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『ニーアオートマタ』レビュー「君は狂ったヨコオタロウ節と異常なSTG推しに耐えられるか?」

結論

 以下の要素が当てはまる人におすすめです。筆者はそれなりに楽しめましたが、個人的には熱狂的な信者になるまでもない程度の熱量です。若い人ほど本作にドハマりする可能性が高そう。理由は最後のエンディングを見れば理解できると思います。とりあえず作品自体の強烈なインパクトは評価に値しますので、セール時ならおすすめできます。

 ちなみに、前作『ニーアレプリカント』をプレイしてから本作に手を出した方がいいと思います(本作から手をだしてもちんぷんかんぷんということはないですが、どう考えても前作を履修しておいた方が良いとクリア後に気づきました)。

 (1)ひねくれつつ、狂った鬱っぽいストーリーが好み(この世界には意味がないといつも感じている憂鬱な人には特にジャストフィット)
 (2)RPG要素が強いアクションゲームが好み
 (3)シューティングなどのミニゲームがしつこく出てきても許容できる
 (4)前作『ニーアレプリカント』をプレイ済み

長所

(1)なんだか可愛いアンドロイド達

 目隠し+銀髪+背中をちょっと露出し、抜群のスタイルで、剣を背負った女性型アンドロイド、それが本作の主人公である2Bです。この説明だけであらゆるフェチズムの塊であることはすぐに理解できますし、業界で非常に人気が高いのも頷けます。本作を未プレイでも2Bのことは知っているなんていう人は結構多いと思います。ぶっちゃけた話、本作が結構ヒットしたのは、ヨコオタロウ節のストーリーよりも、この2Bの存在が大きかったのは間違いないでしょう。

 ただ、2Bは思った以上に無口であまり喋らないので、内面的な魅力はプレイヤーにかなり伝わりにくく、ぶっちゃけて言ってしまうと、完全に見た目の良さだけで人気キャラに成り上がっている印象を受けます。実は会話とかを聞いてよっぽど可愛いなって思ったのは、2Bや9Sを手助けしてくれるオペレーターの方だったりします(苦笑)。

(2)音楽は良い

 音楽はかなり良いです。悲壮感が常時溢れまくり、たまに幼女&女性ボーカルが乗るというスタイルなので、陰鬱な音楽が好きな方であればお気に召すでしょう。ちなみに、ボス戦や移動中の音楽もクオリティが高く、サントラはチェックしておこうと思いました。

 ただ、音楽的には似たような雰囲気の楽曲が多く、いくつかの楽曲のアレンジを変えただけという感じで、バリエーション自体は狭く感じました。

(3)アクションゲーム初心者や苦手なプレイヤーに向けた配慮は嬉しい

 本作は難易度ノーマル以上の場合、アクションゲームとしての難易度は高めです。ただ、難易度イージーにすればオート回避などの初心者救済措置があるので、どんなにアクションゲームが苦手な人でも絶対にクリアまで導く!という開発側の強い意志を感じます。そもそもストーリーメインのゲームなので、途中での挫折が一番困るという話だとは思いますが、回復アイテムも事前に用意さえすれば潤沢に使えますし、強化アイテムも種類が多め。

 これだけ聞くと、プレイヤースキルだけで戦いたいというプレイヤーには物足りなく感じるかもしれませんが、難易度イージーでも敵の火力は高めですし、攻撃は苛烈なので敵が弱いというゲームではありません。やり込み要素では一発殴られただけでも危険な強敵との戦闘も用意されていますので、アクションゲームに歯ごたえを求めている人でも十分に楽しめると思います。

(4)ビジュアル面での雰囲気やセンスに優れている

 宇宙からの侵略者により人類が地球からいなくなった世界ですが、ロケーションも工場、廃墟都市、遊園地の廃墟、砂漠など、確かな見ごたえは感じさせます。

 特定のボス戦やダンジョンの話になりますが、割と本格的なシューティングゲームが始まったり、急にメトロヴァニアみたいな2Dアクションゲームになったりするなど、視覚的に変化を付けようという開発側の遊び心は評価できる部分だと思います。

 ちなみに、シューティングゲームの際に、2B達が搭乗する飛行ユニットの造形もかなりのかっこよさで、本作のこういう部分が中二病患者のハートを掴んで離さないんでしょうね(笑)。さらに2Bだけでなく、味方のアンドロイドや機械生命体のボスや武器などのデザインも非常に優れていますし、デザインチームはかなり優秀なのでしょう。

