「UIの色を変えただけで大量のクレームを頂戴してしまった話」の何が問題か?

結論

話題の記事「UIの色を変えただけで大量のクレームを頂戴してしまった話」を読みました。ユーザーを軽視した内容に驚愕したのですが、それよりも記事が批判されている原因を理解できていない様子の方が存在することに衝撃を受けました。

現職のデザイナーあるいはデザイナーを目指している方々にお伝えしたいことは以下の3点です。

  1. 具体的な不都合を訴える問い合わせは無益なクレームではなく有益なフィードバックです。プロダクトの価値向上につながる貴重な意見ですから無視するべきではありません。

  2. 時間の経過でユーザーがUIに慣れることはありません。問い合わせをしても無駄だと学習して離脱したパターンを疑いましょう。受け入れられる場合も含めて画面の変更はユーザーに負担を強いているのだと自覚してください。

  3. 色覚特性や色とコントラストについて学びましょう。色だけで情報を伝えるデザインはアンチパターンですから避けてください。はじめから色について考慮されたデザインであれば後の機能変更や拡張で問題が生じる確率を減らせます。

色覚特性や色とコントラストについては以下の書籍の第4章にて説明されています。その章だけでも構いませんが、可能なら最初から最後まで読んでいただけると多くの学びが得られるはずです。

追記と補足

想像以上の反響に驚いています。改めて自分の記事を読み返して、追記と補足が必要そうだと感じたので、以下お読みいただけると幸いです。

まずはお詫びからです。記事冒頭のお伝えしたいこと3点が上から目線でした。元記事のユーザー軽視を指摘する一方で、私は記事を読まれる方々への敬意を欠いていました。伝え方を工夫できたのではないかと反省しています。

次は補足です。私は「一度完成したUIを変えずに維持し続けなくてはならない」とは考えていません。また、元記事で説明されている白抜き文字UIがビジネス視点で悪い判断だったとは考えていません。

ビジネスの視点や過去の経緯を踏まえて時にはアンチパターンとされるデザインを採用するしかない場面もあります。そして元記事にも書かれていますが、UI変更の告知が必要か検討するのは良い習慣です。

軽微な変更だと想定して告知をしなかった場合に想定外の問い合わせが多く寄せられるかもしれません。その場合は一度変更を戻し、告知期間を経て再度リリースするなどの方針が考えられます。

告知は根本的な解決策ではないので変更によって不利益を被るユーザーの課題は解決できません。しかし、猶予期間があることで変更に対する回避策を検討したり、不都合の深刻さを踏まえて別サービスへ移行するべきか判断する時間が生まれます。

ただし、ここまでの話は記事冒頭でお伝えした3点を守った上でやむをえずアンチパターンを採用する場合の話です。

元記事には「1ヶ月も経てば「戻してほしい」の声はほとんど聞かなくなったのでやはり慣れが解決してくれた」と書かれています。ビジネスの課題は解決したかもしれませんが不都合を訴えたユーザーの課題は何も解決していません。

不都合を訴えたユーザーの事情など知ったことではない、という態度から、私はユーザー軽視の印象を受けました。元記事で言及されているサービスは業界ナンバーワンのシェアだそうですが、仮に他社が急激にシェアを伸ばしている状況で同じ判断が下せるのでしょうか。トップの地位にあぐらをかいてデザインがおろそかになっていないでしょうか。

ユーザーの要望に隠された課題を発見し解決するのはデザイナーの役割だと私は考えています。多く寄せられた要望に応えるのは判断として間違っていませんが、ただ言いなりになって要望に応えるだけならデザイナーは不要になってしまいます。

(追記と補足おわり)

ニュータイプのお笑い

以降は蛇足です。記事を投稿された方が興味深い発言をされていました。X(旧twitter)から引用します。

ミスったって言ってるしミスらないための対策まで書いてんのに「度胸があればそれでいいって結論にしか読めませんでした」って何をどう読んだらそうなんねん!!ニュータイプのお笑いか!?!?!?

引用元 https://x.com/mochinecononato/status/1765359432538701916?s=46

私も記事から学びを得られず、度胸があればOKとしか読み取れなかった一人です。

元記事によるとユーザーからの不都合を訴える問い合わせに代替案を提示できず、他社サービスのUIで採用例があるから問題なしと判断されています。自社と他社ではユーザー層やシステムが抱える課題など状況が異なるはずですが、他社事例を真似て良いと判断した根拠が見あたりません。

そして極めつけはこれです。「1ヶ月も経てば「戻してほしい」の声はほとんど聞かなくなったのでやはり慣れが解決してくれたようです」この一文が飛び込んできた瞬間、思わず吹き出しました。ニュータイプのお笑いです。

