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『ナツノカナタ』レビュー「この夏、ゾンビをなぎ倒すクールな女子高生に出会いました。今思えばあれは恋だったのかもしれません」

結論

以下の要素が当てはまる人におすすめです。
 (1)可愛い女子高生がゾンビと戦うのを応援したい
 (2)シンプルな探索アドベンチャーが好き
 (3)メタ要素やひねくれたストーリーが好き

長所

(1)なんといっても無料ゲームなのはすごい

 本作はなんと無料ゲームなのですが、無料ゲームでこのクオリティの高さは純粋に素晴らしく、称賛に値します。もちろん、ゲームとして完璧とまではいえませんが、下手な有料ゲームより楽しめるのですから何も文句は言えません。

(2)派手さも目新しさもないが、魅力的なキャラクター

 キャラデザ自体はちょっとクセのある絵柄ではありますが、キャラクターエピソードで内面が掘り下げられるので、かなり愛着が湧きます。エンディング後もキャラクターエピソードがどんどん展開されていくので、可愛い女の子の独白を延々と聞きたいという性癖をお持ちの方には向いているゲームと言えます(笑)。

 それにしてもメインヒロインのナツノちゃんが本当に可愛い。スレンダーなクール系黒髪ロング美少女と創作物のヒロインとしてはあまりにもありきたりな設定ではありますが、それでもいいものはいいですね(笑)。

 ちなみにこのナツノちゃん、メンタルが強靭過ぎるとネット上で評判になっています。何故なら、感染者に出会っても一切怖がることなく、冷静に銃殺&撲殺しますし、年上にもまったく遠慮しません。おまけにあっさりと車も運転してしまうスーパー女子高生なのです。恐らく、ナツノちゃんがやたら空腹になりやすいのも、このメンタル部分に大量のエネルギーを使っているからということなのかもしれません。

(3)フィクションのご都合主義を否定するひねくれたストーリー

 本作は可愛い女子高生が主人公ということで、一般的なギャルゲー、アニメ的なストーリー展開を予想する人もいると思いますが、実はものすごい変化球がプレイヤーに飛んできます。はっきり言って相当ひねくれているシナリオなので、好みが完全に分かれそう。

 本作のストーリーに関してはネタバレが致命的なので、詳細は省きますが、一言で言うのであれば、「設定はフィクションなのに、フィクションのご都合主義を思い切りあざ笑い、否定するギャルゲー」。本作には世界を救う勇者なんていませんし、ナツノの話し相手である主人公も特別な力はもっていません。結末自体はバッドエンドではありませんが、何もかもが万事解決する全員ニッコリのハッピーエンドでもないです。プレイヤーの心に爪痕を残すのは確実ですが、正直に言うと、あまりすっきりしないエンディングだなーと個人的には思いました。

 まあ開発者のインタビューを読んだ限り、プレイヤーのこのモヤモヤするような感情はどうも狙い通りらしく、完全に術中にはまっているようです。個人的には気持ちいいハッピーエンドが好きなので、本作のシナリオが好みか?と言われると、正直、ないよりのありなのですが、開発者の狙い通りに心を動かされているわけなので、完全否定をする気もないという複雑な気持ちではあります。

(4)雰囲気が抜群に良い

 本作はいわゆるポストアポカリプスものなのですが、夏の青空の下で女の子とゾンビが爽やかに殴り合う世界観には心が暖まります。悲壮な世界観なのに、あくまでも清涼感があって爽やかで、このような味付けと雰囲気作りは満点の出来。文学的とも詩的とも言える世界観の設定は素晴らしいと思いました。

短所

(1)ゲームのテンポが悪め

 本作は基本的には探索パートとADVパートを交互に繰り返してゲームを進行します。本作の一番の売りはストーリー部分だと思いますが、そのストーリーを楽しむ為には探索パートを行うことが条件になっています。探索パート自体はちょっとしたスパイス程度にはなっていますが、ストーリーだけ楽しみたい人には探索パートは邪魔に感じてしまう可能性はあります。

 ちなみにストーリーだけを楽しみたい人向けにスキップモードが実装されていますので、探索モードが怠いという方はこちらの機能にお世話になるといいでしょう。

(2)若干遠回しでわかりにくいテキスト

 ADVパートではテキストを読んでいくことになりますが、割と遠回しに説明していくようなテキストが多く、結論に到達してちょっとしてからようやく理解が追い付くような感じです。この手のADVゲームはポエム的な言い回しなどでくどくなりがちですが、本作のテキストもその例には漏れず、なんとなくまどろっこしいような印象はありました。まあそれが文学だと言われれば何も言えないのですが・・・。

(3)探索パートは単調なので、あくまでもオマケ程度

 本作の売りの一つになっている、ランダム要素を含んだ探索要素は一応形にはなっています。普通に遊べる出来ではありますが、いわゆるミニゲーム程度のクオリティですので、ゲーム後半になると面倒さの方が大きくなってきます。