(5)各種モーションはかっこいい

 プラチナゲームズ製らしく、アクション部分のモーションの作り込みなどは非常にかっこいい。操作性もクイックで、ちょっとしたシューティング要素を噛ましたおかげで、場面によってメリハリが効いてくるのは好印象。

 ボス戦もド派手でエキサイティングなアクションが思う存分に楽しめます。例えば、敵の腕をハッキングして支配下に置き、その腕で殴り返すとか男の中二心を擽る展開も流石だなと思いました(笑)。

 ただ、ゲーム中盤以降は大型ボス戦はオールシューティング、もしくは、こじんまりとしたボスとの戦闘ばかりなのは拍子抜けしました。

(6)RPGとしては割と良い調整

 本作はアクションゲームとしての調整以上にRPGとしての調整の方が良くできてると感じました。各種武器の入手や強化、シナジーによる奥深さこそ薄いですが、その分、シンプルでわかりやすいチップの組み合わせによるビルドなど、RPG特有の成長要素は結構楽しめました。ただ、チップのUIは使いづらさが目立ち、改善の余地があると思います。

(7)ヨコオタロウ節全開の狂気を孕んだひねくれたストーリー

 ヨコオタロウ氏と言えば、代表作『ドラッグオンドラグーン』シリーズがあまりにも有名で、他のゲームでは味わえない狂気を孕んだシナリオが一部のマニアに高く評価されていました。本作もその例に漏れず、相当に変化球で頭がおかしく、性格が悪いシナリオに仕上がっています(オープニングの時点でヨコオタロウ氏がいかにひねくれてるか、すぐに理解できます)。

 後述するやたら説明不足な部分は厳しいですが、ゲーム後半からの怒涛の狂った展開を見た時、「なるほど、道理でこのゲームには熱狂的な信者がいるわけだな」と思わず心の中で納得してしまいました。

(8)実績がお金で買える

 なんと本作の実績はストーリー進行やエンディングを見るなどの実績を除き、お金で買うことができます(もちろん、ゲーム内のお金です)。「お金を貯めた」、「お金を使った」などの実績を採用したゲームは腐るほど見てきましたが、ほとんどの実績をお金で買えてしまうことには驚くしかありませんでした。

 実際、世の中のゲームには数えきれないほどのクソ実績が存在していますし、「どうしても解除できない&したくない実績は金で買えたっていいじゃないですか?だって面倒だもん。こうすれば実績厨も買ってくれそうだし」なんていう開発側の声が聞こえてきそうな雰囲気です。

 本作には自力でまともに解除しようとするとかなり大変な実績も数多くあり、お金で買えるという選択肢自体は実績解除好きにはありがたいものがあります。もちろん、この部分は硬派なゲーマーを自称する方々の間で賛否両論あると思いますが、クソ実績に時間と労力を使うよりは精神衛生上良いのは間違いありません。

 ちなみに、実際にプレイして実績コンプしようとすると最低でも150時間以上かかりそうな雰囲気なので、どうしても自力プレイで解除したい人は相当な覚悟が必要になってきます。

短所

(1)ストーリーは唐突気味で人を選ぶし、考察前提の投げっぱなし

 ストーリーは結構唐突で、微妙に説明不足や矛盾を感じさせる部分が多いです。これは筆者が前作『ニーアレプリカント』をプレイしていないというのも少なからずありそうなので、これから本作をプレイしようと考えている人は、『ニーアレプリカント』の方を先にプレイするのを推奨します。

 実際のところ、「深いところは考察してみてね!」というゲームなので、考察好きには良いかもしれませんが、そこまでゲームに関して考察するような人は少数だと思うんですよね。

 矛盾点として転送装置に義体が何体もある設定は無理があるし、ゲーム終盤の2Bのあれこれは「うん?なんかおかしくない?」って感じ。加えてメインストーリーのほとんどは、「問題が起こった⇒そこへ向かえ!」というのがシナリオの流れなので、おつかい感が強いのも玉に瑕(話の流れだけ聞くとサブクエと勘違いしそうになります)。

 また、アンドロイドも機械生命体も虫けらのようにポンポン死んでいきますので、あまりに死にまくりの様相を見ていると、見ているこちらは何となく冷めてきて、ちょっとした茶番にも見えてしまうのは難点でした。「はいはい、どうせこの後こいつら死ぬんでしょ?」みたいな。絶対に死なないご都合主義もどうかと思いますが、あまりに命が軽く描かれるとチープに見えてしまうのは仕方がないことです。

