見出し画像

『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』レビュー・評価・感想 「キレッキレな堀井雄二節炸裂!冷え切った現代だからこそ思い出したい本当の勇者の定義」

Xbox版『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』の感想を以下に書きます。

結論

以下の要素が全部当てはまる人におすすめです。
(1)昔からのドラクエシリーズファン
(2)王道こそが至高であると信じている人
(3)邪悪な存在から世界を救いたい人

長所

(1)怒涛の展開が熱く、まっすぐだからこそ胸を打つ超王道ストーリー

 ストーリーは勧善懲悪もので、過去のドラクエシリーズのものよりひねりがなく、はっきりいってお話としての目新しさは全くないです。しかし、今の時代、こういうお話が本当に味わい深く、すっと胸に染み入ってきます。現在、我らが祖国である日本はさかのぼるとリーマンショックやコロナ禍などで絶賛不景気中で、ネットのSNSなどを見れば誹謗中傷や汚い言葉ばかりで、どうもネガティブな印象を抱いてしまいます。確かに人間は経済的に貧しくなると、心まで貧しくなってしまうのは間違いありません。

 また、最近の創作物の設定などにも変化が見られ、例えばラノベや漫画あたりは勇者は勇者でも、善意で人助けなどは絶対しない「悪の勇者」が主人公というのも目立つようになりました。

 もちろん、個人的にはそういう「悪の勇者」設定を否定する気は全くありません。多様性や人間の本質を考えれば間違いなくこちらも勇者の定義の一つと言えるでしょう。

 しかし、王道のカウンターカルチャー、つまり変化球として出てきた「悪の勇者」に逆に異を唱えるのが、この『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて S』というゲームなのです。本作のストーリーを体験すれば、誰もが弱い立場で苦しんでいる人々を救う本当の意味での「勇者」になれます。現実世界には真実の愛も、本当の意味での平和もないですし、弱者は容赦なく踏みにじられます。戦争を好んで起こすような独裁者をこらしめることもできません。

 そんな世の中を顧みたうえで本作をプレイすると、現代に生きる人間が思い出すべき素晴らしい心意気を随所に学ぶことが出来るのが最高です。だって、今時、「勇者とは決して諦めない者のことを言うのです!」とか、「世界が闇に染まろうと人間の愛と勇気は消えることはないのです」なんてまっすぐにもほどがあるセリフが飛び出したりするんですよ?こんなまっすぐなセリフ、最近ではドラクエくらいしか聞いた覚えがありません。これは何十年も「勇者が魔王を倒して世界を救う」なんていう愚直にも程がある物語を続けてきたドラクエシリーズだからこそ説得力を感じさせます。

 繰り返しになりますが、本作のストーリーは全く目新しさはありません。人によってはひねりがなさすぎて刺激が足りないなんて思う人、何十年、同じような古臭い話やってんだと吐き捨てる人もいるかもしれません。それでも本作で描かれるまっすぐな友情、隣人愛、親子愛、兄弟愛には感動しましたし、誰の一番にも特別にもなれない私のような人間が勇者になって世界を救うロールプレイが出来るのは、もう現代ではドラクエしかないと確信しました。現実世界では絶対に世界を救ったり、誰かに称賛されるような人間にはなれませんが、本作をプレイして、「決して諦めなければ特別な存在でなくとも誰もが勇者になれる、もしくは勇者のように輝けるのでは?」、そんな前向きな感情が浮かんできて、心がぽかぽかと温かくなりました。

 目新しさや変化球、斬新な設定などなくてもここまで人の心を動かすことができるのは素晴らしいの一言。堀井雄二先生と開発チームの皆さまには尊敬の念は禁じえません。思わずスクエニのビルがある方向に向かって敬礼してしまいそうになるほどには感服いたしました。

