんな印象でしたか?

豊田: 最初にぱっと名前を見たとき「モス」を「苔」のほうだと思っていたんですけど、調べてみて「蛾」ということが分かって。
私はすごく虫が苦手だったので、「えっ…」とびっくりしたんですが、「浮遊感があってアンティークな雰囲気もある名前がいい」というリクエストをふまえて、2人が考えてくれたということが嬉しくて。今はすごく気に入ってます。


チア部: お店を開くことになった経緯を教えてください。

豊田: 元々、学生の頃はヴィンテージショップでアルバイトをしていて、イギリスに留学をしていたときも服の買い付けを任されていました。でも、その頃は映画が好きだったのと、元々フランス文学専攻だったので、映画の配給会社かフランス映画の翻訳の仕事をしたいと考えていました。
日本に帰ってきて、就職活動を始める時期になりましたが、その頃はちょうど就職氷河期だったこともあって、自分には企業に就職というのは向いていないかも…とすぐ分かりました。

そんなとき、学生の頃によく行っていたヨーロッパ風の古着屋さんのオーナーの方が、本業のデザイナーの仕事が忙しくなりお店を閉めてしまうことになったため、そのスペースが空くことになったんです。

オーナーの方が、私が学生の頃、自分は将来お店を持ちたい!と言っていたのを思い出し、連絡をくださいました。そこから卒業と同時にお店を始めることなったので、最初はとても不思議なご縁があるんだなという感じでした。


チア部: お店のテーマ、コンセプト等があれば教えてください。

豊田: 一番最初にオープンした「スペイスモス」は、音楽や映画が好きな男の子と女の子のクローゼットというのがテーマです。その次にオープンした「フリピエ・ゾエトロープ」は、「フリピエ」はフランス語で「古着屋さん」という意味で「ゾエトロープ」というのが、「回転覗き絵」という意味です。映画の原型になったと言われている機械みたいなものです。
古いモノクロフィルムから現代の作品まで、新旧の映画をイメージソースにしたヴィンテージのお店にしたいと思っていて。フランシス・フォード・コッポラの映画会社が「アメリカン・ゾエトロープ」という名前だったり、ジョン・カサヴェテス監督とジーナ・ローランズの娘であるゾエ・カサヴェテスも監督をされていたり…。
もともと、「ゾエ」というのは「生命」、「トロープ」は「回転する」を意味するギリシャ語で、「回転する命」というような意味です。詩的で生命力のある言葉だし、大好きな映画とヴィンテージを結びつける思いを込めて、「フリピエ・ゾエトロープ」という名前にしました。

チア部: やっぱり「映画」はコンセプトの大部分を占めているんですね!

豊田: そうですね。特にヴィンテージや古着のアイテムは色んな音楽や映画のエッセンスを感じられるものが多いんです。着る人や組み合わせるものによって雰囲気がガラリと変わるし、さまざまな国や時代のものをミックスして、自由に表現できる感じがいいなって。
お店に来た人にとって何か新しい発見や出会いのきっかけになるような場所になったらいいなと思っています。


チア部: お店に置いてあるものはどれもお洒落ですが、アクセサリーや服、雑貨に対するこだわりなどあれば教えていただきたいです!

豊田: ありがとうございます。シンプルなもの、インパクトのあるもの、素材や仕立てに手が込んだものなど、好きなテイストはさまざまなのですが、あの映画っぽいな、あのミュージシャンみたいな感じだな、というようにイメージが広がったり、1点加えるだけで深みが出るようなものを選んでいることが多いです。


チア部: お店に置いてある服はかすみさんがセレクトされているのでしょうか?

豊田: そうですね。ヨーロッパの買い付けに行くときに選んできたりだとか、新品のブランドはご縁に恵まれデザイナーの方と知り合ってお店に置かせていただくことになったりしたものもあります。

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チア部: ファッションの面で影響を受けた作品はありますか?