 余談ですが、1~2週目のエンディングで2Bがどう見てもパンツ丸出しですし(アンダーウェアというやつなのかも)、機械生命体のボスが「ニイチャン、二イチャ―ン!」言い過ぎて、シリアスな場面なのに自分はどうしてもギャグというかネタに見えてしまい、笑ってしまいました(苦笑)。

(2)2週目以降はゲームとしては微妙な作り

 本作のストーリーは周回毎に主人公が変わり、違う結末を迎えていくという構造です。これが何を意味するかというと、皆さまが大好きな2Bが実質1周で途中退場することになります(3周目の序盤だけ2Bの操作機会はあります)。2Bはあれだけネット上で人気があって知名度があるキャラですから、「そんなの嘘でしょー?」と思う人もいるかもしれませんが、まぎれもない事実です。

 厳密に言うと、2週目の主人公は9Sで、そのお供として2Bは付いてきてくれるのですが、2Bは元々ほとんど喋らないので、お供になるとさらに存在感が希薄になります。こちらはネタバレに当たるかと思い、書くかどうか迷いましたが、発売からかなり時間が経っているゲームですし、これから初めてプレイする人は知っておいた方が良いと考えたので、あえて書きました。

 実際のところ、2B途中退場はキャラ愛思考の強い人にとっては致命的な問題だと言えますし、一応最初からこのことを知っていればがっかり度が薄まるかと思いましたので。

 おまけに9Sは2Bに比べると基本的な戦闘能力が低く、武器が一本しか持てないので、アクションゲームとしての面白さはかなり下がります。さらにこの人はハッキングをスキルとして持っていますが、このハッキングは毎回、面倒なシューティングをやらされるだけで全く面白くありません。

 しかも、1週目と2週目はストーリー展開が一緒なので、9Sの視点になったとしてもあまり違いはなく、プレイヤーからするとただの使いまわしにしか見えないでしょう。一応、2週目から1週目で明かされなかった謎が小出しにして明かされていくのですが、肝心の大きな謎が明かされるのはエンディング手前なので冗長さを感じます。ストーリーの視点を変えたいという気持ちはわかりますが、肝心の9S操作がつまらないのは、アクションゲームとしては本末転倒であんまりな作りでしょう。

 個人的な好みもありますが、9Sはキャラクターとしての魅力が薄く、あまり好きになれないというのも大きいです。丁寧口調で軽口を叩くキャラって悪役には適していると思うのですが、あんまり旅のお供にはしたくないなーていう印象を受けました。とりあえず持ち味の軽口があんまり面白くないというのが最大の問題だと思います。まあ可愛い女の子キャラだったらこういう性格もありなのかもしれませんが、なんとなく鼻につくキャラではありました。3周目は実質、この人の荒みっぷりを眺めるのがメインのゲームになっているのも問題ですしね。

 ちなみに3周目の主人公は2Bでも9Sでもなく、違うキャラになっています。こちらのキャラは2Bと同等の性能ですが、1~2週目ではちらっとしか出てこない程出番がないので、3周目になっていきなりこの人が主人公になれば、「あんまり知らない人を主人公にされてもなー2Bの方がいいんだけど?」と感じる人は多いと思います。流石にこのキャラにいきなり愛着をもてと言われても無理があるかなと(この人の過去はアーカイブを確認してねっていう作りになってますし)。

(3)面倒なだけのサブクエスト

 サブクエストの内容はほとんどおつかい(レースのようなミニゲーム的なものもほんの少しありますが)。ユーモアもシリアスもあるお話は多少は楽しめるものの、メインストーリーで足りない部分を補完するような内容ではなく、ただ報酬や実績のためだけに用意されているのが寂しい。

 あと、一部のサブクエは少しストーリーを進めただけで進行不能になったりするので、ただただ面倒だなーという感想しか出てきません。

(4)アクションゲームとしては底が浅い

 アクション部分は初心者やアクションが苦手な人に対する配慮は素晴らしい一方、底が浅い作りになっているのは残念。コンボや敵の種類は多くないので、戦闘はワンパターンになりがちでした。そもそも主人公として操作するキャラのアクションにあまり違いがなく、9Sだけ劣化して、しょうもないハッキングスキルがある程度の調整なのが問題です。

 開発側がバリエーションを広げようとして入れたと思われるシューティングゲームは絵面がド派手なので、1週目の時点では楽しめましたが、たかがミニゲームの癖に何回も出てくるのは流石にナンセンス。特にハッキングのミニゲームはただ面倒なだけで完全に蛇足でした(評価できるのは16bit風ピコピコシンセが効いたBGM部分だけ)。

