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20230315_ミュージカル『太平洋序曲』

作品概要

企画・制作:梅田芸術劇場
出演   :3/15マチネ
      狂言回し 山本耕史
      香山弥左衛門 海宝直人
      ジョン万次郎 ウエンツ瑛士
      将軍/女将 朝海ひかる
      可知寛子 綿引さやか 染谷洸太 村井成仁
      谷口あかり 武藤寛 中西勝之 杉浦奎介 
      田村雄一 照井裕隆 藤田宏樹 井上花菜 横山達夫

作詞・作曲:スティーヴン・ソンドハイム
脚本   :ジョン・ワイドマン
演出   :マシュー・ホワイト
オーケストレーション:ジョナサン・チュニック
翻訳・訳詞:市川洋二郎
振付   :アシュリー・ノッティンガム
音楽監督 :キャサリン・ジェイズ
美術   :ポール・ファーンズワース
衣装   :前田文子

あらすじ

時は江戸時代末期。海に浮かぶ島国ニッポン。

黒船に乗ったペリーがアメリカから来航。
鎖国政策を敷く幕府は慌て、
浦賀奉行所の下級武士、香山弥左衛門と、
鎖国破りの罪で捕らえられたジョン万次郎を派遣し、
上陸を阻止すべく交渉を始める。
一度は危機を切り抜けるものの、続いて諸外国の提督が列を成して開国を迫りくる。
目まぐるしく動く時代。
狂言回しが見つめる中、
日本は開国へと否応なく舵を切るのだった。

公式サイトより<https://www.umegei.com/pacific-overtures/>


この作品を日本人キャストで上演するということ

基本的に私はソンドハイム作品は、彼の音楽、それに乗ったリリック、技術を鑑みると日本語上演に向いている作品ではないと思っています。
ただ、一連のソンドハイム作品でも「太平洋序曲」だけは日本人キャストで「やった方がいい」と思える作品なんです。

過去、映像ではありますが海外上演された本作と、宮本亜門演出の本作を観ていますが、「しっくりくる」のが亜門演出だったからかもしれません。
そもそも海外で作られた、海外の目から見た「日本」の話なので、別に「嘘くさく」てもいいのですが、どうにも海外上演された本作はその「嘘くささ」に違和感があるのかなぁと思っています。

私はこの作品の中で「Poems」が好きな曲(場面)の一つなのですが、
あの連句の構造をサラッと身体でとらえて表現できる感覚とか…

なので、海外演出・スタッフ中心の海外の目から見た日本
日本の俳優が演じる。という本プロダクションは大変興味深く、楽しみにしていました。

やべえぞ!キャスト陣!

前述したように、私がソンドハイム作品の日本上演に懐疑的な大きな理由として、日本のミュージカル俳優の技術面が大きいものでした。
BroadwayやWest Endの世界屈指の俳優たちも舌を巻く、ソンドハイムの楽曲、それを歌えるというだけでは成り立たない演技力を求められるので、
今まで上演された日本翻訳版で傑作と思われた作品でも、やっぱりどうしても俳優の力量として「100歩劣るなぁ。でもしょうがないか」(今までのキャストのファンの方すみません!)と思っていた部分があったのは否定しません。

でっ!!!!!!でっ!!!!!!!
その先入観バリッバリに持っている人間からからみたこのプロダクションですが、
やばい!ですね!!!
日本の俳優もここまでソンドハイム作品を歌いこなし(すごい苦労&努力したと思います)、一生懸命に歌っている感も見せずに演技できる俳優陣がいる、というか、時代的に生まれてきてたんですね!!!
「やれるのかしら?ハラハラ」なんて微塵も感じないどころか、「すげぇぇぇ!」って思えるパフォーマンスを見せてもらえたのは久しぶりでした。
※語彙ww
感動しました。
プリンシパルキャストもさることながら、アンサンブルキャスとの質の高さに驚かされました。とにかく、歌詞が濁ることなく聞き取れる。
どんなに声が重なる部分でもつぶれない。
かつ、一人ひとり確実に演技が上手い。
多分皆さん、海外に出ても通用されるかと。どんどん外に出て!と思いました。

やべえぞ!スタッフ陣!

俳優陣の高いポテンシャルを支えている、ひっぱり上げるように高めているのが今回のプロダクションのスタッフワークだったと思っています。
美しく無駄のない美術・照明、
音がクリアに聞こえる美しいオーケストレーションと翻訳・訳詞。
海外から観た日本という視点から、違和感なく「日本」を作り上げて、俳優の力量を最大限に発揮させている統一感ある演出…。

日英の合同プロダクションでやった意味の大きさ、良さが際立っていました。いいコラボレーションとはこのことですね。
このプロダクション、ぜひ、向こうのメニエール・チョコレート・ファクトリー劇場でもキャストを変えずにあえて日本語で上演してほしいです。
海外のオーディエンスの反応が知りたいです。

時間をかけて作る良さ(日本でだってやればできんじゃん!)

このプロダクションのコラボレーションや俳優とスタッフとの対話や制作活動はすでに2020年初頭から始まっていた。ということで、
とても丁寧なコミュニケーションの上に構築されていることが、作品を通して感じることができました。
なるほどな…という感じです。

日本で上演されるミュージカル作品の制作期間の短さ、特に演出家と俳優陣の対話の短さについて日頃気になっていたので、
こうやって時間をかけて作られている作品の完成度を見ると
「やればできんじゃん!」
と何から目線?という感想も出てきてしまいます。

ラストの「Next」について

今回のプロダクション、事前に物議も醸してしまった(※)新演出(110分)版ということでしたが、特にそこにネガティブな印象はありませんでした。
※あれは上演時間が短いということが問題だったんではなく、主催がきちんとそれを事前に伝えてなかったことが問題

核を取り出して磨いて、ソリッドにした作品にはなっていたと思います。
限りになく説明的な部分を省いているのも印象的でした。
わかりにくいという意見もあるかもしれませんが。

ただ、一点、上記の作りをしたせいもあって、
ラストの「Next」が…。
これは、海外演出家だったというのも理由かもしません。
そもそも「Next」はこの作品が作られた1970年代の高度経済成長でイケイケだった日本を描いているので、この昨今の日本の現状でそのまま歌うと、日本人の感覚からすると「うわ!恥ずかし!!!」っとなってしまう曲なのですね…。なので上演前から「『Next』ってどうやってやるつもりなんだろう?」と興味深々でした。

それが…「あ。そのままやっちゃう?」という感じだったので、
個人的には内心「はいーーーーーーーーーーーー!!??(赤面)」(やすこ風)な叫び声が出ていました。
海外からみると日本を批判するのも難しいかもしれないし、実際まだそう見えてるのかもしれないし…。
もう少し最後に今の日本語の現状を踏まえて示唆的なところを入れてもよかったんではないかと。

多分そこを留意して、「トヨタ…」とか「ソニー…」とか曲の合間合間に入っている「説明」がなかったのでそこは抜いたと思うのですが、
それもあって、「説明」を入れることで曲のボルテージが徐々に上がっていく形も作れず、せっかくの「Next」がうわっ滑りしてしまって、なんともたんぱくに終わってしまった感じすらしました。

語りたい部分が多くあり、深く、広い、ソンドハイム作品、
そしてこのプロダクションだったので、観た方と語りたくなる作品でした。
こういうソンドハイム作品が日本で作られたこと自体すごいと思うし、このクオリティを一定の基準にしてもいいぐらいだと思います。

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