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2024年 僕は解放値4.5で前十字靭帯を切った

どうも。八ヶ岳クライマーと言いつつ最近はまたスキー好きに回帰しつつあるmountainhutです。実はXのほうでは逐一報告しておりますが、今シーズンはスキーによる膝のケガで首尾よく冬シーズンを棒に振り、4月下旬に手術をして今はリハビリに精を出しております。どういうことなのか、リハビリ報告などもしつつ今後ちょいちょいと書いていこうと思います。

著名なスキーヤーの自伝などを読めばかなりの頻度で登場するのが「前十字靭帯損傷」ですが、僕にもついに(?)その日がやってきました。2024年1月下旬、ドパウの平日休みを当てて白馬コルチナに来ていた僕は、一本目の緩めのアップを済ませた後、ぜんぜん進まない多国籍の行列リフト待ちにじりじりしながら、嬌声をあげながらフェイスショットで降りてくるライダーたちをにらみつけていました。この後自分の身に何が起きるのか、この時の僕はまだ知る由もない・・・

受傷

ようやくリフトに乗ることができ、僕は目を皿にして下りのラインを探しながら登っていきました。小雪のシーズンのせいかまだブッシュが気になるところも多いです。しかし滑ってくるライダーたちを見れば雪の深さはかなりのもので、これならばかなりのマッシュドロップも安全にこなせるはず!

 リフトを降りたらそこはパウダージャンキーの誇り、猛然とダッシュ!狙っていたラインを切り裂くと、特に大きく踏み込んでもいないのに強烈なフェイスショットで視界が遮られます。リフトの上からは「Yeah!!!」と口々に歓声が上がりさらにテンションも上がります。

 しかし、リフトから見るのと実際に滑るのではフィーリングが異なって、意外とブッシュも多く、自分が考えていたラインを滑れているのかもよくわかりません。雪も深いので一つマッシュをドロップしてみましたが、あまりの深さとフラット落ちでストップ。考えてみればこの時に少し頭を冷やせばよかったのですが・・・

 斜面変化で大きく落ち込んでいるところに差し掛かりました。記憶では飛べないほどの大きなギャップはなかったはずで、この雪の深さならGO!とテイクオフしたのですが・・・

 フェイスショットで視界も悪い中無理に踏み切ったので、体軸は斜め左後方にズレていたと思います。あーー、けっこうデカかったなーーえ、着地フラットじゃん。いやブッシュも出てるじゃん、ちゃんと雪に着地できるよなーーとぼんやり思いながら着地へ・・・

ゴキン

聞いたことのない衝撃が左ひざから伝わって僕は肩まで雪に埋まって呆然とドカ雪の暗い空を見上げていました。まさかこれが噂の・・・?
音はしたものの、そんなに痛くはない。いや、受傷直後で脳内麻薬が出てるだけ?リフトの上から「Are you OK?」とみんなが声をかけてくれるので、日本人らしく「I'm OK!」と答えておいたけれどまったく自信はない。実際のところ、その後どうみても目の前にあるストックを見逃して10分ほど雪を掘って探してしまうというくらい、僕は動転していました。

異変

ストックを見つけ、軽く屈伸し、激痛みたいなものはなし。さっきの音は気になるけど、指や首の関節だってぽきぽき鳴らせるんだからきっと膝の関節だって・・・(←希望的推論) まあ今日はリフト代はもったいないけど大事をとってこれで上がって、、、と思いながら圧雪コースに向けてトラバースを開始すると、

コキン

ガーン、ひざ下が外旋外転方向に曲がったーー!!ホラーだ! 
思わず雪に倒れこむ。これいかん奴や。
角度としては大したことはなかったと思うけれど、確かに体重をかけたら膝が亜脱臼して外旋外転方向にスキーが逃げてしまう。一気に世界が灰色に(もともとドカ雪で灰色だけど)なって崩れていくような絶望。

なんとか気を取り直して、深い雪を恐る恐るかき分け、圧雪コースに降りるギャップを外れる膝で飛び越え、片足スキーでフェアリーなホテルの建つボトムへ・・・パトさんにカラ元気を出して「いやー膝やっちゃいましたよーー今日見てもらえる医療機関はどこでしょう?」と笑顔で聞いて、しかし心の中は底まで落ちてしょんぼりとよろけてこけたりしながら駐車場まで足を引きずって戻りました。

実は普段はテレマークスキーを履いている僕ですが、今日はちょっと浮気してアルペン極太板で来ていました。そして解放値はたったの4.5だったという・・・
白馬の病院で徒手検査をしていただき、「動揺性は大きくはないが損傷している可能性はある。とはいえ手術適応というほどではないのではないか」というお言葉を頂いて、なんだか釈然としない気持ちで八ヶ岳山麓に帰りました。(オートマ車は片足で運転できて便利です)

解放値目盛り(黒いピースの真ん中に灰色の線)は後ろに下がり切っている。4.5くらい。

振り返り

僕の体重は67キロで、それなりに強度高く滑る方だと思います。解放値4.5など、激しく滑れば誤開放が起きることが予想されるので普通はもっと高くすると思います。そんな解放値で靭帯を損傷してしまったというのはいったいどういうことでしょう。

僕の使用していたのはいわゆるフレームツアービンディングで、BCツアー用ではありますが解放機構はアルペンビンディングと同じです。つまり、ヒールピースが前方縦方向、トーピースが横方向の力を受けて解放します。実際のクラッシュではありとあらゆる方向に衝撃が加わる可能性がありますが、それをすべて分力でこの三方向によって解放することを期待しているわけです。もともと無理ゲーといえば無理ゲーですよね。

僕のしたような、パウダー、後傾、フラット落ちでは解放値がどんなに小さくしてあっても開放が働きにくかったということはあるでしょう。
特にあの日は、降りたてで柔らかく大きく沈み込むパウダーではあったものの、スラブ気味で重く、それなりに密度のあるタイプの雪でした。パウダーはパウダーでももっと軽ければ、後傾で落ちればスキーがバーンと前方にすっぽ抜けてノーダメージだったかもしれませんし、ほんの少しのねじれを感じ取ってトーピースが横開放してくれたかもしれません。実際は深く重い雪に沈み込んでしまったことでブーツや下腿そのものが雪にかなりトラップされてしまい、ねじれ力がトーピースを解放させるに至らなかったということが考えられます。

もう一点後から考えるとリスクファクターだったのは、慣れないギアでプッシュしてしまった点です。
普段テレマークギアでルーズに滑っている自分には、アルペンのギアは硬く重厚で遊びが少なく、アルペンでやってしまうと膝に負担がかかるような動き方が身についてしまっていた点は否めません。(実際シーズンのほとんどをテレマークで滑るので、いまだにアルペンを履いても内足を引いてできたスペースに重心を落とし込む癖が抜けず毎回オット、となっています。)しかし、テレマークでも滑れそうな斜面だから、ということでアルペンならまして余裕だろう、と無造作に滑り込んでしまった感はあります。

 僕自身正直わかっていなかったなあと思うので、哀れな経験者代表として声を大にして申し上げますが、パウダーは何でも受け止めてくれる魔法のクッションではありません。僕のように靭帯も切りますし、ツリーホールに頭から落ちて上がれなくなって亡くなった方のニュースも聞くこともありますね。今回の僕のケースも、山中のツアーだったらかなりの大事になっていたことでしょう。着地もあいまいなままツッコむなどとうぜんケガのもとです。

さて、白馬のお医者さんでは「たぶん温存療法」と言われたわけですが、とうぜんそんな無難に終わってくれるはずもなく・・・話はまだ続くのですがそれはまたの機会に。おやすみなさい。


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