(2)作り込まれたグラフィックと2Dと3Dの二種類を作る異常なまでのこだわり

 私がプレイしたのはXbox版ですが、PS4無印版からSwitchに向けて劣化移植されてきたとは思えないほど、グラフィックのクオリティは高いです。ムービーもかなりハイクオリティでよほど目ざとい人以外は劣化自体は気にならないと思います。

 今年の話題作である「エルデンリング」は新しい町に着いても、人などは一切おらず、敵がうろついてるだけというオープンワールドRPGとしては失格とも言っていい作りでしたが、ドラクエは新しい町に着くたびにそこに住んでいる人たちの暮らしを眺めることができます。会話パターンもイベント進行に応じてちょくちょく変化するので、ついつい住民に話しかけてしまいたくなるのは本当にドラクエシリーズの良い所だと思います。やはり、新しい町に到達する度に、住民の息遣いを感じさせるような作りのRPGは最高。

 また、本作は2Dモードと3Dモードの二種類が用意されていますが、大作RPGのグラフィックパターンを2種類用意するのは、はっきり言って頭がおかしいです。こちらは後述する本作の特徴の一つである「ドラクエシリーズファンに対しての過剰なファンサービス」の中に組み込まれていますが、恐ろしいほどの手間と工数がかかっているのは素人目にもよくわかります。

 個人的にはイベントシーンも戦闘も味気がなくなる上にやたらエンカウント率の高い2Dモードにはそんなに思い入れはないですが、自軍の経験値や装備などを引き継いだまま、過去のストーリーに遡れる機能はとても良いなと思いました。2Dモードの有無はともかく、こういうチャプターセレクトみたいな機能は今後も欲しいですね。

(3)目新しい設定がなくとも魅力的に映るキャラクター

 仲間になるキャラもメインストーリーで絡むキャラもドラクエシリーズにはありがちだなと思うような設定や容姿が多く、やはり目新しさはありません。

 しかし、どのキャラにも重いバックボーンが用意されており、必ずこちらを熱くさせる見せ場が用意されています。11Sの追加ボイス&追加ストーリーのお陰でイベントシーンのエモさも倍増しており、ゲームのエンディング後には、仲間たちと別れるのが本当に名残惜しいと思うほどでした。

(4)シンプルさを残しつつ、テンポが良くなったバトルシステム

 基本的なバトルシステムは相変わらずドラクエ以外の何物でもないですが、パッシブスキルや両手杖の特性などにより、わりと魔法は連発しやすくなりました。従来のドラクエであれば、魔法使いと僧侶はMP温存の為に、ボス戦までは雑魚敵相手に杖で殴るか、防御するしかないなんていう不毛な戦い方を強いられましたが、本作はボス戦の前には大体補給地兼セーブポイントが配置され、雑魚敵にもそこそこ気軽に攻撃魔法をぶっ放せるので、だいぶテンポが良くなったのが好印象でした。

(5)流行を取り入れ、過去シリーズの古臭さを払拭しようとする努力が見える

 最近のRPGにはお決まりになった素材を集めて、武器や防具を作るクラフト要素があったり、貴重なアイテムの入手手段が増えていたり、経験値やアイテムドロップ率増加などを狙える手段も用意されているのはかなり快適。ドラクエ11Sからの追加要素なのですが、店で買える素材はクラフト中にお金でパッと取り寄せることが出来るのも非常に良いと思いました。

(6)パロディやオマージュ連発の過剰ともいえるファンサービス

 本作は過去のドラクエシリーズをプレイしている人に向けたファンサービス要素がふんだんにちりばめられています。例えば、場面によっては過去シリーズのBGMが流れたり、冒険の書クエストでは過去のドラクエシリーズの町やダンジョンに行くことができます。まさか2022年にサマルトリアの王子を探すことになるなんて夢にも思いませんでしたが、これは昔からのファンは感涙ものでしょうね。