 3周目の9Sルートでは地味に難易度の高いハッキングミニゲームをしつこく何回もやらされるので、イライラが募りました。そもそも「何でハッキングがシューティングゲームなんだよ!おまえ、優秀なスキャナーモデルなんだろ?スクリプトやバッチファイルを走らせて終わりにしろよ!」って9Sにツッコみたくなること請け合いです。

 また、敵とのレベル補正や各種強化要素といったRPG向けの調整が強すぎて、1週目から難易度ノーマル以上でプレイするのはただ面倒で、怠いだけ。こうなると純粋なプレイヤースキルだけで戦いたい硬派なアクションゲーム好きには嫌がられる可能性は高いと感じました。

(5)狭いオープンワールドのせいでスケールが小さい

 本作は一応オープンワールド仕様なのですが、マップはちょっとした箱庭に過ぎない程度の規模なので、スケール自体はかなり小さいです。ストーリーは宇宙を巻き込んでいる戦争の割には、地球の特定の狭い箇所だけでお話が展開するというのは、どうにもこじんまりとした印象を受けてしまいます。

 しかし、マップの規模は小さいのですが、操作キャラの移動速度はあまり速くなく、メインストーリーもサブクエストもかなり歩かされるので、移動は常に怠いと感じました(帰り道も転送装置まではどちらにしろ歩くしかないので、だるい)。2週目では機械生命体をハッキング操作してゲームを進行させる場面がありますが、こいつらは移動が遅すぎて本当に嫌になります。

 ちなみに、回避行動の後にダッシュできるので、こちらのテクニックを知っていると多少楽になりますが、マップが狭いのに面倒という感情をプレイヤーに感じさせるのは良くないなの一言に尽きます。

★まとめ

 あくまでもストーリーがメインかつ、RPGとしての調整が強めということで、いかにも日本産らしいゲームだなーと感じました。はっきり言ってプレイ感覚はアクションゲームというよりは、The JRPGといった印象。ストーリーを追いつつ、自軍を強化しながら進めることに喜びを感じられるタイプの人であれば、楽しめるのではないでしょうか。

 ただ、ストーリーがイカレ気味でぶっ飛んでいる分、人を選ぶのは間違いないですし、9Sが主人公である2週目の蛇足感が半端ない。そして、何といっても本作の顔で、象徴と言っても言い過ぎではない2Bが2週目から実質退場してしまうのがあまりにも痛い。前述した通り、2Bは3周目序盤で少しだけ操作機会がありますが、設定や展開的にもヨコオタロウ氏がどう考えても9Sを話の軸にしたいという意図があるらしく、2Bはそのための生贄というか出汁になってしまっているような印象を受けました。

 ストーリー展開に予想外の変化球を入れたくてそうしたのだと思いますが、キャラゲー的側面が強いゲームでこれは悪手なのは間違いないでしょう。まあこちらに関しては、狂ったシナリオに定評があるヨコオタロウ作品にそんな正論を言っても仕方がないですし、こんなことをヨコオタロウ氏やその信者に行っても「そこがいいんだろう!わかってないなー!」とか言われるだけなのでしょう(苦笑)。

 ゲームが進むにつれて勢いを増してくるヨコオタロウ節にシンパシーを感じてしまうような人はいわゆる信者という存在になりますが、そこから外れてしまったプレイヤーには「そこそこ面白い」程度の評価に落ち着いてしまうのは間違いありません。全体的なクオリティ自体は水準以上に高いゲームですが、熱狂的な信者とそれ以外の人で最終的な評価はだいぶ変わってきます。

 個人的には熱中度は高く、こだわりは感じられる仕上がりは好印象でしたが、3周目の9Sルートで、3回も同じような塔を登るといったゲーム進行や、何回もイライラさせられたハッキングミニゲームのせいで、本作の最終的な評価に加えて、開発と9Sに対する好感度もかなり下がりました。

 とりあえず、1週目は純粋に楽しめましたが、2週目以降はストーリーを追うだけのオマケだと思っていただいて問題ないかと思います。

 まあ色々不満は漏らしましたが、最後のエンディングのインパクトは確かに強烈ですし、ヨコオタロウ作品でしか味わえないユーモアの中に滲む毒や狂気そのものは、味わう価値はある感じましたので、セール時なら普通におすすめしたい作品です(DLCを含むとはいえ、Xbox版の定価は8,000円ほどなので、流石に割高感が強い)。


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