見出し画像

マルセイユの記録、たぶん第1稿

今月(2023年8月)の初め、某政党の女性局のパリ視察が炎上していた。
エッフェル塔の前で楽しそうに笑う記念写真をアップした議員に対して、税金を使って観光ばかりしているとか、たった数時間の研修の為に大金を使うならまずは日本で論文を読めばいいじゃないかとか、そんな批判がSNS上で飛び交っていた。このパリ視察が有意義なものだったのか私にはわからないが、この炎上は見ていてばつが悪かった。というのも私もこの6月、アーティストとしてフランスに派遣されていて、その成果報告をまだ何もしていないからだ。何をしていたか話さなくてはいけないのは、私も同じだった。

6月後半の約2週間、私は南仏のマルセイユに滞在した。
アーティスト・イン・レジデンスの制度を利用して、現地のキュレーターに協力してもらいながら街を歩き回り、美術館やアートセンターを巡り、街頭でインタビューを取ったりした。
この成果はもちろん、作品に反映させるつもりでいて、秋には展示と報告のトークも予定している。そして現地で経験したことのレポートもきっちり書こう、書きたいトピックも色々メモしてあるし、関連した記事やデータも調べて、しっかり推敲して書こう…と思っていたのだけど、どうも構えすぎるとなかなか書き進められず、時間ばかりが過ぎて行くのだった。
そんな訳で、一旦走り書きをここにあげてみようと思う。(noteは大体顔見知りしか読んでいないと思うので…)これから書きたいレポートの、これはたぶん第1稿め。

【パリとは別の世界】
「マルセイユは、フランスの中でも最も治安の悪いエリアと言われています」「観光するには1日で十分です」
事前にマルセイユについて情報収集すると、ネットではこんな評判ばかりが出てきた。フランスのガイドブックを開いても、マルセイユについて割かれているのは見開き2ページだけ。
だからパリから特急に3時間乗ってマルセイユの駅にたどり着いた時、ホームに散らばる大量のごみや、至る所にあるグラフィティを見ても、多少は面食らいながらもなるほどなぁ、と思ったのだった。

【南仏のサラダボウル】
マルセイユでは最初に、私を派遣してくれたキュレーターの友人である、ミャンマー出身のキュレーター、Maycoさんのフラットに泊めてもらった。
彼女の友人をはじめとして、友人の友人、カフェやバーで居合わせた人など、様々な人と自己紹介しあう機会があったけれど、フランス生まれのフランス人と出会う機会は少なかった。
「あなたの出身は?」と尋ねると、モロッコ、ニューカレドニア、インドネシアとフランスのミックス、オランダ、ロシア、ドイツとカナダのミックス…など様々だった。また、街を歩いていても、様々なルーツの人が暮らしていることは明らかだった。肌の色や着ている服装、話す言葉が違うことが、すぐにわかる。観光客を除けばほとんど日本人だらけの東京で育った私にとって、この風景は異様だった。
しかし、この環境は異邦人にとっては居心地が良いということもすぐに分かった。皆、お互いに母国語ではない言葉で話すということに慣れている。私にはわかりやすい英語で話してくれ、私の話す拙い英語もゆっくり聞いてくれた。そして、色々な土地からこの街に移り住んでいるのには、皆それぞれの事情があり、友達同士の会話には、それとなく気遣いが感じられた。

【古くなることへの肯定】
マルセイユ含め、フランスでは新築の建物にほとんど出会わなかった。
美術館で1800〜1900年代のマルセイユの街を描いた絵を何枚も見たが、すぐに「あ、これはあの通り」「この建物はあの市役所」と分かった。それくらい、200年前と街のハードの部分は変わりなかった。
東京では至る所で新しいビルが立ち、ほんの数年で街が様変わりしたりする。そしてこの前まで何があったか、どうしても思い出せなかったりする。
古くて残っているのはよほど価値のある建物か、手が付けられない取り残された場所だったりする。
家は建てたときが一番高くて、価値はどんどん下がっていく。それは東京にいると疑いようのないことに思えた。建物だけではなく、人間も若さに価値を置かれることが多い。女性は若さを保つべきとか、新卒はゴールドカードだとか。そうして鮮度を失わないうちに、急いで生きていくんだろうなぁとぼんやりと思った。

