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日本学術会議 法学委員会 LGBTI分科会の提言(Ⅱ)について①

 今週より、日本学術会議 法学委員会 法学委員会社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会(以下、LGBTI分科会)が、2020年9月23日付で公表した提言「性的マイノリティの権利保障をめざして(Ⅱ)―トランスジェンダーの尊厳を保障するための法整備に向けてー」について、疑問に思う点などを挙げていきたいと思います。

 内容が多岐にわたるため複数回に分けることとし、今週は「1.LGBTI分科会の提言の位置づけ」、「2,LGBTI分科会の設置目的」、「3.LGBTI分科会の委員構成」に触れます。

1.LGBTI分科会の提言の位置づけ

 トランス女性当事者でありトランス活動家でもある三橋順子非常勤講師は、2019年8月14日付のTwitterで「新・性別移行法の骨子は、すでに日本学術会議(総理大臣の諮問機関)に提起済みです。」と述べておられましたが、辞書や事典では日本学術会議について以下の通り解説しています。

 要約するとこんな感じになると思います。

<所管と独立性>
内閣府の特別機関で経費は国庫の負担だが、独立性は保障されている(日本学術会議法3条)【日本大百科全書より】

<目的と活動内容>
日本学術会議の目的は「科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させること」(日本学術会議法2条)で、目的実現のために政府への勧告・答申、声明の発表、国内・国際的な会議への参加、学術交流協力などを行う。【日本大百科全書より】

<会員選出方法>
2004年に日本学術会議法が改正され、210人の会員の選出が、学会ごとの推薦による首相任命方式から、現会員が後任の会員を選ぶ方式に変わった。【知恵蔵より】
210人の会員は,3年ごとに全国の科学者の選挙によって選ばれる。【ブリタニカ国際大百科事典より】

【参考】日本学術会議サイト「日本学術会議とは」

 総理大臣の諮問機関」と言われると、まるで日本学術会議が「総理大臣の諮問に対して研究者が答申を出すだけの機関」のように感じられてしまいますが、内閣府サイトに以下の記述がある通り、日本学術会議は政府からの諮問に応じた答申とは別に、自ら勧告・要望・声明・提言・報告等を行う機関でもあります。

政府からの諮問に応じた答申や審議依頼に応じた回答を行っています。また、科学者としての見解を政府や社会に対し提示しています。(勧告、要望、声明、提言、報告など)

【参考】内閣府サイト「日本学術会議事務局」 

 日本学術会議のサイトでは、それそれ以下の通りとされています。

●答申:専門科学者の検討を要する事柄についての政府からの問いかけに対する回答
●回答:関係機関から審議依頼(政府からの問いかけを除く。)事項に対する回答
●勧告:科学的な事柄について、政府に対して実現を強く勧めるもの
●要望:科学的な事柄について、政府及び関係機関等に実現を望む意思表示をするもの
●声明:科学的な事柄について、その目的を遂行するために特に必要と考える事項について、意思等を発表するもの
提言:科学的な事柄について、部、委員会又は分科会が実現を望む意見等を発表するもの
●報告:科学的な事柄について、部、委員会又は分科会が行った審議の結果を発表するもの

【参考】日本学術会議サイト「提言・報告等」

 今回のLGBTI分科会の「提言」は、総理大臣や政府からの諮問に対する答申とは異なり分科会が実現を望む意見等を発表するもの」であることを踏まえる必要があると思います。

 なお、このLGBTI分科会の提言は、日本学術会議第297回幹事会の議決において承認を受けて公表されたものです。

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 同幹事会の議事要旨によると、当時会長だった山極寿一氏や3名の副会長(※三成美保氏を含む)のほか、第一部(人文・社会科学)、第二部(生命科学)、第三部(理学・工学)の各部長・副部長・幹事(2名)も出席しています。

※LGBTI分科会委員長の三成美保奈良女子大学副学長は、日本学術会議副会長(組織運営等)でもありました。

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 以上の情報から「LGBTI分科会の提言(分科会が実現を望む意見等を発表するもの)については日本学術会議役員も賛同している」と理解していいのでしょうか?

 なお、審議事項の資料には「※第一部査読」と書かれており、人文・社会科学以外の分野、特に第二部(生命科学)の査読を受けていないことが分かります。

 果たして、発表された「提言」は、日本学術会議や政府においてどのように扱われ、どのように検討が進められていくことになるのでしょうか? 私は学界の事情に疎いため、今後の動向が非常に気にかかります。

2.LGBTI分科会の設置目的

 そもそも、LGBTI分科会はどのような目的で設置されたのでしょうか?