 まず、戦闘部分がRPGとしては出来が良くないです。雑魚敵が弱すぎて、戦闘に負けることはほぼなく、プレイヤーが苦しめられるのが、ほぼ空腹による探索失敗(空腹で歩けなくなると探索失敗になり、ストーリーの進行条件を満たせないという謎にシビアな仕様)。

 ちなみに、戦闘は簡単とはいっても、いきなりボスクラスの敵が登場して無残にも殺され、死亡すると所持品をすべて失ってからやり直しになります(拠点に収納されているアイテムはロストしませんので安心してください)。RPGとしての調整はイマイチなのに、ペナルティだけは一丁前にシビアなのは正直どうかと思います。

 普通のゲームならこのタイミングで強敵が出ますので準備してくださいと警告が入ると思いますが、本作はそのような親切なものは一切なく、いくら終末世界のサバイバルゲームとは言え、理不尽さは感じました(ちなみに強敵との戦闘直前に警告は入りますが、探索出発前に知らないとボス対策は実質不可能なので、ほとんど意味はありません。まあ逃げれるだけマシというのはあると思いますが)。

 また、バッグ類を使うことにより、所持できるアイテムの数を増やせますが、これが焼け石に水程度に増えるので、すぐにインベントリがパンパンになるのには困りました。探索パートは、インベントリの整理とナツノの腹ペコ対処に占める比重が多すぎて、面白さよりはストレスの方を強く感じる人が多いでしょう。

 探索パートはローグ系みたいなランダム要素はありますが、特別なイベントもなく、キャラ同士の掛け合いは事務的なものしかありません。入手できるアイテムもランダムにはなっていますが、ぶっちゃけほとんど変わり映えしないので、探索のモチベーションが上がるとは言えない作り。レアアイテムがいきなり出てきて脳汁ドバドバなんてものは一切なく、食料や素材をチマチマ集めるだけで刺激に欠けます。

 エンディング到達後は、この探索パートを進めてキャラクターエピソードを解放していくことになります。キャラクターエピソード自体はいい話ではあるものの、結局枝葉に過ぎないので、出来の良くない探索パートまでやって読みたいかと言われると厳しいものがあります(この枝葉も本筋のゲームだと言われればそれはそうなんですが、それでも・・・)。キャラ自体にはなんだかんだ魅力はありますので、やっても無駄とまでは言いませんが、探索パートをエンドコンテンツとするならもう少し作り込むべきでした。

(4)主人公に感情移入しづらい

 ネタバレになるので詳しくは書けませんが、プレイヤーの分身となる主人公に関して、周りの環境などの設定が独特かつ特異過ぎて、「主人公=プレイヤー」みたいな感情移入は難しいのではないでしょうか。主人公に関しては、言動や性格にほぼクセみたいなものはないのですが、ゲーム中盤から私は主人公=プレイヤーではないという認識が強くなりました。

(5)エンディング到達までの操作がわかりづらい

 本作はメタ演出が採用されており、エンディングに到達するには、プレイヤーがとある操作をしなければなりません。その操作が自分はまったくわからなかったので、ネット上で検索しましたが、ネタバレ部分なので記事がなかなか見つかりませんでした。

 もしかしてセーブデータを削除したりするのかな?なんて一瞬思いましたが、Steamの不具合報告掲示板でようやくその操作がわかり、無事エンディングにたどり着きました。このようなメタ演出自体は悪くない試みですが、下手するとセーブデータを削除してしまうプレイヤーもいる可能性はありますし、不具合報告掲示板を覗いてようやくわかるというのは、ゲームとしてはあまりに不親切なのでは?と正直感じたりもしました。

(6)何も解決しないストーリーにすっきりしないのは事実

 ver1.2.8時点までのキャラクターエピソードをすべて読みましたが、ゲーム内で起きている問題ごとはなにも解決されません。もちろん、ご都合主義を否定し、キャラクターの成長を描くのが目的というのは理解できます。しかし、それを踏まえてもやっぱりすっきりせず、モヤモヤします(苦笑)。このモヤモヤをどう捉えるかどうかで本作のストーリーに対する評価は変わるでしょう。

 もしかしたら今後のアップデートでストーリーに進展があるかもしれないので、開発側の動きに注目したいところです。

★まとめ

 クールな女子高生が、夏空の下でゾンビと殴り合う探索型アドベンチャーと聞いて、食指が動けば是非プレイしてみることをおすすめします。ありがたいことに現状は無料でプレイすることができます。

 ストーリーには賛否両論、好みはあると思いますが、見識を広めたい方にはぴったりな作品なのは間違いありません。

 とりあえず、世界観の設定やキャラの動かし方は非常に上手なので、開発者の方にはこの世界観を流用した本格的なローグ系RPGを作ってほしいとも思いました(笑)。女子高生がサバイバルする探索ゲーム、すごく売れると思います。まあRPGの場合はもう少し人員がいると思いますが、この開発者の方(Kazuhide Oka氏)は今後、注目するに値するクリエイターだと思いました。

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