ビジネス課題は解決されたかもしれませんが、不都合を訴えていたユーザーの課題は何も解決していません。時間が過ぎればユーザーは黙るからよし、という発想は理解に苦しみます。その理屈が通用するなら、UIの良し悪しに関係なくどのような変更も許されます。そうなったらデザイナーは不要です。

ところで、この方は以下のような発言もされています。

プロダクトユーザーのことも背景情報もチーム状態もソースコード状況もバックログの状態もほとんど知らないのに「ユーザー視点なさすぎて草」って米つけてくる奴は一体何視点を持ってるんだろうな。

引用元 https://x.com/mochinecononato/status/1765333292419805480?s=46

第三者が読み取れるのは記事に書かれていることだけです。的外れな批判の原因が前提の理解不足ならば、可能な範囲でプロダクトユーザー・開発チームの状況・ソースコード・バックログなど前提を開示するべきです。もし具体的な話が出せなければ、架空の話を考えるなど、方法はあるはずです。

なお具体的なサービスの名前が元記事に含まれていますが、掲載の許可を得たのか不明瞭でした。赤裸々にすべて書き出せとは思っていませんので悪しからず。サービス名は伏せたほうが良かったのではないでしょうか。

圧倒的なユーザー軽視

元記事の本文に進みましょう。まずは冒頭から引用します。

そんな時に避けられない事態として「UI変更に対するお怒りがユーザーからわんさか届いてしまう」ということがあります。今回はUI上の1要素の色を変えただけで虎の尾を盛大に踏んでしまった事件の話をしようと思います。

この一文にすべての問題が凝縮されています。同じ轍を踏まないために知見を共有することが目的ならば、私はこう書きます。

そんな時に避けられない事態として「UI変更に対するネガティブなフィードバックがユーザーからわんさか届いてしまう」ということがあります。今回はUI上の1要素の色を変えただけで発生した騒動の話をしようと思います。

記事を読み進めると判明しますが、寄せられたクレームは背景を交えて具体的な不都合を丁寧に訴えるものでした。そういった意見に真摯に向き合っているなら「お怒り」や「虎の尾を踏む」といったユーザーを挑発するような単語を選ぶとは思えません。

ユーザー軽視もすごいが開発チームに対するリスペクトの欠如もすごい

もうひとつ、印象的だった内容を引用します。

作業カードの色を変えたことに付随する修正タスクを積まれている中、ユーザーからの不満がばんばん飛んでくる状況だったのでエンジニアもついに「手戻りに絶対ならなさそうな開発しかしたくないです」モードに突入。モードに突入したというか直接言っていた気がします。

ユーザーは背景を交えて丁寧に不都合を指摘しているのに、それをガン無視してプロジェクトを進めようとしているわけです。後々手戻りが発生するぞと身構えるのは当然です。私もソフトウェアエンジニアの端くれですが、絶対に手戻りしない開発だけしたいなんて発言が出るのはまずい状況です。

その一方でPdMをやたらリスペクトしています。リスペクトするのは良いことですが、減るものじゃありませんし、それと同じくらいのリスペクトをユーザーや開発に携わる関係者に振り分けることはできなかったのでしょうか。

元記事の最後には開発をやりきってくれたエンジニアに感謝ですと書かれています。リスペクトしてるじゃないかと思われるかもしれませんが、この文章、捉え方によっては命令に従って開発をやりきってくれたから感謝です、とも読めます。

元記事の端々から「自分は正しいのに理解してくれない連中は困ったものだぜ、やれやれ」的な心の声が滲み出ています。文体がポップなので煙に巻かれがちですが、犬がお手をできたからご褒美におやつを与えるノリで感謝の言葉が使われているような気がして、得体が知れません。

なぜここまで噛みつくのか

私は視覚に障害があります。多くのWebサイトやアプリはスクリーンリーダー(画面読み上げソフトウェア)で利用できるのですが、中にはWebサイトやアプリ提供側の実装に不備があり操作できず、問い合わせをすることがあります。

具体的な名前は控えますが無視されることもあれば、今すぐには対応できないものの開発チームに状況を共有したと連絡いただける場合もあります。対応はさまざまですが、仮に問題が解決しなかったとしても真摯な対応をしていることは伝わります。

ユーザーと真摯に向き合う開発チームがいるのに、フィードバックが伝わらないのは不幸な状況です。そういった状況はなるべく減らしたいので、強めに噛みついた次第でした。

UIと障害は関係ない話ではと思われるかもしれません。しかし、想像してください。炎天下で画面が見えなければ視覚障害、騒音がひどくて音声が利用できなければ聴覚障害、言語設定を間違えて文字が読めなくなれば認知・学習障害、といった具合に障害のあるユーザーが置かれている状況と同じ状況を体験することになります。健康だからといって無縁な話ではありません。

デザインには大きな力が秘められています。さじ加減ひとつで課題を解決し多くの人を幸せにできる力です。世のデザイナーの方々にはより良い方向に力を発揮してほしいと願うばかりです。

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