スタンミとトコロバと夏の陽炎

「あっちぃ〜な〜」
 スタンミが太陽がご機嫌なほど照りつけて、陽炎で揺れる街を歩く。自販機で缶ジュースひとつを買うと、ふと思い出が蘇る。
(……そういや、トコロバが美味そうにこれを飲んでたな)
 信号待ち、日陰に佇みながら横断歩道を眺める。スタンミの後ろからボールが横断歩道へと跳ねていった。その後ろに幼児が追いかけていく。信号は赤。車道には勢いよく走ってくるトラックが見えた。
「いや、マズイだろそれは!!」
 スタンミは考えるより先に駆け出していた。タンッタンッとアスファルトを蹴っ飛ばして、瞬く間にスタンミは幼児に追いついて抱え上げる。しかし、勢いは止まらない。
(まずいまずいまずいまずい……)
 頭の中で危険信号が鳴り響く。止まらない身体は幼児を抱えたまま横断歩道に倒れ込んだ。無慈悲な速度で迫るトラック。みるみるうちに目の前にまで来て、しかし、世界が止まった。完全なる無音の世界。車だけじゃない。倒れ込むスタンミの身体も空中に停止した。
(どうなった。助かったのか。もしかしたら、これは走馬灯ってやつかもしれないが)
 固まったままのスタンミ。その目の端に見覚えのある奇妙なシルエットが見えた。
「スタンミさん、また遊ぶって約束したの忘れたんすか」
 聞きたかった剽軽な声が耳に届く。それと共にスタンミの身体はグイッと引き起こされた。世界に音が戻る。トラックはボールを撥ねて、そのまま走り去っていった。胸元に抱えた幼児はそれを見て号泣しはじめる。
「ほら、これあげるから泣き止むっすよ」
 トコロバが視界に入ってきた。幼児に青いアイスキャンディーを渡しながら、あやしている。背後で「すみません!!!」と大声を上げながら走ってくるヒトがいた。
 どうやら、幼児の父親のようだった。汗だくになりながら、何度も感謝と謝罪を述べて幼児を連れて去っていった。
 スタンミとトコロバはベンチに座って一息いれた。そこでハッとした顔でスタンミはトコロバを見た。あの夏の姿そのままで、トコロバはそこに座っていた。また、ベロが出てた。
「おまえ、相変わらず出してんだな」
 スタンミがベロを引っ張る。トコロバはアウアウと声を漏らしながら、されるがままになった。だがスタンミがベロを戻すと、思わず二人で笑った。スタンミが「ありがとな」と口にすると、トコロバがエヘヘと笑ってから、改まった顔をする。
「いいんすよ。友達ですからね。当たり前のことしただけっすよ。さあ、約束通りに戻ってきたんすから。とっておきの場所のひとつやふたつ、あるんすよね」
 スタンミは「なんだそれ」と笑いながら、立ち上がった。
「あるに決まってんだろ。おまえと行きたい場所、いろいろ見つけてあんだからさ。ほら、さっさと行こうぜ」
 二人はワープホールの中に入っていった。夏がまた始まる。

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