斎藤中野の恋人ごっこ

NSC大阪43期、9歳差の歳の差コンビの斎藤中野。
関係性の見える偏見を交えた漫才をするのが特徴だ。
二人が漫才をしているときは、中野が斎藤に対して片想いのようにも見えるがむしろ両想いなのだ。
斎藤は漫才をする時に、中野に対してキツく当たるので舞台が終わる度に、
「ほんまは、な?まぁまぁまぁまぁあんなん思ってないからな?」
と中野を思い諭していた。
他にも斎藤は自身のタバコを手巻きしながら、
「敬史はほんまにアホやけど、まぁでも真っ直ぐやからな。まぁまぁまぁまぁまぁ…なぁ?」
とどこか憎めない印象を中野に抱いているようだった。その証拠に彼の前以外では中野を「敬史」と呼んでいる。
中野は、誰かにボケられる時より斎藤にボケられた時の方が等身大でツッコミをいれていた。
二人は愛し合っていた。
ところがある日、RECでラジオを録っていた時のこと。中野は触れられたくないプライベートな恋愛観の部分を斎藤に触れられそうになり、いつものように笑顔でつっこめず、そのラジオはお蔵入りにになってしまった。
もう一度同じ感じでラジオを録ろうとするも調子が乱れてうまくいかなかった。
せっかく空けた予定をふいにすることを嫌った斎藤は、
「ネタ合わせしよか。」
と言った。乗り気になれない中野は、
「今日は帰ります。」
と言い、原付に跨り実家へ帰ってしまった。斎藤は後悔した。斎藤に対する中野の想いを確かめるためにジャブを入れたつもりだったがそれが仇となり、中野との間に大きな溝ができてしまった。
その日は、UP TO YOU!!の前日だった。
斎藤は不安になった。それはまた、中野も同じだった。ネタのことも不安になったが、何より最愛の人、斎藤将行に対しての仲違いが頭にこびりつき、その日の筋トレは、同じ箇所ばかりイジメてしまっていた。
そして、UP TO YOU!!当日。
涙で目を腫らした二人がZAZA前で合流した。エントリーフィーを払い、軽いネタ合わせを済ませ、斎藤は、
「空き時間やしぃな?喫茶店でも行かんか?まぁまぁまぁまぁな?金ないんやったらええけど。」
中野は断った。泣き顔より悲しい無理した笑顔で。
2時間空き時間を一人で喫茶店で潰し、再びZAZAへ戻った。
そして本番。彼らの出番がやってきた。舞台へ出ていき挨拶を済ませたところで中野はフリーズしてしまった。
なぜなら斎藤の家族が見にきていたからだ。いずれ交際して、正式に挨拶をしに行くつもりであった中野にとって緊急事態だった。
中野が何も言葉を発せず15秒経った頃だった。今までの斎藤なら小声できっかけ台詞を耳打ちしていたが、斎藤は中野の手をギュッと握った。中野はまだ言葉が出ない。斎藤は中野を抱き寄せ、小声で
「大丈夫。」
と頭を撫でながら耳打ちした。台詞を思い出した。中野はその状態で漫才を始めた。なんとか3分ネタを終えて舞台を降りた。
楽屋に戻り、中野は謝った。それに対し斎藤は
「まぁまぁまぁまぁな?俺もそんな緊張せえへんかって言われたらな?まぁまぁまぁまぁ、な?」
素直にフォローしてあげられないが言える最大限の形でフォローした。
二人でZAZAを出て、中野はおもむろに斎藤の手を握り、斎藤のロングコートの左ポケットに繋いだ手をねじ込んだ。
レトロなシルエットの二人の間を寒い風が吹き抜けていった。

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