 余談ですが、キャラクターデザインを担当している鳥山明大先生の代表作「ドラゴンボール」のフリーザ様と全く同じようなセリフを言うボスが出てきたり、なんか見た目がセルっぽいボスがいたりするいわゆる身内ネタもあり、私は思わず笑ってしまいました。

短所

(1)一部の面倒なクエスト

 クエストは報酬こそ豪華ですので、やる価値はありますが、昔行ったダンジョンの最深部に行けとか、ルーレットでジャックポットを出せとか、れんけいで敵にとどめを刺せとか一部のものはかなり面倒です。

 個人的にはれんけいとカジノ関連のクエストはばっさりカットしても良かったのではないかと思いました。

(2)あまり変わり映えしないおしゃれ装備

 本作にはおしゃれ装備と言われる、入手するとキャラの服装が変わるものが用意されています。こちらのおしゃれ装備があまり変わり映えしないものばかりだったのが残念。マルティナの水着がきわどいと言いつつ全然きわどくなかったりするのは仕方ありませんが、変化がほとんど色違いだけというのは寂しすぎました。

(3)れんけいの存在感が薄い

 複数のキャラがゾーンに入るとれんけいが使えますが、はっきり言ってほぼ「スーパールーレット」しか使いません。れんけいのモーションは結構作り込まれているので、見るのが楽しいことは間違いないです。しかし、ゾーンに気軽に入る手段はゲーム終盤までお預けですし、れんけいを使うとゾーン状態が解除されてしまいますので、れんけいを気軽に見て、目で楽しむことはほとんどできません。ボス戦は補助や攻撃ではっきり役割が分かれて忙しいので、れんけいを使う暇がないのは寂しく感じました。

(4)使いまわしが目立つ冗長なやり込み要素

 本作は終盤にやり込み要素が用意されていますが、ほぼおつかいか、使いまわしのダンジョンで使いまわしの敵と戦うだけなので、どうしても冗長な感じは否めません。ソシャゲの周回よりはマシとは言え、もう少し何とかならなかったのか・・・。

(5)感情移入しづらい正妻のエマ

 本作は何人かのキャラとの結婚&同居要素が用意されていますが、ストーリーの正史では正妻と思われる主人公の幼馴染エマにはどうも感情移入しづらいのが難点と言えます。ゲーム開始当初は一緒に行動してくれますし、顔もモーションもいちいち可愛いので、当初は本当にいい娘だなーなんて思ったりもしましたが、その後は中盤と終盤にチラッと出てくるだけなので、存在感が薄いのが厳しい。

 ストーリー終盤にはセーニャとベロニカの熱い展開が用意されている為、ほとんどのプレイヤーは一緒に命をかけて魔物と戦った仲であるこちらの二人を伴侶にしたいと思うのはいたしかたないと思います(ネタバレになるので詳しくは言えないですが、ベロニカは命がけで主人公を守るので、普段の言動からは想像できないほど尽くすタイプです)。この「ぽっと出のヒロインを嫁にしろと言われてもなー」感はドラクエ8のエンディングを思い出しますね(笑)。

(6)3D酔いしやすい

 本作のデフォルトのカメラ設定だとほとんどの人が3D酔いすると思います。私も例外なく気持ち悪くなったので、2Dモードでやるしかないのか?なんて絶望したりましたが、カメラ感度を最低にして、こまめに右スティック押し込みで正面にカメラ変更することにより3D酔いを克服しました。これを知らないと3Dモードでのプレイはかなりきついですね。

★まとめ

 個人的にはシステムやストーリーを含めた総合面ではシリーズ最高傑作と感じました。終盤の水増し感は気になるものの、プレイした人の心に確実に大きな爪痕を残す作りは素晴らしかったです。しかも、2022年9月現在、ゲームパスでもプレイできるのがすごい(ちなみに私はセール時に購入して確保しておきましたが)。本当にXboxに出してくれて感謝ですね。次回作も期待せざるおえない最高の作品でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?