 LGBTI分科会は、第23期初頭の平成26年(2014年)10月23日付で法学分科会の下に新設された分科会であり、「設置提案書」には設置目的、審議事項、設置期間などが明記されています。

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 「設置目的」「設置期間」欄には以下の通り「3年の時限設置」と記載されていますが、LGBTI分科会は第25期(2020年10月〜)も継続することが決定しており、現在、設置7年目を迎えています。

●「設置目的」欄
課題の緊急性に鑑み、審議期間は 3 年間とする。

●「設置期間」欄
時限設置 平成26年10月23日〜平成29年9月30日
(2014年10月23日〜2017年9月30日)

 また、「設置目的」および「審議事項」欄には「性同一性障害者特例法」の改正について以下の通り記載されています。

●「設置目的」欄
審議の課題はおもに以下の 3 点とするが、審議の進行にあわせて、さらなる課題もあわせて検討する場合がある。
(1)「性同一性障害者特例法」の改正課題:国際比較を踏まえた「性同一性障害者特例法」の性別変更要件の見直し及び法名称の変更など。(以下略)

●「審議事項」欄
(1)「性同一性障害者特例法」の改正課題(以下略)

 第23期の「設置提案書」では「『性同一性障害者特例法』の性別変更要件の見直しや法名称の変更」が設置目的および審議事項とされています。

 「課題の緊急性に鑑み、審議期間は 3 年間とする」と時限設置であったLGBTI分科会は、第24期も継続されることとなり、新たな「設置提案書」が作成されました。

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 24期は「法学分野以外からも、医学・心理学・教育学・社会学などの分野から広く会員・連携会員の参加をいただきたい。」として定員を従来の「15名以内」から「25名以内」に拡大しました。

 また、「設置目的」や「審議事項」の欄には「1.第23期に出した提言のフォローアップ」などとあり、「『性同一性障害者特例法』の性別変更要件の見直しや法名称の変更」に対する具体的な記述は無くなっています。

審議の課題はおもに以下の3点とするが、審議の進行にあわせて、さらなる課題もあわせて検討する場合がある。
(1) 第23期に出した提言のフォローアップ(以下略)

【参考】LGBTI分科会が第23期に出した提言
「性的マイノリティの権利保障をめざして―婚姻・教育・労働を中心に―」

 ところが、2020年9月23日に公表された提言では「性同一性障害者特例法の速やかな廃止」と性自認を基準とした「トランスジェンダーのための性別記載変更法(仮称)の新設」を求めており、設置当初と比べると大幅に変化していることが分かります。

 当初3年間の時限設置だったLGBTI分科会が2期6年も継続され、その間、欧米諸国でセルフIDなどの動きが急激に起こったからという理由で当初の設置目的を大幅に超えた結論を出すには、議論や調査が不足しているのではないかと個人的には感じますが、その辺りは次週以降の投稿で明確にしていきたいと思います。

3.LGBTI分科会の委員構成

 最後に、LGBTI分科会の委員構成について個人的にまとめたものを掲載しておきます。

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 23期24期の委員は公表済みですが、25期については2020年10月1日に会員・連携会員の選出・交替が行われたばかりで、LGBTI分科会の継続と世話人(南野佳代京都女子大学教授)の決定のみが10月3日開催の法学委員会の議事要旨で公表されている状態です。

 よって、25期のLGBTI分科会にどの会員・連携会員が所属するかは不明ですが、24期までの委員のうち第25期日本学術会議の会員・連携会員名簿に載っている人をカッコ()で括って表示しておきました。

 これまでLGBTI分科会を牽引してきた三成美保氏と残り一人の会員だった伊藤公雄氏の両名は連携会員に変更となっていますが、委員長・副委員長・幹事(2名)は全員、連携会員として残留しており、LGBTI分科会の委員を継続する場合、過去2期の方針を大幅に変更することはないと思われます。

 また、表の中央部に(参考)として追記した通り、LGBTI分科会の役員にはジェンダー法学会の理事・監事が多く、同学会が日本学術会議のこの分野に強い影響力を持っているのだな、と思いました。

【参考】ジェンダー法学会サイト
(紹介)日本学術会議のジェンダー系提言(2020年9月発出の3件

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 本日は、提言の中身には触れず、LGBTI分科会の提言の位置づけ、設置目的、委員構成についての振り返りにとどまりましたが、より多くの女性に「性別記載変更法(仮称)」の問題を知っていただき、女性専用スペースをはじめとする女性の権利について考えてほしいと思っています。


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