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晩夏ノ茶会

令和五年 八月二十七日 午後

窓辺でぼーっと空を見上げていたビギナーは思った。

入道雲の泡立てが足りない。



そんなビギナーの気持ちを察したように、一通の手紙が届いた。



茶会か…。
久しぶりで少し緊張するけど、
夏の終わりを名残惜しみたい気持ちがある。


早速、行こう。



ーーーーーー

お邪魔します。


まず蹲(つくばい)で手を洗う。




茶室は、この扉の奥…










ガラガラ…


スッ…


ふぅ…



ふぅ…





ふぅ…


久しぶりの茶会であったが、
畳の匂いを嗅いだ途端、
そうだ。こんな感じであった。と、思い出してきた。

茶室に入ったらまずすること。
それは、掛け軸と花を鑑賞することだ。

茶会は亭主からのおもてなし。
亭主が揃えた、掛け軸・花・花器・お菓子に至るまで、すべてに意味がある。

その意味とは例えば、

茶席の趣旨や目的、あるいは亭主の心構えなどを示すというもの。
そしてもう一つは、季節感の演出です。

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である。

その亭主の心を感じ取ってこそ、茶会の醍醐味を感じ取れるというところだろう。


それではまずは、掛け軸を見させてもらうとしよう。









これは・・・





本来、色紙などを挟む用の紐に、枯れ枝が、挟み込まれている。



夏の終わりというには地味な風景のように感じ・・・

・・・・???!!!!


なんか、え、、、あれって、、、いやまさかね・・・



まさかね・・・・・





本当にセミの抜け殻!!!!!!!!!!!!!!!



!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



セミの抜け殻が掛け軸の外の棒に、乗っかっている。



こうして見ると、なんだか不思議と、掛け軸の布の変わり目が、地面と地上の境目のように見えてきた。。


セミの抜け殻・・・

日焼けしきった小枝から、こぼれ落ちたセミの抜け殻。

夏はセミが鳴く。
大きく鳴いていたセミは、いつの間にか鳴きやんでいて、
街の静けさを思い出させる。

一つの命が終わった、その静けさ・・・。


……。

つい、ぐっときてしまう掛け軸であった。


これは次も期待できる。
次は花を見させてもらおう。



ふむ…



…ほ!!!




おお、危なかった。
畳の縁(へり)は、踏んではいけないのだ。






…これは!!!












花火だ!!!


花器は強炭酸水 LEMON・・・


その花に近づくと、少し焦げた匂いがした。
その匂いにつられて、今年の夏に公園でした、花火を思い出した。

お菓子を買い足すために入った薬局のレジ近くで、花火セットでしか見ない大きさの、派手な薄い板を見つけて、はしゃいで買ったのだ。


自転車を漕いで公園に行くと真っ暗で、しかも誰かが「そういえばバケツとかないね。」とか言い出して、早く花火をつけないとと思った。
花火さえつけてしまえば、あとはどうとでもなるのだから。

ライターから直接花火の先に火をつけると、吹き出した閃光とみんなの驚いた声が重なった。
横の人に火をもらって、その横の人がまた火をもらう。
時には一人のもとにみんなで火をもらいに行って、そうして白く照らされた人々の円が出来た。


みんな、花火に照らされている部分だけ存在しているように思えて、花火が消えると、同時に、「あ」という声と共に、公園の暗闇に飲まれて、どこかへ、いなくなってしまうような気がした。


そのあっけない寂しさ・・・。

・・・。








まさに、心を感じた。
これが、茶の心だ。素晴らしい。
亭主はまだだろうか。


ガララ…


お。来たかな。


スッ…


パタン


サッサッ…


ストン


フェス終わりのような人が来た。



…。



本日は、お招きありがとうございます。


本日は、ようこそおいでくださいまして、ありがとうございます。
ささやかな茶席でございますが、ごゆっくりお過ごしください。


ありがとうございます。楽しませていただきます。


ここから、正客であるビギナーの腕の見せ所だ。
風情を交えながらの時候の挨拶。
茶会で最もしびれる時間と言っても過言ではない。



ゴホン……
えー、物の本によると太宰治は、「きゅうりの暑さから、夏がくる」と表現しました。
それでは、一体その終わりは、何で締めくくられるのでございましょうか。
みずみずしく青いきゅうりが少しさみしい顔を見せたと思ったら、あっという間にそこにはなすが立っています。
立ってこちらを見つめるなす。
なすは、おいしいです。
そしてきゅうりもおいしい。
選べない、おいしさ……
なすときゅうりって、そういえばどっちも割り箸を刺されて馬にされて、先祖に走らされている。
かわいそう。
不思議な風習によりかわいそうなことに。
というか、調べたらなすの旬はお盆らしい。
秋じゃなかった。
もっかい調べたら5月〜10月だって。
す〜ごい長かった。
秋も入ってた。



個人的には、頻繁にお腹が減りだしたら、晩夏の始まりかと思われます。



ふむ……。



それではまず、お菓子をお召し上がりください。


…。


お菓子!
それでは、あれを準備しよう。
お菓子を受け取るための、懐紙を。




この、白い紙の上でお菓子を受けて、
小さな刀で一口サイズに切って食べる。


本日のお菓子です。


実家の冷蔵庫に入っていた、マンゴープリンです。


実家の冷蔵庫に入っていた、マンゴープリン。











それでは

お茶を


(遂にお茶を…!!!)


お茶を。点てる。
まずはこちらのお湯で、茶碗を温める。



お湯に茶筅を入れてほぐしたら、


お湯を捨てる



抹茶を入れ、


お湯を入れたら、


手首をきかせて、お茶を点てる


出来上がり



すっ


どうぞ…


すっ









どうぞ。


お点前、ちょうだいいたします。




ずず、ずずず……ず!


…!

お茶を飲み終わったちょうどその時、
夕方五時のチャイムが──


今日はなんだか──


胸に響いて──



夕日はあまりにも激しく輝いていて、
四畳半の茶室は、そのまま橙色に飲み込まれてしまうように思えた。



夏は大きな線香花火。
その火がゆっくり落ちていく。
知らない街で、知ってる匂いが一瞬だけ通り過ぎた時のような、
幻のような思い出を残して、

夏の最後の火が落ちていく。






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