どんな未来が待つのか
映画「TANG タング」
将来を見失い、無職で暮らしている中年男性ケンが、ある日、どこからやってきたのか分からないロボットのタングと出会い、タングのルーツを辿るうちに自らの生きる道を見出す物語。タイトルにロボットの名前を冠していますが、ケンが成長していくお話です。少なくとも監督は、そう描きたかったはずと思います。ロボットはVFXでしょうから、ケンとタングのシーンはケンひとり、相手のない空間で演じていたことになります。
わたしが気になったのは、時代設定である近未来の描かれ方です。
一家に一台の勢いでロボットがいて、彼らが家事を担い、会社の受付嬢はアンドロイド、宅配便はドローンが運んでいる。おそらく今世紀後半か22世紀と思われます。
タングのスペックは、分かる範囲で以下のとおりです。
アトビットシステムズ社製
第三世代型ロボットのプロトタイプ(第一世代の代表がアレクサ)
重さ30㎏、時速3㎞(人間の一般的な歩行速度よりやや遅いくらい)
会話できる
記憶力がある
戦闘能力がある
動力は黄色い液体(要補充)←わたしが覚えられないだけで、ちゃんと化学名あり
「ケンが好き」とか「行きたくない」とか、感情を持って行動する
感情を伴うほどの最新コンピュータ回路搭載ロボットがそばにいて、人間と友だちになる時代設定なのですが。
・実物の貨幣は流通していないものの、いまだ貨幣経済である
100円玉をひろったタングにケンが「そんなもの誰も欲しがらないよ」というようなことを言います。つまり硬貨や紙幣は流通していないということ。しかし、マーケットの商品には価値単価が円で表示されている。物の価値はいまだお金で交換しているということ?? タングは拾った100円でコーヒーを買います。コーヒー一杯、いつまで100円で売るのでしょうか。個人的には、貨幣価値なんてもの、遅くとも今世紀中に消滅していてほしい。
・主人公は親の遺産で暮らしている
無職の主人公は親の残した家に暮らし、遺産で生活しているようなセリフがありました。それは個人の自由でいいのですが、22世紀でも遺産だの資本だの、社会は資本主義のままということなのでしょうか。ロボットがいる社会では、そのような形ではなくなるはずです。人間が能力に応じて働き、労働に応じて給料を得る社会ではなくなる以上、資本主義でありつづけることは不可能です。例えばですが、せめてベーシックインカムとか、社会保障制度が今より手厚いとか、未来のありかたはかわっていてほしかった
・主要登場人物の職業が医師と弁護士
あまりにも「現代」すぎる職業設定です。
医師はどんな未来にもなくならない職業かもしれませんが……。
まあ、原作のままに置いたということなのでしょうか。
SFに慣れ親しんできた身としては、いろいろ疑問でした。
SFではなく、ケンの変化を描いた現代のヒューマンドラマとみなせば、このあたりの違和感は薄まります。
わたしはスタートレックのDATAが大好きなので、ロボットやアンドロイドが普通にそばにいる時代がやってくるのを楽しみにしています。生きているうちに叶わないかもしれませんが。この作品では冒頭、ケンがタングをゴミとして処理してくれるよう解体業者へ持ち込むシーンがあります。ロボットはそばに数多くいるものの、機械として認識しているという意思による行動です。
SFドラマ「スタートレック・ネクストジェネレーション」は24世紀の設定ですが、やはりアンドロイドを機械として扱うことをやめない人間たちに対し、DATAがアンドロイドの人権を認めてくれるよう法廷に訴えるエピソード「The Measure of a Man(人間の条件)」が第2シーズンにあります。人間と機械が共存するうえで避けては通れない、両者の葛藤を描いた、とても秀逸なエピソードです。