見出し画像

WAN投稿のタイトルと内容の不一致およびその影響

 お久しぶりです。予定では、以下の「性別記載変更法(仮称)」の提言にツッコミを入れる予定だったのですが、仕事のバタバタで間に合わず…

 今週は、「WAN投稿のタイトルと内容の不一致とその影響」として短めの投稿を残したいと思います。

<WAN 石上投稿および石上投稿に対する反論投稿のタイトル一覧>
8/12 石上卯乃「トランスジェンダーを排除しているわけではない」
反論投稿
① 8/18 伊田久美子「『女性に割り当てられた公的空間』とは何か」
② 8/19 岡野八代「『トランスジェンダーを排除しているわけではない』が、排除するもの」
③ 8/20 遠藤まめた「やっぱりトランスジェンダーを排除しているのでは?」
④ 8/27&8/28 仲岡しゅん「法律実務の現場から『TERF』論争を考える(前編・後編)」
※いずれも敬称略

***************

 まず最初に不思議に思ったのは、石上卯乃さんの投稿は「女性の権利や安全」や「女性専用スペースの問題」について書かれているのに、なぜタイトルは「トランスジェンダーを排除しているわけではない」なのか、ということです。

 どういう経緯でそのようなタイトルになったのか私には分かりませんが、そのタイトルに引っ張られたのか、反論投稿4件のうち2件(②岡野氏・③遠藤氏)は「『トランスジェンダーを排除していない』と言っているが排除している」という主旨のタイトルになっています。

 岡野氏は、投稿の冒頭でこう述べ、その後は「1. なぜ、(石上投稿が)極めて悪質だとわたしが考えるのか」「2. 差別とはなにか」という主張を展開されています。

このたび、石上さんの記事を読み、なによりも抱いた疑問は、この記事はいったい誰に対して、どのような意図をもって書かれているのか、ということです。

 遠藤氏は「やっぱりトランスジェンダーを排除しているのでは?」というタイトルが付けられていますが、「排除している」と主張する根拠になりそうな箇所は以下の2ヵ所くらいしか見当りませんでした。

 TERFのTEはトランス排除という意味です。「女性の権利や安全に関心があるフェミニスト」であるだけでなく、トランス排除している人が一般にこう呼ばれます。
 「ジェンダー・アイデンティティこそが性別を決定づける」ことの影響に注視し批判もすると書かれていますが、実際にジェンダークリティカルの人たちはトランス男性に対して「あなたのセックスは女性なんだから、あなたは本当は女性だ」、トランス女性に対して「あなたのセックスは男性なんだから、あなたは本当は男性だ」と述べています。そのような姿勢こそが、トランスを否定する考え方、トランス排除的であると批判されているのではないでしょうか

 いずれも「TERFと呼ばれているから」「ジェンダークリティカルの人はたちはこうだから」という内容で、石上さん自身の投稿内容に対して反論しているのではない点が気になります。

***************

 岡野氏と遠藤氏がタイトルに引きずられて「トランスジェンダーを排除している」という話に展開したのと異なり、反論投稿4件のうち残りの2件(①伊田氏・④仲岡氏)の内容は「女性専用スペースの問題」であり、石上さんの投稿内容に沿ったものになっています。

 ただ、伊田氏の場合、タイトルも内容も「女性に割り当てられた公的空間」(女性専用スペース)ではあるものの、その認識は以下の通り、石上さんが問題提起した「現代日本の女性専用スペース(女湯・女子更衣室・女子トイレ)の問題」にはそぐわないものでした。

 性別二分法が適用されない場合は男性が基準であり、適用される場合は、より条件の悪い方が女性専用スペースとして割り当てられてきたのである。女性専用スペースとは、女性排除の結果として作られた付け足しの隔離スペースであり、歴史的には女性の安心安全のためだったとはいえない。

 また、MtF当事者である仲岡しゅん弁護士の投稿内容は、以下の通り「男性器のある人が女湯に入れないのはやむを得ない判断であり、合理的な見解」と明言したこと自体は評価できますが、なぜかタイトルが「法律実務の現場から『TERF』論争を考える」となっている点が気になります。

MTFが女性用公衆浴場を使えるかどうかは、私が把握している限り、公衆浴場組合では戸籍変更の有無にかかわらず、男性器の有無、すなわち性別適合手術をしているかどうかを基準としているようです。不特定多数が他人に裸体を晒す場の管理者としては、事の性質上やむを得ない判断であり、また合理的な見解と思われます。
 そして、そのことを前提とすると、冒頭のような、
 「男性器は付いてるけど、女性用浴場に入りたい、入らせろ」
という主張を実践した場合、何らかの合意を得ているなど特別な事情のない限り、建造物侵入罪の被疑事実で逮捕されるか、少なくとも直ちに立ち入りを拒否される可能性が極めて高いといえます。もし私がそのような法律相談を受けたとしたら、「やめときなさい」と言わざるを得ません。

 現在起きている論争の発端は「トランス女性は公共の女性専用スペース(女湯・女子更衣室・女子トイレ)を使用できるか」ということであり、「ペニスのある女性にも女湯を使用する権利がある」と主張したトランス当事者やアライ(支援者)に疑義を呈した女性達が「TERF」(トランス排除的ラディカル・フェミニスト) と一方的に呼ばれているだけなのですから、「『TERF』論争」「『TERF』をめぐる論争」などと呼ぶことは、全く実態に合っていないと考えます。

 実際、仲岡氏の投稿には「今回はしばしば論争の種になるMTFトランスの公衆浴場利用の問題について、実務的観点から解説を加えたい」とあり、「『TERF』をめぐる論争」については触れられていないと思います。

 「女性専用スペースの運用について懸念を示す女性達を『TERF』と呼ぶことの是非について議論すること」をそう呼ぶならともかく、なぜ「トランス女性の女性専用スペース使用の問題」を「『TERF』論争」と呼ぶのか、私にはいまいち理解できません。

 逆に「トランス女性の女性専用スペース使用の問題」を「トランス問題」と呼ぶことを忌避するトランス当事者の人もいますが、「女性問題」(古くは「婦人問題」)という言葉が「女性側に問題がある」という意味ではなく「女性が抱えている(直面させられている)問題」という意味であることを考えると、「『トランス問題』じゃない、『TERF問題』『シス問題』だ」という反論は筋違いだと思います。
 この問題で「『TERF』論争」という言葉を使う人には一体どういう意図があるのか、気になります。

※余談
男性の政治家や芸能人の不倫や浮気を「女性問題」「女性スキャンダル」と呼ぶことには違和感があります。この場合、問題を起こしているのは男性の方ですから…

***************

 今回のWANの一連の投稿を見て思ったこと。
 それは、タイトルや内容を「トランスジェンダーを排除している」「『TERF』論争」などと別方向に展開させるのではなく、「現代日本の『女性の権利と安全』と『女性専用スペースの問題』」という本来の議題から軸足をズラすことなく、真正面から議論していただきたい、ということです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?