ほおずきさん三題噺
お題 「ほう三・ ほうさん・ ホウ酸」 #H3BO3
「あんた!あれ、買うてきてくれたか!」
妻のけたたましい声が狭いリビングに響く。何のことを言っているのか、ぼくには当然わかっている。
「いーや、まだや。あれ、なかなかないねん。どこ行っても。」
「なんでないねん。あれなかったら安心して生活でけへんやないの。」
ぼくの安心した生活には妻の方が重要なファクターなのだが。もちろんそんな事は口には出さない。そんなことをしようものならぼくの安心により深刻なヒビが入ることになりかねない。ぼくの安心した生活には妻への適切な対処が重要なのだ。下手に出ず、油も注がない対応こそぼくの城を守る術なのだ。
「ほな、いつ手に入んねん。」
「そやな、明日また行ってみるけどぼくには分からんやろ、店の入荷なんて。」
「こないだから頼んでんのになんでこうもないかな〜。何回行ったんや?」
「三回。」
もちろんぼくは一回も行ってはいない。買い物のことなんて家に着くまですっかり忘れているのだ。
「ほう三回も。それでないか。あんたは他の店に当たってみようとかいう野心とか、冒険心とか拡張性みたいなもんは身に着けん主義なの。」
妻が攻め込んできた。ここを上手くかわさないと大惨事になりかねない。
「そや思うて、他の店も検索してますやないの。」
「あんたはいつでも対応が遅い。一回行ってあかんかったら他のとこも当たってみる。これは現代人の生き方の基本や。」
さて、生き方についてとやかく言うて来たときはすかさず話をずらす。
「ところでネットで購入って線はないんかいな。」
「アホか、あんたは。送料なんぼかかる思うてんの。」
よっしゃ乗せた!
「送料タダいうとこもあるはずやで。」
「そんなんさんざん探しましたがな。」
「ほうさんざんね。そんで成果はゼロですか。」
「キーワードは3,000円。わかるか?この意味。」
「わかりますよ。他に購入するもんがないっちゅうことですな。」
「ようわかってるな、あんた。」
「当たり前です。私は社会の戦士ですからな。」
「じゃあその戦士さんに明日までには必ず買うてきてもらいまっせ。わかったか、このホウ酸団子!」
「わかりました。しっかり買ってきます。このホウ酸団子!」
今日のところはなんとか切り抜けた。これでけっこう穏やかで明るい家庭なのだ。この平和維持のためにも明日はそろそろ忘れずに購入せねばなるまい。
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