【INTERNATIONAL SO TIRED DAY】
今回のレジデンスはあくまでリサーチレジデンスだったので、現地で展覧会やイベントを行う機会はなかった。ただ、折角なので小さくても何かプロジェクトをやってみたいと思っていた。そこで試みたのが”INTERNATIONAL SO TIRED DAY”の企画だった。
私はもともと疲れをテーマにしたアートプロジェクトを日本で企画していた。マルセイユでも滞在中の6月25日を”INTERNATIONAL SO TIRED DAY”として勝手に制定し、「この日は疲れることをしないでください。皆で一緒にサボりましょう!」と書いたチラシを作って、街に配りに行った。この変なチラシを、意外と街の人はもらってくれ「なんでこんなことやってるの?」「あー、わかるよ、日本人は働きすぎだもんね。」「休息も、次にもっと頑張る為にとってる節があるよね」なんて、ちょっとした会話もすることができた。
SO TIRED DAYについては、日本の友人達にも参加してもらうように頼んで、どんな風にサボったか、SNSで投稿してもらった。しかし日本では日曜にも関わらず、「ごめん、今日は予定が色々あってサボれない!」という返信をいくつも貰い、なんとも日本を感じたのだった。

【自分を守るための魔術】
「ケアって、少し魔術的なところがあるよね。」
そう言っていたのは批評家の知人のAさんだった。
「とても個人的・具体的なもので、その人に合わせてやり方を変えなくちゃいけないし、大量生産化できないでしょう?マルセイユでも、そんな魔術的なものを探してみてもいいかもね。」
彼は私のリサーチのテーマが「ケア」だということ(かつ、作品の中で魔女をモチーフにしていること)を知って、そうアドバイスしてくれた。

魔術的かはともかく、海外の長旅に慣れない私はセルフケアの重要性をひしひしと感じていた。日中、新しい景色や人に出会うことは楽しく刺激的だけど、家に帰ってきて持参したチキンラーメンを食べるときや、いつも使っているシャンプーで髪を洗うとき、とても安堵した気持ちになった。また、慣れない気候と夏の日差しの強さで肌はすっかり荒れてしまっていて、自分の心と身体を守るための技術が必要だなと思った。

先に書いたように、マルセイユには移民が多い。街の中には日本の新大久保やアメ横のような、外国人による商店の集まったエリアがあり、自分の生活を守るための技術が持ち寄られているように感じられた。トルコやモロッコなど、様々な国の食材が手に入る店や、ハラル料理店や、ハマム(中東の伝統的な公衆浴場)など。私がチキンラーメンに安堵するように、ここでも日々誰かが自分の安堵に繋がる買い物をしているのだろうか。

【街頭でのインタビュー】
新作のために街頭でインタビューをとることは、フランス語のできない(そして英語も得意ではない)私にとってなかなかチャレンジングなことだった。まず日本語で質問文を作り機械翻訳で英語にし、現地のスタッフの協力で自然なフランス語になるように訳してもらった。
インタビューのテーマは、子育てや介護などのケアについてどう考えているか。正直なところ、マルセイユ ならではの話題という訳ではないし、収穫があるかは不安だった。実際に質問を始めてみると、日本とフランスでは子育てや介護に関しての政策や制度が全く違うし、家族や働き方の価値観が大きく異なることがわかり、インタビューを試みて良かったと思った。
このインタビューについては改めて書いてみたい。

街の人たちと話しているとしばしば、あぁ、日本の状況を知っているよ、と言われた。
「アジアの人達は家族の中ですべて面倒を見るんでしょう?」
「クローズドな輪の中で、ケアをする責任があると思われてるんだろうね」
日本から遠く離れたフランスでも、私たちの価値観はどこからか伝わっているようだった。当たり前だと思っていた考え方から、あっさりと突き放されるような感じがした。

【東京はハードな街?】
このそう長くない文章でも何度も書いてしまうくらい、私はマルセイユにいながら東京のことをしょっちゅう考えていた。何しろずっと東京に住み続けているから、今回は遠くから日本、東京を見直す、私にとってそうそうないチャンスだったのだ。

フランスで色んな人と話たり、景色を見比べて思ったことを総合すると、
東京は皆の働く時間が長くて、お金がないと色々なことが出来なくて、それでも家族の世話は無償で自分たちの家庭の中で行うことが当たり前で、仕事のキャリアは一度外れると戻ることが大変だし、身なりはきちんとしておかないとかっこがつかなくて、ルールを外れることに厳しい街。
こう書いてしまうと、そりゃ疲れるわ、という感じがする。もちろんいい所が多分にあるのは知っているけれど。

そういえば東京では、アーティスト活動を続け作品を作り、誰かの心を動かしたいと思うことが、何か大それた夢のように思えてくる。そんな浮ついた夢を見るより、地に足をつけて働き、自分の生活を守る方が大人らしく、賢いように思える。そもそもお金を稼ぐだけでも疲れているのだ。
こう言った心境は当たり前のことだと思っていたけれど、これも環境による罠かもしれない。

【一旦、おわりに】
ここまでざっと書いて読み直して、あまりに素朴な感想かなぁ、という気もする。まだまだ書いていない事も沢山ある。
しかしこの後推敲したり裏付けを調べ始めるときっとピュアな所感は忘れていくはずなので、今日は一旦、ここまでで。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?