豊田: いっぱいあるんですけど、やっぱりゴダールとかレオス・カラックスのさり気ないけど鮮烈な感じのファッションが素敵だなと思います。

フリピエ・ゾエトロープのイメージ・アイコンは、1929年のドイツ映画『パンドラの箱』でルイーズ・ブルックスが演じている「ルル」。モノクロフィルムの中で煌めくようなシルクシフォンやサテンの質感、シンプルなカッティングのブラック・ドレスなど、クラシカルだけどモダン、シャープだけどソフトで繊細、、と相反する要素がルルの自由奔放な魅力を引き立てていて素敵です。
それから、マヤ・デレンという 40 年代頃のアメリカの女性監督。実験的な作品で、彼女自身で主演もこなしているのですが、ヘアスタイルやメイク、ファッションも、そして本人の凜とした美しさも、今から80年近く前というのが信じられないくらい、時代を超えた新しさと強さがあって、とても現代的なんです。


チア部: 私たちは、海外の作品に魅力を感じることが多いんですが、海外の人たちは日本の作品にどんな印象をもっているのかが気になります。そういった話を海外の方から聞いたことがありますか?

豊田: ロンドンに留学していた頃は毎日のように映画館に出掛けていて、古い日本映画もよく特集されていたので通っていました。
その時に、溝口健二の『残菊物語』だったかな、英語の字幕があまりにもシンプルなのが気になって、「これで海外の人に伝わるのかな…」と勝手に心配していたのですが、映画が進むにつれて、会場中からすすり泣きが聞こえてきて、「言葉や文化が違っても、この感覚は伝わるんだ…」っていうことにも感動しながら、私も観客のみなさんと一緒に号泣してました。

小津安二郎のような古き良き日本の映画は今でも人気が高そうですが、逆に最近だと『犬ヶ島』や『ロスト・イン・トランスレーション』といった海外から見た日本、みたいな作品もでてきていますよね。
私たちにとっては普通の日常でも、『ロスト・イン・トランスレーション』のタイトルにも表れているように、迷子になっちゃうみたいな感覚になるのかなって。言葉も文化も全く違う場所を訪れることで、自分の内面と向かい合ったり、人との関係性を見直そうという気持ちになるのかな。

大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』にもそんなところがありますし、ジム・ジャームッシュ監督の『パターソン』で永瀬正敏が「詩の翻訳はレインコートを着てシャワーを浴びるようなものだ」って言ったりするのも、そういう翻訳不可能な感性や心惹かれる未知の世界の象徴としての日本というイメージも、まだあるのかなって思います。


チア部: 学生だった頃と比較して見方が変わったな、と思う作品はありますか?

豊田: 学生の頃、ヌーヴェルヴァーグの作品がすごく好きだったんです。その中でも代表的な存在がゴダールとトリュフォー。2人は最初は同志でしたが、途中で映画に対する見解が違うと議論になって決別してしまうんですね。学生の頃は 2人とも好きでしたが、どちらかというと尖っていてアヴァンギャルドなゴダールの方がいいなという感じでした。
ゴダールは革新的な手法で映画という表現を突き詰めていく、という感じがしますが、トリュフォーはもっとメロドラマっぽい印象だったんです。学生の頃は「メロドラマ」という響きだけで「なんだか柔らかいな」と思ってしまってそこまでぴんときませんでした。
でも、30歳くらいになったときになんとなくトリュフォーの『突然炎のごとく』を観返してみたら、何故かぽろぽろ泣いてしまって。若い頃には気がつかなかった、登場人物たちの微妙な心のひだがじんじん伝わってきて、丹念に描かれる人間ドラマも素晴らしいなって実感しました。


チア部: 最近観てよかった映画を教えてください。

豊田: デヴィッド・バーンによる『アメリカン・ユートピア』です。トーキングヘッズは元々好きだったのですが、あまり前置きなしで観に行きました。予想をはるかに越えるパフォーマンスで、彼の飄々としたキャラクターだからこそ表現できる熱さを感じられました。
政治や社会問題についても、音楽やアートにしかできない形で昇華された上質なエンターテイメントだったし、コロナ禍でライブになかなか行けないからこそ生の演奏を浴びるライブの感覚を思い出させてくれました。
色んな人に観てほしい、と思える映画でしたね。


