読書感想文「成瀬は天下を取りにいく」


この本を読んだきっかけは、本作が2024年の本屋大賞を受賞したからだ。
前回の読書感想文でも紹介したが、私は2021年から本屋大賞受賞作は発売と同時に買うという恒例行事を毎年欠かさず行っている。
去年は「汝、星の如く」を読んで、たくさんの感動をもらった。
今年の受賞作はどんな主人公と出会えるのであろう、と期待に胸を膨らませ、本作を手に取った。


本作の主人公、成瀬あかりを一言で紹介することは非常に難しい。
本作では、成瀬の中学高校時代の話がメインになっており、周りの同級生と成瀬の関わり方を観察し、同級生と成瀬を比較することで成瀬の変人ぶりがより際立つストーリー展開となっている。

世間一般の人から見た成瀬の印象は、かなり変わった女の子、であることは間違いないだろう。
私自身もそういう印象を抱き、ページをめくるたびに出会える成瀬の変人ストーリーにはたくさん楽しませてもらった。
しかし、全く思考が読めないトラブルメーカーのようなタイプの変人というわけではなく、真面目で自身の目標に忠実すぎるが故に浮いてしまうタイプで、環境さえ変われば一気に才能を開花させるタイプの変人である、と私は思った。
(他の人から見た成瀬の印象はまた違った印象になると思うので、本作を読んだ人はぜひ感想を教えてほしい。)

本作の中で、成瀬は様々なことに挑戦し、失敗も経験して成長をしていく。
失敗しても成瀬は立ち止まらない。

残念ながら今の日本の社会では、成瀬のように自主的にやりたいことを決め、周りから見て現実味がないと思われるくらい大きな目標を立てられるタイプの人間はほとんど育っていない、と思う。
日本で中高時代を過ごしたからこそよくわかるし、中学生高校生の自分もできなかった。

悪気のない大人たちに言いまとめられ、挑戦したい夢があるのに、偏差値や環境、様々な要因で現実へ引き戻されてしまう。

本作はそのような息苦しい環境で生きる日本の子供たちに、挑戦することの面白さや楽しさを説いている作品である。
しかし、それと同時に、自分の芯を貫き通すことで生まれてしまう周りからの批判や、“普通の人達”からの孤立という避けられない問題も隠すことなく触れている。

これらを踏まえ挑戦とは何かを私の言葉で一言でまとめると、
「普通の人生との卒業」
であると思っている。
挑戦者は周りから大きな注目を浴び、当人に関しての賛否両論が身の回りで起きるが、
成瀬を含めた挑戦者はそれに一喜一憂することはほとんどない。

「火星移住計画立てます!」とか、「時価総額世界一の企業を作ってAmazonやMicrosoft倒します!」みたいな、非現実的な夢を掲げる人が大いに応援されるような社会であってほしい。
あるいは、せめて、知的好奇心よりも理性が先行してしまっている大人達からの大きな批判や反対に苦しむことがないような社会であってほしいと思うし、私自身もそのくらい大きな夢や目標を立て、挑戦に満ち溢れた人生にしたいと本気で思っている。
周りからの視線や評価に鈍感な人にだけしか挑戦の権利が与えられていない現状は変えていく必要があると思うし、今の日本には、挑戦の民主化が必要であると思っている。

様々なことに挑戦する成瀬を見て、誰かの背中を追う人生より、誰かに背中を追われる人生を送りたい。そう思える作品だった。

さて、物語の中で、西武大津店閉店の話が大きく取り上げられる場面がある。
西武大津店とは、成瀬の生まれ育った地域、滋賀県大津市にあるデパートのことである。

昨今、地方の過疎化やオンラインショッピングの目覚ましい台頭により、地元住民に長く愛されてきた地方のデパート閉店が相次いでいる。
私の故郷の隣町である帯広でも、住民から長く愛されてきた長崎屋、藤丸、イトーヨーカドーなどの大きなデパートの閉店のニュースが相次いでいる。
地域住民の交流の場、中高生の憩いの場となっていた場所の閉店は、すなわち、街の過疎化を直接的に表す深刻なニュースである。
私が高校生だった頃と比べ、帯広市は随分と寂れた街になってしまった。
時代の流れは個人に止められることではない。
しかし、ゆりかごから高校卒業まで育てて貰った地域を離れ、引き込まれるようにして上京した私も、地方衰退の問題の一端を担っているはずである。決して他人事ではない。

東京一極集中、少子高齢化、地方の過疎化など様々な課題を抱え続けている日本において、
私達はどのような形で問題解決に貢献できるであろう。

作者の真意は詳しくは分からないが、一読者である私は本作を読んで以上の感想を持った。

去年の本屋大賞の作品では、多くの感動を。
今年の本屋大賞の作品では、挑戦する勇気を与えてもらった。
来年の受賞作が私の人生にどのように影響を与えてくれるのか、今から楽しみで仕方がない。

しかし、どんな作品であろうと、作品内に込められた作者の隠されたメッセージを考察し、その全てをありのまま受け止めることができる私でいたい。



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