チア部: かすみさんは映画だけでなく音楽にも精通していますよね。学生の頃、何回も聴いた音楽等教えてください。

豊田: いろんな音楽が好きなのですが、、いつもベースにあるのはヴェルヴェット・アンダーグラウンドでしょうか。彼らの音楽から他の音楽や映画、アート作品に繋がっていったりして、とても影響を受けています。彼らのアルバムはよく聴きました。極端に破壊的でダークな部分と、優しく繊細な部分、両方を持ち合わせいるんです。
それから、シンガーソングライターのニック・ドレイクやジャーマンロックのバンド、NEU!も好きです。ステレオラブを知ったきっかけというのが、高校生の頃よく行っていた「アダージオ」という古着屋の店長さんでした。
音楽、映画、バレエ等アートにとても詳しい方で、「NEU!とかラ・デュッセルドルフ(ドイツのバンド)が好きなんだったら、ステレオラブも好きだと思うよ」と教えてもらいました。すぐその日にレコード屋さんへ行って、そのとき発売されていたステレオラブのアルバムを聴いた記憶があります。


チア部: かすみさんにとってのファッションアイコンを挙げるとしたら誰でしょうか?

豊田: 色々いますけど…ぱっと思い浮かんだのはミレーユ・ペリエです。レオス・カラックス監督の『ボーイ・ミーツ・ガール』、一瞬ですが『汚れた血』にも出ています。儚さと強さが滲み出すような仕草や声、ファムファタル的な雰囲気を、ざっくりしたセーターにチェックのパンツといったシンプルなファッションがより魅力的に引き立てていて、素敵だな、と思います。

(と、ここでかすみさんからチア部に逆質問!)どなたかファッションアイコンはいますか?

チア部: たくさんいますが、アンナ・カリーナや The Primitives のトレイシー・トレイシーが好きです。それから、ニコもアイコンと言われて思い付きます。

豊田: ニコ!私も言おうと思ってました!

チア部: 男性ですが、パルプのジャーヴィス・コッカーもアイコン的存在です。

豊田: えっ!ジャーヴィス・コッカーが好きなの!?私偶然会ったことがあるよ!

チア部: はい!大好きなんです…。えっ!!そうなんですか!?

豊田: 大学 2 年生のときに 1ヶ月ほど友人と語学留学をしたのですが、そのときに関西空港で行列に並んでいたら同じ場所にジャーヴィスや他のパルプのメンバーがいたんです。「わー!」と思っていたら突然知らない女性から「あなたたちここにどうやって入ってきたの!?」と怒られて。「なんのことだろう?」と不思議に思って周りを見渡すとパルプのファンの方たちが柵の外側にたくさんいたんです。私たちもファンだと勘違いされたんですね。
留学のことを説明すると、その女性(恐らくパルプのスタッフ)が謝罪してくださり、自らジャーヴィスと引き合わせてくださったんです。彼はそのときたまごっちを持っていて、「どうやって操作するの?」と聞いてくれたり。そんな会話をしました。飛行機の機内でも一緒だったんですよ。
その時もおだやかで浮き世離れした雰囲気の、イメージ通りの人でした。彼は印税をメンバー間できちんと均等に分けるなど、平等主義なところが素敵ですよね。


チア部: 羨ましすぎるエピソードです!では、学生の間にやっておいたほうが良いと思うこ とはありますか?

豊田: 自分の興味のあることにとことん没頭すること!
私自身、人見知りで社交的なタイプではありませんでした。それでも好きなことがあれば、好きなもののために出掛けて、面白い人と出会うきっかけになったり、そこから広がっていく世界があります。
それから、外に出て刺激を受けたりアウトプットすることと同時に、自分の時間を大切にして、読書したり、ひとりの世界を楽しむこと。両方ができたらいいかなと思います。


チア部: 最後に、私たち学生や若い世代が今の時期に観ておいた方がよいと思う映画を教え てください。

豊田: ヴィターリー・カネフスキー監督の『動くな、死ね、甦れ!』。3 部作になっているのですが(『ひとりで生きる』、『ぼくら、20世紀の子供たち』)、他の 2 作品もおすすめです。
良い作品がどんどん増えていくので、今の時代の新しい作品を追いつつ、古典的な名作たちも時間があるときだからこそ観てほしいです。
感性が柔らかいときに、いろんなタイプの作品を観て、好きだな、と思う作家やジャンルを深く掘り下げたり、逆に普段の自分だったら観ないような作品も敢えて観てみたら、また新しい魅力や面白さを発見して世界が広がっていくのもたのしいですよね。


豊田香純さんがオーナーを務めるお店「spacemoth/fripier ZOETROPE」についてはコチラ!
https://www.spacemoth.org


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